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闇の中、独り(1)

ガルマは海岸に座り込み、かつての恋人の写真を眺めていた。


裏を見るとメッセージが書いてあった。


そろそろ移動するかと立ち上がり少し歩くと妙な違和感を感じた。


砂浜をよく観察すると、何かが埋まっている。


手で掘ってみるとロープが出てきた。


ひっぱりあげると海と森の中へつながっていた。



「しみるよ」


シン・ホマレはリクの治癒に当たっていた。消毒薬を傷口にかけた。リクは抵抗した。


「いいから取り換えさせなー」


「良心が痛むから、診ているのか?」


「全然!痛んでない」


ケロッとしたホマレの表情を見てリクは納得した。


「拷問は軍人野郎に任せて、自分は見ているだけ。そして治療に専念している善良なヒーラーさんってわけか」


「みんなあなたとは関わりたくないのよ」


「パピコは違う」


リクの発言にむず痒い思いがこみ上げた。二人は失笑した後、ホマレはガーゼを投げつけた。


「自分でやりなー」



シン・ホマレは海岸に出ると、一人突っ立っているだけのモナカ・パピコが目に入った。


「誰か探しているの?ただ眺めているだけ?」


「ガルマが去ってもう三日目よ、なんか心配なのよ」


「例の発信源を突き止めれば戻ってくるわよ」


「彼は自分のしたことが原因で出ていったの、それは違うわ」


「やむを得ないことだったのよ」


「そうよ、拷問ね」


「・・・彼は兵士よ、きっと戻ってくるわ」



ガルマは森の中を歩いていた。ロープを伝っていくと大分奥の方まで来てしまい、内心ヤバいかもと思っていた。


しかし好奇心が抑えられず、気持ちとは裏腹に足が止まらない。


このロープの先には何があるのか?答えを早く知りたい。


兵士の勘で、危険信号をキャッチした気になった。


何かがある。


慎重に足を一歩踏み出した。


何も起こらない。


気のせいかと片足を上げた瞬間、嫌な音がした。


ガルマの足にロープが絡まり、逆さ吊りになった。


そして左足の太ももに激痛が走った。


尖らせた木の枝が刺さった。


これは人工的な罠だと思った。何もできないまま夜を迎えた。


ピシ、ピシと木の枝が折れるような音がした。誰かが近づいてくる。足音だ。


「誰か?・・・来たのか?」


恐る恐る問いかけた。


短剣でロープが切られ、ガルマは地面に頭から落ちた。とっさに受け身をとったが、それでもダメージはあった。


薄れゆく意識のなか、誰かの足が近づいてくるのが見えたのを最後に、意識が闇の中に落ちていった。



洞窟では生存者たちの間で軽い諍いが起きていた。


水場の順番争い程度のものであったが、みんなピリピリしているので空気がよくないことは推して知るべしであった。


「はぁ、つまらないことで怒鳴るなよな」


ソウタはうんざりした様子で猪肉の串焼きを配って回っていた。


ホマレも一つ受け取った。


「なあこの皮膚病は治るのかな、何かヤバい伝染病の一種とかではないかな」


不安そうにオールバックの男はホマレに尋ねた。


「キース、これは蕁麻疹よ。ストレスで出るの」


ホマレは何でもないような風で応えた。実際大したことはない。


「すぐに消えるから、気にしないで」


「ありがとう、それはアロエ?」


シャオが背中に軟膏を塗ってあげた。


「気にするなって何、他にすることがあるのか?」


ソウタがからかうように言った。


「私ももうくたくたよ、自律神経がいかれてしまいそうよ」


「それだよ!俺たちは疲労がピークに達しつつある。みんなそうだピリピリしている。だから何か楽しむことができればいいと思う」


「でも大事なのは生命。生き残ることよ、まだ今はいける。棺桶を準備する必要性はぜんぜん感じない」


ホマレの発言にソウタは耳を疑った。


「マジで言ってるのか!?」


この状況を苦にしていないとは、どう考えたらそう判断できるのか、彼女は英才教育でも受けてきたのではないかと思い、ソウタは畏怖の念をホマレに抱かずにはいられなかった。



ガルマは目を覚ました。体を起こそうとしたができなかった。両腕と両足がベルトのようなもので固定されていた。


「アレスはどこ?」


女性の声がした。


「誰だ?何の話かわからない」


女性が駆け寄ってきた。そしてガルマの体に電気が流れた。


「ぐああっ!」


「アレスはどこ?どこなの?」


「話を聞いてくれ、俺は何も知らん」


息も絶え絶えになりながらもそう答えた。再び電気が体に流れガルマは悲鳴を上げた。


「止めろ!」


ガルマの脳裏に昔の記憶が蘇った。



「止めろ!」


ガルマは捕虜の顔面に拳を打ち込んでいた。


「止めて欲しいのならすべて白状しろ、一日中これを続けてもいいんだぞ」


捕虜はぐったりと地面に崩れ落ちた。


「あいつはシロです。ネタはガセだ」


上官にガルマは報告すると、仕事の手際の良さを褒めたたえた。


「情報部にお前を配属する話がでている」


「本当に?ご厚意に感謝します」


「二人っきりの時に敬語はいらん」


「今は君が上官だガイ」


「まあそう言うなら」


その時後ろを女性が兵士二人に連れられて歩いてくるのにガルマはくぎ付けになった。


女性と目が合った。


ガイに敬礼して別れた。



ソウタは物を地面に置く音でウトウトしていたところを起こされた。


「よう」


目の前にはドラッガー師と名も知らぬ男が座っていた。


「道具袋を拾った、中身を調べてくれ。我々は狩りにでる」


「兎かネズミが獲れるかもしれん」


ソウタは道具袋の中身を確認し始めた。


ロン少年はドラッガー師が狩りの準備を始めたのを見て興奮しすっかり目が覚めていた。


「ドラッガー師、狩りに行くの?一緒に行ってもいい?覚えたいんだ」


「ロン!狩りなど許さん、もう寝るんだ」


父ライアスは引き留めた。惜しそうにロンは寝床に戻った。


「おお、これはすごいものが出た」


ソウタは道具袋から感激するものを見つけた。



「話を聞いてくれ!アレスなんて本当に知らない!」


ガルマへの電流による拷問はまだ続いていた。


「俺は遭難した船の生存者だ、ロープを追ってここに来ただけだ。リピート音声と何か関係があるのかと思って。気づいたらここにいた。アーリア語で繰り返し再生していたやつの正体が知りたかった」


女性は独りごとを唱えながらガルマに近づいてきた。アーリア語だが意味はわからなかった。


「私の救助を求める音声を偶然聞いてきたと、そういうの?」


「君の声?」


時がたち日が昇ってきた。


女性はガルマの荷物を検査していた。


ガルマは壁にかかった職人用ツナギに印字された名前を読み上げた。


「ファリス」


「なぜ私の名前を知っている?」


「そこの服に書いてあった、ここはどこだ?」


ファリスの前の机に置かれたボロボロの魔導書が目についた。


「その魔導書で音声を送るのは無理だろう」


「これは使っていない、別のところから送っている。今は敵がいるから」


「敵?」


「あんたやあんたの仲間たち」


「誰のことか知らんが言ったろ、俺はただの遭難者だ」


「ガルマ?」


突然自分の名を呼ばれ、ガルマは大きく見開いた。


「私の名は服に、あなたのは封筒に。誰なの?この写真の女性」


「レミーだ、彼女はレミー」




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