サスケ・イッセイの乗船時の記憶
第四章 やっと晴れたと思ったら、過去の秘密が暴露されそうな件
雨が上がった森の中を歩く三人の足取りは、思いのほか軽かった。
――遭難中じゃなければ、普通にハイキング気分だっただろう。
木々の間から差し込む陽の光が、濡れた葉をきらきらと輝かせる。
森の奥からは鳥のさえずりも聞こえてくる。
まるで、さっきまでの恐怖が嘘だったみたいに。
「そのスペル書、発動した?」
そんな平穏をぶち壊すように、サスケ・イッセイがシン・ホマレに尋ねた。
彼の視線の先には、雨で湿った使えない魔導書を面倒くさそうにめくるシン・ホマレの姿。
「……全然。何度も聞かないで」
「でも船員の話からすると、それが唯一の希望の綱だろ? なんとかなりそう?」
「わからない……とりあえず、乾かしてみようかと」
シン・ホマレは深いため息をつきながら、魔導書を風にさらすように持ち上げる。
太陽の光を浴びて乾く気配は……全くない。
■ イッセイ、お前、何してたの?
モナカ・パピコがふと引っかかったことを口にする。
「ねぇ、あなた一人で何をしてたの?」
「あー、吐いてた」
サスケ・イッセイはあっさりと答えた。
「でも俺、結構役に立つでしょ?」
「ああ……あなたがいてくれてよかったわ。」
モナカ・パピコはニコリと笑う。
だが、サスケ・イッセイの表情は少し曇った。
その言葉が、まるで皮肉に聞こえたからだ。
その時、彼の脳裏に遭難前の出来事がフラッシュバックした。
■ 昨日の出来事
──船内、ラウンジ。
サスケ・イッセイは椅子に座り、貧乏ゆすりをしながら指でテーブルをリズムよく叩いていた。
落ち着かない。落ち着けるわけがない。
「大丈夫ですか? 水でもお持ちしましょうか?」
心配そうにメイドが声をかけてくる。
「平気だ、水もいらない。ありがとう、もう行って」
この会話を一刻も早く終わらせようとする態度に、メイドは違和感を覚えた。
「……?」
彼女はこっそり船員に相談した。
そして、数分後。
サスケ・イッセイは、船員と一緒にこっちに向かってくるメイドを見て、恐怖を感じた。
(まずい)
たまらず席を立つ。
「お客様、お待ちください!」
メイドの声を無視し、トイレへ駆け込む。
その時、船が大きく揺れた。
(……いや、それどころじゃない)
サスケ・イッセイは懐から薬草を聖水で煮詰めて作った丸薬を取り出し、口に放り込んだ。
奥歯でかみしめ、舌の裏側でじっくり味わう。
──脳が、とろけるような感覚が広がる。
「……ッハァ」
まぶたが重くなり、思考がぼやける。
「ドアを開けてください、お客様!」
船員がドアをノックし続ける。
(……うるさい)
サスケ・イッセイは惜しむように、手元の残った丸薬をトイレに捨てた。
その瞬間。
──ドガァァン!!!
船が突き上げられ、体が宙を舞う。
天井に腰を強打。
さらに、床を転がりまわる災難に見舞われた。
──これが、サスケ・イッセイが乗船していた時の記憶だった。
■ そして今、森の中で
「イッセイ?」
モナカ・パピコの声で、サスケ・イッセイは現実に引き戻される。
「……え?」
「どうしたの? ぼーっとして」
「いや、なんでもねぇよ」
軽く笑って誤魔化した。
だが、その笑顔はどこかぎこちない。
彼は無意識に自分のポケットを触った。
そこにはもうないはずの丸薬の感触を探すように。
■ 遭難したけど、まだ隠してることがあるヤツら
太陽が森の緑を照らし、心地よい風が吹き抜ける。
さっきまでの恐怖が嘘のように、三人は歩き続ける。
しかし、それぞれの胸の奥にはまだ誰にも言えない秘密があった。
──シン・ホマレは、未だにスペル書の異変を解明できずにいる。
──モナカ・パピコは、この遭難が偶然ではない気がしている。
──サスケ・イッセイは、自分の薬のことを、まだ誰にも言えずにいる。
誰が正直で、誰が嘘をついているのか。
そして、この遭難の本当の原因は何なのか。
答えが出る前に、また何かが起こる予感がしていた。




