モナカ・パピコの乗船前の記憶
第七章 消えない疑念と、繰り返される言葉
──海岸では、乗船員たちが荷物整理に追われていた。
もう、死体を触ることへの抵抗感すら薄れてきている。
役に立ちそうなものは、何でも仕分ける。
衣類、靴、カバン、食料──すべては生き延びるために。
その光景は、まるで日常の一部になりつつあった。
そんな中、シン・ホマレのもとで一人の男が目を覚ました。
「彼女を……モナカ・パピコを信じるな」
開口一番、男はそう言った。
血走った目で、シン・ホマレの胸ぐらを掴む。
「動かないで」
シン・ホマレは冷静に制する。
「……あの女は危険だ。私が必ず連れ戻す。」
「またそれ? 同じ話ばっかり。あんた、まだ高熱だし、夢と現実がごっちゃになってるだけよ」
「私のポケットを見ろ……! 上着のポケットだ!」
男の気迫に押され、シン・ホマレは仕方なく指示に従った。
そして、ポケットの中から出てきたものを見て──息を呑んだ。
そこにあったのは、モナカ・パピコの手配書だった。
発行元はアーリア支部警察。
■ 夜の森、六人の選択
山頂から帰還する六人は、急いでいた。
しかし、日が落ちてきた。
「ここでキャンプしたほうがいい」
ゲイルが提案する。
「俺は先に行くぜ」
リクは即座に拒否した。
「夜の森を行くつもりか?」
「何? 怖いのか?」
「怖いのは……木をなぎ倒す『アレ』だ」
「ボウガンのパーツを返せよ」
ガルマとリクの小競り合いに、モナカ・パピコが静かに口を挟んだ。
「落ち着いて。海岸には辿り着けっこないわ。」
「……どうして?」
その言葉に、数人が違和感を抱く。
「……女の勘よ。」
■ 繰り返される声
その夜。
焚火を囲みながら、ゲイルは情報を整理し始めた。
「この岩がアーリア国、この松明が俺たちだ。二日前、アーリア行きの船に乗り──東ルートを進んだ」
「そして、航路を外れたことに気づいたのが……」
「出発して4時間後。」
モナカ・パピコが補足する。
「ルートを外れたことを知っているのは……俺たち六人だけ。 そして、下から突き上げるような衝撃。 以上、まとめ終わり」
サスケ・イッセイが名案を思いついたように言う。
「でもさ、空挺部隊がきっと探してくれるだろ? アーリア国には空を飛ぶ魔物を飼いならすスキルを持った奴だっている」
しかし、ガルマが即座に否定した。
「いや、それは楽観的すぎる。」
彼は、冷静に論理を組み立てる。
「まず、俺たちはアーリアの政府と正式な関係を持っていない。 つまり、未登録の漂流者だ。 もし発見されても、人間に化けた魔物とみなされる可能性もある」
「それに、アーリア国に無事に到着できなかった乗客を、わざわざ救助するとは思えない。俺たちを探す可能性は、限りなくゼロに近い。」
「……ぐぅ」
サスケ・イッセイはがっくりと肩を落とした。
そんな様子を見て、銀髪の男がからかうように言う。
「実に面白いエンターテイメントだ。なあ、あのリピート音声の話をしようじゃないか」
「『私は一人ぼっち……助けて……』 と言っていた」
「そうだ。それについて考えよう」
しかし、その言葉をシャロンが遮る。
「待って! そもそも、私の翻訳が間違っていたのかも……」
彼女の声には、恐怖が滲んでいた。
「箝口令だ。」
ガルマは静かに言った。
「この話は、秘密にする。」
場が静まり返る。
「理由は簡単だ。
未確認の情報を流せば、パニックを招く。
そして、パニックが起これば、空気が危うくなる」
──つまり、彼は、この話を『なかったこと』にしようとしているのだ。
「嘘つきになるのね」
モナカ・パピコが、ぽつりと呟いた。
六人は、何も言えなかった。
■ 「助けを呼べなかった理由」
海岸。
シン・ホマレは、焚火をくべながら、手早くブルーシートで簡易キャンプを設営していた。
「彼の容体は?」
ソウタが、木片が刺さった男を気にしている。
「死ぬの? 肌の色がヤバいんだけど」
「大丈夫、薬草が効いている」
そう答えた直後、ソウタの手元に手配書が落ちた。
「……これは? 何だよ、これ……?」
シン・ホマレはすぐに手配書を奪い取る。
「……私は、何も知らない」
ソウタは、言いようのない不安を感じた。
■ モナカ・パピコの告白
翌朝、海岸では山に行ったメンバーが帰還し、報告会が開かれていた。
「助けを呼べなかったのは……強力な魔術で妨害されていたから。」
モナカ・パピコは、シン・ホマレを呼び出し、密かに告げた。
「使い捨てのスペル書では、対抗できるレベルじゃなかった。」
「……」
「それだけじゃない。」
彼女は、静かに続ける。
「その魔術は、人の想いを言語化し、延々とリピート発信するもの。」
「……つまり?」
「**『仲間たちはアレに殺された』**って言っていたの。
アーリア語でね。
生存者は、彼女一人だけみたい。
……でも、いつから発動しているのかは分からない。」
シン・ホマレは、思わず喉を鳴らす。
「……他に何か分かったことは?」
「木片が刺さった人の容体は?」
「……一瞬だけ意識を取り戻した」
「何か言ってなかった?」
その問いに、シン・ホマレは冷や汗をかく。
「あの女は危険だ」
だが、その言葉を飲み込んだ。
「……何も」




