暗中模索(5)
「イッセイ!来るなら連絡くらい入れろよ!」
イッセイは村の一軒家から出てきたニセイに笑顔で迎えられた。
「よう元気だったか相棒!」
二人は庭に出ると、椅子に腰かけた。
ブロンドの少女がとことこと二人についてきた。
「ミオン、家の中に入って」
娘を気遣うニセイの姿はイクメンそのものだとイッセイは思った。
「なあニセイ、あれからいろいろあったみたいだな」
「今は静かに暮らしているよ、平和そのものだ。自分がこうなるとはあの頃の生活からは考えられない」
イッセイはニセイの表情でそれは真実であると感じだ。
「なあ、そろそろ稼ぎたいと思わないか?楽団の会社から仕事が来たんだ」
封筒から書類を取り出す。ここにニセイがサインすれば契約は成立だ。イッセイはまくし立てる。
「職業ピエローズ、復活だ!開催場所はアーリア国、勇者パーティを輩出している由緒ある国だ!再結成には不足ないだろう」
イッセイはニコニコ顔で元相棒を口説くも、ニセイの返事はそっけない。
「俺は復活には興味がない」
ニセイは書類もイッセイの顔も見ていない。
視線の先にあるのは娘のブロンドの少女だ。
芝生ででんぐり返しをしていた。
ニセイはいとおしいものをじっと見つめている。
「なあ、これから稼いでおくべきだろう、あの子のためにも。一回だけでもいいんだ」
「質素な生活でも俺は今のままでいい。十分満たされているよ」
「これから大学に行かせるとか、いろいろ金がかかることがあるだろ」
「それは俺の家族のことだ。お前が口出しするな」
「お前のせいだぞ、俺がこうなったのは。俺から取り上げたんだ」
イッセイは沸々と怒りがこみあげてくるのを感じた。
「黙れ、ジャンキーに何ができる」
ニセイはピシャリと言い放った。
「あのな、アーリアには更生施設がある、ここで建て直すんだ」
「麻薬はやめると約束したのに」
「じゃあな」
イッセイは立ち上がると、アーリア行のテラの箱舟がでる港へ向かった。
暗い洞窟の中でシン・ホマレとサスケ・イッセイはなすすべもなく救助を待っていた。
「ねぇ最近はいつなの、麻薬使ったの?」
「・・・一昨日だ」
「禁断症状は出たの?何か症状は?」
「あんたに絡んだ以外は正常だよ」
二人はクスリと笑った。
「何で言わなかったの、力になれたかもしれないのに」
「言ったら役立たずのジャンキーだと思われる、言えなかった」
「君は役立たずではない、私を助けに来てくれたわ、このことは忘れないわ」
「ここにいると教会を思い出す、あの懺悔した部屋のことを」
「意外ね、君が信心深いとは」
「まあ昔は、俺の告白を聞いてくれるのか?長いぞ」
「私のも聞く?長くなるわ」
二人は力なく笑った。そのときイッセイの目に意外なものが飛び込んできた。
「蛾だ、飛んでいる」
「おい少し休め」
石を運びっぱなしのモナカ・パピコにライアスが心配して声をかけた。
「大丈夫」
モナカ・パピコは手を緩める気はさらさらなかった。
ライアスに人手はあるから交代させようとしたが掘り続けた。
「光だ」
洞窟の中で蛾を追うと僅かな光を見つけた。
地面を手で突き破ることができた。
「ヒーラーさんだ!」
ロンは声を上げた。
全員が振り返るとシン・ホマレとサスケ・イッセイが現れたのを見て安堵の表情を浮かべた。
「どうやって出たの?なんでそっちからくるんだ?」
「イッセイが別の出口を見つけた」
二人とも泥だらけだ。
全員が笑顔だ。
「やったな!」
ソウタがイッセイを抱き上げた。
「ありがとうみんな」
ガルマは花火を打ち上げた。
「よし、合図をまとう」
シャロンは海岸で昔話に夢中になっていた。
「グダナの男ってのが本当に馬鹿でね、それでー」
パンと花火の音がした。
我に返ったシャロンは慌てて花火に火をつけた。
「やばい、忘れてた」
さあ、パピコ上げてくれ。
ガルマは祈った。
三本目の花火が上がった。
正念場が来た。
ガルマはスペル書を取り上げ、詠唱を始めた。
ルーン文字が白く輝く。
白は最も弱い色だ。
色が変化することを切望しながらガルマはスペル書を持って立ち上がった。
「よし!」
ガルマはガッツポーズをした。
信号をキャッチした。
その時、ガルマは何者かに後ろから棒で殴られた。
意識が飛び、そのまま地面に倒れこんだ。
「大丈夫か、震えているぞ」
ソウタがサスケ・イッセイを心配していた。
シン・ホマレは明らかにこれは禁断症状だと判断していた。
「インフルエンザね」
「大変だな、頑張ったからな、まあお大事に」
ソウタはそう言い残すと去った。
イッセイはドラッガー師をじっと見つめると、シン・ホマレに少し歩いてくるといい、立ち上がった。
ホマレは頷くと見送った。
「ねぇここに住んでもいいの?」
ロンはライアスに楽しそうに聞いたが、ライアスはシャオの存在の方が気になっていた。
というより気まずかった。
モナカ・パピコはシン・ホマレに三角巾を作ると持っていった。
「こんなのつけるの初めてだわ」
ホマレは自分の能力が発揮できない今の状況を呪いつつ、パピコの気持ちが嬉しかった。
癒されたのは随分と久しぶりのことだった。
杖があれば、この程度のダメージすぐ癒せるのに。
「安全な洞窟だこと」
皮肉だが気にならなかった。
「ライアスが中を調べて、もう安全だって言ったわ。ガルマは戻るの?」
「きっとうまくいけば帰れるはずよ」
逆を言えば・・・それ以上は考えたくなかった。
「これ、ありがとう」
シン・ホマレはパピコに礼を言った。
ドラッガー師のところへイッセイが歩み寄っていった。
「あれをくれ」
ドラッガー師は渋い顔をした。
「三回目だ、本当にいるのか?」
「俺は決断した」
じっと目を見つめる、決意を感じた。
何も言わず袋を手渡した。
イッセイは無言で焚火の中にそれを投げ捨てた。
「人の誉れだ、君を信じていた」
ドラッガー師とサスケ・イッセイの前を蛾が飛びたった。
二人はそれを見送った。
サスケ・イッセイの目から涙が溢れた。