16話 面白くない話と夏の納涼祭
「燈子さんが家に来てくれて本当によかった」
とカイに言われて数日が経ち、燈子の頭は気を抜くとその時の事ばかりになっていた。
針仕事中は千代が一緒にいるからかまだ大丈夫なものの朝と夕方はオウムのユキに勘づかれたのか
「トーコ ドウシタノ」と聞かれその度に「なんでもないわ」を繰り返す。
あまりにそんな事が続くとイラついたのかユキは燈子が持って来た餌に手を付けなくなってしまったので仕方なくおやつのナッツをあげて機嫌を取った。
このままではいけない。
けど、燈子は輪島家に来て自分が少しでも役に立てたと思えたからか欲が出てきてしまったのだ。
(だって、しょうがないじゃない)
高柳ではこんな風に本心からそんな事言ってもらえなかった。
「とにかく気を引き締めなきゃ」
その頃、高柳は久しぶりの三ツ橋の滅多に行かない視察に出かけた。
自分の店は相変わらずの賑わいぷりの変わらない光景だが店の者に形だけ顔を出してすぐ店を出ると次の目的地に向かう。
上の階にある輪島だ。
一目見るだけで以前と客入りから客層が違うのだ。
店に近づくとその理由が分かった。
リボンだ。
「くだらん」
一人呟くとその場を離れる。
輪島の客足が戻ったと一瞬元康は危惧したがテコ入れし、夫人小物を置き出したところで高柳から見たら脅威でもなんでもない。
「無駄足だった」とその後はランチを済ませると元康は高柳の家に帰って行った。
しかし茉莉は違った。
最近、街中や帰り道に素敵と思ったリボンがあった。
しかし、下校中耳にしたのだ。
上機嫌にその気になっていたリボンについて聞かれ、答えていた上級生の言葉を。
「何て店だったかしら。初めて入ったお店だったから。たしか三ツ橋の『しま』が付いてたっていうのは覚えてるんだけど」
そう聞いて茉莉は耳を疑った。
リボンのお店を聞かれた上級生とその友人は
「もう。お店の名前くらい覚えておきなさいよ」
「あなただってそうゆうとこあるじゃない。そんなに気になるならまた今度一緒に行けばいいじゃない」
「ええ、そうしましょう!」
という会話を繰り広げていた。
憧れを勝手に汚された様な感情に茉莉は唇を噛み締め、高柳の屋敷に帰って行くのだった。
*
カイと燈子が三ツ橋から帰って来て数日が経った後、「頼もしい奴」からの大量の贈り物にカイは頭を悩ませていた。
「礼の手紙を送ったらすぐこれだ」
気を良くしたアレックスは大量のレースや服や手鏡やドレッサーを送ってきたのだ。
「アイツ、うちをガレージセールか何かと思ってるな。うち(英国)で売れないからって三ツ橋の納涼祭でセールで出して売れるのかこれ?」
見た感じは西洋のお洒落な化粧台だ。
カイの目を盗んで燈子は素手でそっと化粧台に触れると洋服を来た夫人がその鏡に向かって髪を櫛でといている様子が視えた。
という事は未来ではそれが売れたという事だ。
「日本人には気に入ってもらえると思いますから試しにお店に置いてみてはどうでしょう?」
「ええ?売れるかな」
相場より値下げして出してみてはと説得するとカイは
「燈子さんがそう言うなら」
と渋々了承してくれた。
(やったわ)
手袋をはめ直す前も一度化粧台に触れると今度はなぜか夕陽に黄昏るカイの後ろ姿が視えた。
そのは、どこか寂しげに見えた。
「え?」
もう一度、そこに触れるが視えるのは念入りに化粧をする先ほどの女性だ。
「燈子さん、どうしたの?顔少し青いけど」
固まる燈子にカイが気にかけるも
「大丈夫です。ユキのお水、少なくなってたかもって。
ちょっと見てきます」
「そう?アイツはどっちかというと餌が少ないと機嫌悪くなる奴だけど。まあ、いってらっしゃい」
「ユキ、輪島様大丈夫かしら」
さっき視た事をユキにぶつける。
(私、彼の役に立ててるのかしら?)
せっかく輪島様に褒められたのにと意気込んでいた矢先、不安だ。
「カイ ダイジョーブ」
「本当に?」
ユキの返事じゃ緊張感を感じない。
ユキには燈子の考えが分かるのだろう。
不機嫌そうにくちばしを鳥籠にカカッと攻撃する。
「分かった。ユキを信じるわ」
そう言い切るとユキ理解したのか大人しくなった。
(大丈夫。準備まで時間はあるわ)
納涼祭までにはニヶ月近くはある。
燈子と千代の小物作りに拍車がかかり、送られたレースや布は夏用の扇子や女学生が教科書を入れる風呂敷に姿を変え、商品は大いに増えた。
これにはカイもエミリーも驚き、その日は千代も含めて労いと納涼祭の勝運の前祝いという名目でランチとおやつはいつもより豪華なものになった。
*
そうして夏の納涼祭は始まった。
カイはテナントオーナーは会合があるのでと同じ建物内にあるオフィスに行ってしまった。
燈子にしてみれば輪島として他の店と売上を競い合うイベント事は初めてだ。
通年の事だが、三ツ橋の納涼祭関わらず百貨店のイベントの一番の売り上げの高柳だ。
父、元康は最終日の会合打ち上げの時だけ顔を出しに行っていた気がする。
(今年もきっとそうよね)
燈子も搬入作業を朝から手伝い、昼前に千代と落ち合い店を回る予定で三ツ橋の一階で待ち合わせをしていた矢先、知っている人物から声を掛けられた。
「燈子。お前来ていたのか」
父だ。
(どうして?)
いつもだったら納涼祭の期間は屋敷にいるはずだ。
「お久しぶりです」
お辞儀をするも掛ける言葉が思いつかない。
高柳にいた頃と違う格好の燈子を見て納得したのか
「上手くやってるみたいだな」
と父にしては珍しく気を良くしたのかそんな言葉を聞けた。
「はい。輪島様には良くして頂いております」
早とちりで輪島邸に居候させてもらっているがその件にはカイから話を父に付けてもらわなくてはいけない。
「輪島殿に挨拶をしたかったのだが、どこにいるか知らないか?事務所に行ったが見当たらなかったからかおおかた他の店を見に行っていると思ったのだが」
会合はすぐに終わるからその後各店舗を回るとカイは燈子に言っていた。
「すみません。確かにお店を見て回ってると思いますがどこにいるかまでは」
頭を下げると
「そうか。まあこちらで探してみるさ。そうそう先程輪島にも寄ってみたのだが随分とテコ入れをしたみたいだな。あれじゃあ家具屋ではなく夫人小物屋だ」
嫌味に同意する事もできず下を向いてると父は疎ましいのかため息をついてその場を去っていった。
「燈子ちゃん、お待たせ」
待ち合わせ時間になり、いつもよりおめかしをした千代が燈子に駆け寄る。
「大丈夫?燈子ちゃん顔色が悪い気がするんだけど」
私待たせすぎたかしらと心配する千代に
「大丈夫よ。少し暑かっただけ」
「だったら先に涼みに行きましょう」
私も暑かったのと千代はそう言うと燈子をカフェーに向かって行った。
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