18話 キス
燈子はさっきの言葉が気に掛かり、テーブルからまた少し離れ、出た所はテラス席だ。
(少しだけ)
夜風に当たれば頭が冷静になるかもしれない。
まだ七月の夜風は生ぬるいけどそれでも燈子は一人になりたかった。
遠くに月が見え庭の芝生やエミリーが育てている花壇の花の匂いが香り、夏らしい気配に囲まれ深呼吸すると少しだけ気持ちが落ち着いてきた気がしたその時
「燈子さん、どうしたのそんな所で?」
暑くない?
はいレモネード飲む?とカイがにゅっと横の扉から急に出て来たので燈子はきゃ!と驚いた。
悲鳴を上げた燈子に
「なんか驚かせてごめん!」
とカイは謝ると
「いえ、私こそすみません。すぐに戻ります」
カイの後ろの扉に向かおうとするが
「いいよ。ここにいたかったんでしょう?これ一緒に飲もう」
レモネードをニコッと差し出され
「頂きます」
とお辞儀をし燈子はグラスを手に取った。
カイのワインと乾杯だ。
「なんか楽しそうだったね。何話していたの?」
アレックスとの会話が気になったのかそうカイが聞いてきたので
「アレックスさん輪島様と会えて楽しかったって」
とそのまま伝える。
「ふーん」
カイはあたり触りない回答に納得したのかしてないのか聞き出しておいて話半分といった感じだ。
「前から言おうと思ってだけどその呼び方」
不満そうな顔でカイは燈子に詰め寄る。
「!?」
急に距離を詰められ燈子は
(何か気を悪くさせた?輪島様って何か変かしら)
と混乱していた。
すると、それを感じ取ったカイは
「いや、怒ってるんじゃなくて寂しいというか」
「はあ?」
「アレックスは名前呼びなのに俺には苗字に様ってなんかよそよそしいんじゃない?」
そんな事を真面目に言われ更に燈子は困惑する。
「だって輪島家のご当主ですよ!」
他に呼び方なんてあるのだろうか!?
「関係ないよ!
ほら俺の事も名前で呼んでみて!」
「無理ですよ!」
「アレックスの事は名前で呼ぶのに?」
確かにそうだ。
でも燈子は妻でも友達でもない。
輪島家の当主で輪島の社長。
それがカイなのだ。
「燈子さんは俺のお願いを聞いてくれないんだね」
すっかりカイは拗ねたようで下を向いてしまった。
「じゃあ、なんとお呼びすれば?」
「カイでいいよ!」
もちろん!と言いたげにカイは期待した眼差しで燈子を見るが呼び捨てなんておこがましい。
「カイ様」
しばらくし、やっと言えた名前に
「ええ〜、なんで様なの!?」
ほらカイって呼んでよとしつこく粘ってみたがそれは燈子の
「もう、勘弁して下さい!」
を渋々受け入れカイは諦める事にした。
「そういえば燈子さんが言ってたドレッサー、化粧台売れたよ」
「よかった」
「本当に。結構こっち(英国)ではありふれたデザインなんだけど、なんで売れたんだろ?
燈子さんはまるで預言者だな」
ギクリー。
何気ない言葉につい反応してしまう。
「燈子が家に来てくれて不思議な事ばかりだ!」
そんな事に気づかずカイは無邪気に笑う。
気付かれずによかったと安堵する。
そしてカイの役に立っている事実が燈子も嬉しくて堪らない。
(こんな日がずっと続きますように)
空の満月を見ながら燈子は思った。
その横顔をカイは見ながら燈子の長い髪を指で少し摘みそっとキスをした。
一瞬、時が止まったかと思うと耳を赤くしたカイが後ろを向いてドアを開け
「部屋に戻ろう」と促した。
燈子は酔ってはいない。
だが何故かそれからフワフワする高揚感は何日も収まらなかった。
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