9話 ここに来れてよかった
それからの時間は思ったより早く流れた。
「へえ、やはり元康殿も自ら店に入れる物を選んでいるのか」
(流石に私が「視て」選択してるなんて言えないわ)
ここは誤魔化そうと燈子は話をぼやかし会話をする事にした。
「はい。父曰くこだわりがあるみたいで。
あ、でも時に私にもどちらの方がいいか聞く時もありますよ」
「へえ。顧客目線は大事だからなあ」
なるほどねとカイは燈子の話に聞き入ってくれたみたいで燈子はほっとため息をついた。
「私もトーコさんお家のお店の話を聞けて嬉しいです」
エミリーも燈子の話に興味深々だ。
「今日のディナーはトーコさんが来てくれたし、うんと豪華にしなくちゃね」
「でぃなー?」
「夕食だよ」
カイが和訳すると燈子は
「いえ、お構いなく」
「いいのいいの。最近、スープやポテトばかりでたまには豪華にしたいじゃない。こうして燈子さんが一緒に住んでくれるからたまには食事くらい豪華にできる口実ができる。エミリー、うんと美味しいのをお願いね」
「そんな、悪いですよ」
「いいの。これも俺の命令だよ」
遠慮する燈子にカイは優しく悟す。
「はい。ありがとうございます・・・」
その日の夕飯はエミリー特製のステーキや野菜のテリーヌが出され、カイは久々のご馳走に喜び、燈子はカイに教わりながらカトラリーを使い初めて洋食を食べた。
「燈子さん、大丈夫?」
「すみません。美味しくて食べ過ぎたみたいで」
どうも今日一日、初めて食べ慣れない洋食をたくさん食べたせいか燈子のお腹は貼ってしまったみたいだ。
「大変だ。部屋で横になって、安静にしといた方がいい。エミリー、お願い」
カイの言葉を聞きつけエミリーが燈子に手を貸してゆっくり燈子を客室に送る。
「エミリーさん、すみません」
エミリーさんだって重かろうにと燈子は申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
「大丈夫です。ここがトーコさんのお部屋ですよ」
ベッドに案内され腰を下ろしエミリーに横になるように言われ従う。
(一見、驚いたけど意外と寝心地は大丈夫そうだわ)
高柳で使っていた古く固い布団より何倍もフワフワな布団が燈子の身体を支える。
気がつくと燈子はいつの間にか寝息を立て眠りに入っていった。
「エミリーありがとう」
燈子を寝かせて一階に降りて来たエミリーにカイは声を掛けた。
「今トーコさん寝てしまったから大丈夫よ」
「そうか。大事じゃないといいんだけど」
「そうね。明日になるまで様子を見ましょう」
そうして燈子の輪島家の一日は過ぎていった。
(いけない!つい寝過ぎたわ)
翌日、目を覚ました燈子は急いで階段を降りキッチンに向かった。
高柳の家で今の時間起きたら朝食も準備しないなんて何事かと叱咤される頃だ。
「エミリーさん、遅くなってすみません!」
そう声を掛けるとエミリーはポカンとして
「トーコさん、もうお身体は大丈夫ですか?」
「はい。私も何かさせて下さい」
「そんな、トーコさんはメイド・・・女中じゃありません。もし体調がよろしければ朝食までユキの世話をお願いしてもいいですか?」
「・・・はい。分かりました」
「私、出しゃばり過ぎたかしら?」
エミリーにもらったユキのエサと水を入れ替えながら燈子は呟く。
燈子の性格上、何もしないのは落ち着かないのだ。
ガツガツご飯を食べるユキはその呟きを聞くと食べる事をピタッと辞めた。
「ユキ、食べないの?」
どこか悪いの?と燈子は不安になる。
「トーコ ユキ カマウ シゴト ダイジ」
燈子は僕に構うのが大事な仕事でしょう?
と言っているみたいだ。
「そうね」
(確かに、ユキは友達だし。こんな可愛い友達のお世話や話し相手なんて・・・。幸せよね、私)
しみじみそう思う。
「任せて。ご飯作りや掃除は実家でやっていたから少しは上手いのよ」
それを聞きユキは
「トーコ ソノチョウシ」
と声を掛けられたので燈子はふふっと笑う。
「トーコさーん、朝食が出来ましたよ」
エミリーが燈子を呼びに来る。
「あら、ユキはトーコさんと本当に仲良しね」
上機嫌に頭を上下に降るユキを見て燈子は驚いた。
どうやらこれはオウムが機嫌がいい時に取る仕草という事を、燈子はこの時初めて知った。
「トーコさん、カイがテーブルで待ってます。一緒にトレー・・・お盆を持っていってもらっていいですか?」
「はい!」
エミリーの頼まれ、燈子は活き活きと向かう。
「卵粥?」
キッチンにあるトレーに乗ったお粥を見て驚いた。
てっきり、今日の朝食はパンかと思っていたのだ。
「トーコさん、昨日は洋食を食べられて倒れたと思ったので・・・和食で胃を慣らしましょう。カイにはサーモン・・・シャケを付けるから気にしないで」
エミリーの心遣いにふと、燈子の頬には温かい何かが流れた。
「・・・エミリーさん、ありがとうございます」
突然の涙にエミリーは驚く。
「トーコさん、お顔を拭かなきゃ。ほら、拭いたらカイに持って行きましょう」
「はいっ!」
口角が上がり大きな声が出る。
こんな事、高柳の家ではなかった。
(私、ここに来れてよかった)
テーブルで新聞を読むカイに燈子がお待たせしましたと声を掛ける。
「燈子さん、いいのに。すまないね・・・ってえ?」
目が充血し、鼻が赤い。明らかに泣いた後だと分かる顔にカイは驚き、燈子が気づいて事情を話す。
「なんだ。エミリーになんか言われたかと思ったよ」
「失礼ねえ。カイ私そんな風に見えるかしら?」
二人の会話にハラハラしながら燈子は
「私、こんなに気を遣ってもらって嬉しかったです」
と必死に仲裁する。
「・・・高柳のお嬢様なのに、大袈裟だなあ」
カイの発言にギクっとし、燈子は固い笑顔を作る
「そういえばカイ、新聞以外で今日手紙が来ていたんだけど、大きな箱も届いてるわ」
エミリーがポケットに直していた写真を渡す。
「なになに・・・ってアレックス!?エミリー、ペーパーナイフをお願い!」
(知り合いかしら)
カイの驚き様に燈子は直感した。
手紙を開けカイは驚いた顔をし、ガッツポーズをしたと思ったがすぐにハアッとため息をついた。
そして
「二人とも、良い話と悪い話がある」
「「?」」
燈子とエミリーは同時に首を傾げた。
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