船首にたどり着いた三人。森の中で正体不明のアレに襲われる。
第三章 船を探したら、怪物に見つかった件
「……あった……なんでこんなところに?」
シン・ホマレは目を疑った。
船首部分が海岸に流れ着いている──はずだった。
だが、現実は違った。
一番近い海岸から100メートルは奥にある森の中に、船首部分は突っ込んでいた。
嵐で吹き飛ばされたのか、それとも……?
周囲には誰もいない。
風が木々を揺らし、かすかに異様な気配が漂っている。
「……よし、行こう」
立ち止まっていても仕方がない。
シン・ホマレはモナカ・パピコとサスケ・イッセイに呼びかけ、先頭を歩き出した。
■ 船内の探索と、不気味な沈黙
船首部分に入るのは簡単だった。
もともと船の一部だった壁が、大きな穴を開けていたからだ。
内部に足を踏み入れると、そこは地獄だった。
死体。死体。死体。
船員服を着た者、乗客らしき者、顔もわからなくなった者……
狭い船内に、腐臭が立ち込めている。
「……早く探して、帰ろう」
サスケ・イッセイが嫌悪感をあらわにしながらつぶやく。
問題は、船内が斜めに傾いていることだった。
まるで滑り台のように斜面になっており、移動するだけで一苦労。
転ばないよう慎重に進みながら、シン・ホマレは船長室のドアノブに手をかけた。
──ガチャ。
「ん?」
手応えがなかった。
そして次の瞬間。
ドォン!!
勢いよくドアが開き、中から大量の死体が流れ込んできた。
「うおっ!!」
間一髪で避けたが、シン・ホマレはぐったりと膝をつく。
「……くそ、なんで俺がこんな目に」
この部屋はもう、地獄としか言いようがない。
それでも何かを見つけなければならない。
■ 証拠を探せ
「ねぇ、何を探すの?」
モナカ・パピコが船長室を見回しながら尋ねた。
「こうなった責任を国のお偉いさんに取らせるための証拠」
「証拠?」
「書類とか、船長のサイン入り航行許可証、それに乗船リスト……これを紐づければ、国に賠償金を請求できる」
「なるほどね」
シン・ホマレとモナカ・パピコは、手早く部屋を物色し始めた。
──その時。
ガタッ
死体だと思っていた船員服の男が、突然、起き上がった。
「……ごほっ、ごほっ……」
苦しそうに咳き込んでいる。
「ちょっと、私の声聞こえる?」
モナカ・パピコが近づき、水筒を手渡す。
男は水を飲み、荒い息をつきながら言った。
「……生存者は?」
「24人。大丈夫?」
「めまいがするだけだ……脳震盪だな……」
徐々に男は意識を取り戻し、状況を説明し始めた。
「出発して4時間……俺は航路が間違っていることに気づいた。
だけど、魔物に遭遇して……もう修正は不可能だった……」
「え?」
「今頃、救助隊は全く違う方向を探してると思う」
モナカ・パピコの顔色が変わる。
シン・ホマレも、同じく嫌な予感がした。
「でも、船には魔術レベルに依存しないスペル書があるはずだ。
それを使えば救難信号が出せる」
二人はほっと胸を撫でおろす。
しかし、男がスペル書を広げた瞬間。
「……駄目だ、術が発動しない……」
泣きそうな声が、船内に響いた。
■ 怪物の襲来
「イッセイは?」
モナカ・パピコはサスケ・イッセイの姿が見えないことに気づいた。
あたりを見回し、音のするドアに向かう。
「イッセイ?」
呼びかけた瞬間、バァン!!
勢いよくドアが開き、イッセイが飛び出してきた。
「何してるの?」
その時。
──ゴゴゴゴゴ……
耳をつんざくような轟音が響いた。
昨晩、森の奥から聞こえた音と同じだ。
「……何の音だ?」
船員の男がキョトンとする。
だが、シン・ホマレはすでに嫌な予感しかしていなかった。
「近くにいる」
「何が?」
「静かに」
ミシミシ……
船体が軋む。
ズシン……ズシン……
まるで巨人が歩いているかのような重低音が響き、地面が揺れる。
四人は壁の隙間から外を覗こうとした。
船員の男が上半身を乗り出す。
──次の瞬間。
「ギャアアアアアアアア!!!」
船員が何者かに掴み上げられた。
壁にべったりと血が飛び散る。
「一体なんだ!? 今の!?」
サスケ・イッセイが叫ぶと、船体が大きく揺れた。
まるで、巨人に殴られたような衝撃。
シン・ホマレは床に落ちていたスペル書を拾い上げる。
しかし、次の瞬間。
──ドォン!!!!
船体が地面に水平に叩きつけられた。
「逃げるぞ!!!」
三人は船外へ飛び出し、全力疾走で森の中へ。
しかし、途中でサスケ・イッセイが転倒。
シン・ホマレが助けに戻ったため、モナカ・パピコは森に一人取り残された。
「ホマレ!!!」
恐怖で泣きそうになりながら叫ぶ。
雨がパラパラと降り始めた。
ガタガタと震えながら、モナカ・パピコは怒りに震える。
(……なんでこんな目に遭わなきゃいけないのよ!!)
その時。
──ポタリ。
上から、血のしずくが落ちた。
見上げると、木の上に、高さ5メートルの枝に引っかかった血まみれの死体が横たわっていた。
それは──先ほどの船員だった。