悲しい過去(2)
「私がリクを説得して見せる」
モナカ・パピコはシン・ホマレに提案した。
シン・ホマレはリクを殺して薬を奪うことにご注進だったが、モナカ・パピコがそういうと冷や水をかぶったかのように頭が冷えたようだった。
「あなたが?」
嘲笑ともとれるシン・ホマレの表情をしっかり向き合い、モナカ・パピコは言い切った。
「絶対にできる、だからやらせて」
リクは海岸で斧を振り下ろし、倒木をバラバラにしていた。薪にするつもりでいた。
汗をかきながら夢中になっているリクにモナカ・パピコは声をかけた。
「何となら交換してくれる?」
「さて、いろいろありすぎて決められないな」
「喘息の薬と交換したい」
「そうだな・・・何がいいか・・・キスだな」
「は?」
「アンタと今すぐここでキスだ」
その嘘くさい演技にモナカ・パピコは呆れた。
「嘘ね、というか喘息の女性を救うのにキスをせがむわけ?ないわ」
リクは薪割を再開した。
「見たわよ、紙をポケットに入れてた、丁寧に折りたたんで、悪ぶっていてもアンタには人間性が残っているわ」
「お見通しのつもりか?黙れ、俺のことをそんなに知りたいのなら読め」
リクは紙を数枚差し出してきた。
モナカ・パピコは戸惑っていると、リクは手を掴み紙を握らせた。
「さあ読めよ」
気迫に押され、読み始めた。
「アンタは私を知らないだろうが、私はアンタのことを知っている。あんたは私の母を誑かし、父の財産をすべて取り上げた。父は怒りのあまり母を殺して自殺した」
モナカ・パピコはこれ以上は読みたくなかったが、リクは続けろと命令した。
「名前しか知らないがいつか罪を思い知らせてやる、お前は両親を殺した」
そこで手紙は終わった。全文を読むとリクは手紙を取り上げキスをするか聞いた。
とてもそんな気にはなれなかった。
「ドラッガー師、昨日の夕暮れ時、どこにいたんだ」
ガルマは、地面に座り込み短剣で木を削り、投げ槍を制作していたドラッガー師に突拍子もなく尋ねた。
ドラッガー師はすぐこれはアリバイ調査だと理解した。
「イノシシの革を剥いでた、もっとも証人は鳴き声すら上げられんが」
続けてドラッガー師は自分の推理を話し始めた。
「君を殴った人物はこの島を出たくない訳アリの人間だろうな」
ガルマは理論的な物言いをするドラッガー師の推理に興味津々だ。その場に座り、目線の高さを合わせた。
「犯人は我々の今の境遇において、何らかの利益を得るものだろう・・・君とリクは何やら憎みあっているが」
「いや奴にはアリバイがある、だから違うと思う。なぜなら3キロほど離れたところから花火を打ち上げているから」
「しかし打ち上げるのを遅らせる方法があるとすれば話は別だ」
「無理だ」
「推理小説を嗜むものならだれでも知っている、これだ」
ドラッガー師はタバコの空き箱を取り出した。
ガルマの脳裏に電流が走った。タバコに火をつけて導火線に繋ぐ!
「次の時のために」
ドラッガー師はそう言うと、ガルマに持っていた短剣を差し出した。