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シン・ホマレは船首部分に自分の大切な短剣と杖があるのではないかと思い、煙が出た方向に向かって旅をする。

第二章 船酔いでダウンしてたら、今度は大災害発生した件

──海を眺めていた。


 朝日が眩しい。

 波の音が心地よい……はずなのに、妙に不穏な気配を感じる。

 シン・ホマレは眉をひそめながら、静かに海を見つめていた。


 ──そして、ふと、昨日の記憶がフラッシュバックする。


■ 出航前の話。

「船旅はどうですか?」


 ノックの音のあと、扉が開き、メイドがひょこっと顔を出した。

 シン・ホマレは窓際に座ったまま、適当に答える。


「まあまあ」


「お顔の色が優れませんね……ルームサービスはいかがですか?」


「船酔いの薬が欲しい。できれば強いやつ」


 一瞬、メイドは戸惑ったような表情を見せたが、すぐに**「内緒ですよ」**と小さな薬瓶を渡してきた。


 一目で分かった。魔族が作った薬だ。


「……規約違反ね」


 シン・ホマレが笑うと、メイドは悪戯っぽく歯を見せ、さっとドアを閉じた。


 シン・ホマレはグラスのグレープフルーツジュースに薬をブレンドし、ぐいっと飲み干した。

 ──意外と味は悪くない。


 その時だった。


 ドドドドドッ!!!


 船内を乗組員が駆け抜けていく。

 ただごとじゃない。シン・ホマレは立ち上がり、部屋を出た。


「みなさん、自分の部屋に戻ってください! そしてドアの鍵をかけ、着席してください!!」


 船内アナウンスが響く。


 隣の部屋の夫人は顔をこわばらせ、椅子の肘掛けをぎゅっと握りしめていた。


「大丈夫ですよ。私の経験則では、こういうのはすぐに収まりま──」


 ドカァァァン!!!!


 船全体が真下から突き上げられた。


 家具も人も宙を舞い、船の扉がすべて吹き飛ぶ。

 聞こえるはずの悲鳴も、衝撃で頭が真っ白になって何も感じられない。


 ──ここまでが、シン・ホマレが乗船していたときの記憶だ。


■ そして今、海岸。

「行くの?」


 モナカ・パピコの声がした。

 シン・ホマレは朝日に照らされた海を一瞥し、無言でうなずいた。


「煙の方向を教えて」


「私も行く」


 シン・ホマレはできれば一人で行きたかった。

 しかし、モナカ・パピコはすでにしっかりしたブーツを履いていた。

 ──サンダルじゃない。


 察するに、船の残骸か、もしくは死体から調達したのだろう。

 だが、彼女の前では何も言わなかった。


 焚き火の跡地には、生存者たちが集まっていた。

 みんな神妙な顔つきで、父親らしき男が静かに呟く。


「なんにせよ、これは異常だ」


 しかし、誰もが無言を貫く。

 この状況が『異常』だと、すでに理解しているのだ。


「さっき船内を見てきたが……」


 太った男が言いにくそうに口を開く。


「悲惨そのものだった。片付けないとな……その……タヒイ本を」


「死体だろ。暗号ゲームのやりすぎだ」


 父親が不快そうにツッコむ。


 しかし、妹らしき少女は冷めた表情で言った。


「救援隊がやってくれるわよ、そんなの」


 ──ここにいるのは、覚悟のある者と、現実逃避する者。

 その二種類だけだった。


「船首部分を探しに行かないか」


 シン・ホマレはズカズカと会話に入り込んだ。


「そこには役に立つものがあるかもしれないし、すでに救援隊が到着している可能性もある」


「俺も行く」


 大道芸人が即座に乗ってきた。


「いや、いい」


 シン・ホマレは直感で判断した。

 この大道芸人、たぶん役に立たない。


「じっとしてると気が狂いそうになるんだよ」


 ──結局、三人パーティが結成された。

 シン・ホマレ、モナカ・パピコ、大道芸人サスケ・イッセイ。


■ 旅の途中に判明した、意外な事実。

「ねぇ、聞いてもいい?」


 モナカ・パピコが問いかける。


「俺? なんでも聞けよ」


「前に会った?」


「いや、たぶん会ってないと思うが……顔に見覚えがある?」


 モナカ・パピコは頷いた。

 すると、サスケ・イッセイが突然歌い出す。


「──職業ピエローズ!」


 モナカ・パピコは吹き出した。


「え、あなたがメンバーなの?」


「ベース担当!」


「マジで!?」


「俺の名はサスケ・イッセイ!」


「友達がファンよ! ファンレター書かせるわ!」


 シン・ホマレは完全に取り残された。

 仕方なく、興味なさげに言う。


「……職業ピエローズ?」


「おっ、知ってんのか?」


 サスケ・イッセイは得意げに歌い出した。


 ──シン・ホマレは、苦渋の顔で「急ぐぞ」とだけ言った。


■ その時、森で異変が起きていた。

 だが、そんな三人の様子を森の中から一頭の四足獣がじっと見つめていることに、誰も気づいていなかった。


 さらに歩き続けると、突然、空が暗くなった。


「うわ、世界の終わりみたいな天気」


 サスケ・イッセイが減らず口を叩く。

 しかし、その瞬間──


 ドシャァァァァァァァァ!!!!


 土砂降りの雨が降り出した。


 一方、海岸では、雨宿りを巡って生存者たちが小競り合いを始める。

 さらに、森の奥では再び異常な音が鳴り響いた。


──バキバキバキバキッ!!!!


 樹木が倒れる音が、海岸中に響き渡る。

 生存者たちは、一斉に顔を強張らせた。


「……なんか、嫌な予感がする」


 そんな言葉が、雨の中で誰かの口からぽつりと漏れた。

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