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暗中模索(4)

「これが何かわかるか」


ドラッガー師はサスケ・イッセイに尋ねた。


「何かのさなぎだろう、それが何か」


「これは蛾だ、もうすぐ羽化しようとしている、よく見ると小さな穴が開いている、繭を破り外に出ようとしている、私が穴を広げれば労せずして外に出られるだろう」


サスケ・イッセイは黙ってドラッガー師の講義を聴いている。


「だがそれではすぐに死んでしまう、もがいて、もがいて、もがき抜いてやっと外に出てくる、それが当たり前なんだ」


サスケ・イッセイはじっとさなぎを見つめている。


「欲しがったのはこれが二回目だ、あと一回で君にこれを返そう」


ドラッガー師はサスケ・イッセイに麻薬の袋を取り出して見せた。


とろうと思えばきっととれるだろう。



「よし、穴が開いたぞ」


ライアスは中を覗き込んだが中は暗くて全く何も見えない。


「ホマレ!聞こえるか?」


ソウタが大声で中に呼びかける


沈黙がその場を支配した。


「聞こえたら返事をしろ!」


その時中からうめき声がした。


ホマレだ。


「岩の下敷きになって動けない、駄目だ」


くぐもった声だが生きている。


ライアスとソウタは青い顔で悩んだ。


「どうする・・」


「イッセイはどうしたの?」


ホマレの声が聞こえてきた。


「脱出した」


「ホマレ、必ず助ける」


ライアスはそう言ったものの、ここからどうすべきか具体的な案は出てこなかった。



「2枚目のスペル書はここにしよう、手伝うか?」


ガルマ、リク、パピコは目的地点にたどり着き、装置の設置を始めていた。


「なるべく高い位置に」


「仕事をどうも」


リクはガルマからスペル書を受け取ると木登りを始めた。



ライアスは焦っていた。


見分の結果、これ以上穴を広げることはできないと判断した。


ホマレを助けるには誰かが中に入り、岩を動かすしかない。


「無理だ」


「まあ君はそうだろうな」


ゲイルはソウタに当たり前だというようにいった。


ハーフエルフも何か言っているが、全然意味が通じなかった。


暗雲が立ち込める空気を打ち破ったのはサスケ・イッセイの声だ。


「俺がやる」


「イッセイ?いつの間に」


ライアスはイッセイを止めた。


「君は見たところ少し気が動転している、私がー」


「万が一の時、子どもはどうするんだ、彼女には夫が、彼には妹がいる、俺は独りだ、身内はいない、やらせてくれ」



リクとパピコは合図を待っていた。


「もう5時だ、そろそろだな」


「見逃したくないわ」


「なあ、彼女のどこがいいんだ?一体ホマレの何があんたを動かす?」


リクはニヤニヤとパピコの反応を見ている


「くだらないことを聞くのね」


「彼女はヒーラーだからだ、女は癒しに弱い、俺もヒーラーならリーダーになっていた」


リクの表情から、悔しさをパピコは感じ取った。


「何それ?彼女をライバル視してるの?」


「俺と彼女の実力は大して違わない、彼女が生きていれば証明できるが」


パピコはリクの発言に耳を疑った。


「今なんて言った?」


リクは口が滑ったと思ったが、もう遅い。


「あー知らなかったんだな、シン・ホマレは洞窟で生き埋めになった」


パピコは絶望が自分を包み込むのを感じた。


「何・・なの?」


パピコは憐れむように自分を見上げてくるリクに合図用花火を投げつけ、洞窟に駆け出した。



「ゆっくり行け、焦らずに」


ライアスはサスケ・イッセイにできうる限りの助言を与えてた。


「ほかには?」


「どうか幸運を」


「うまくいきますように」


「頑張って」


サスケ・イッセイは意を決して穴の中に匍匐前進で入り込んだ。


過去の記憶が蘇ってくる。



「いろんな奴がよっかかってきやがる」


ニセイは楽屋のソファーに酔っぱらってだらしなく座り込んでいた。


両隣にはどうみても素人には見えない女性を二人、肩を寄せ合っていた。


「あきれたよ」


サスケ・イッセイは相方の振る舞いに嫌悪感をむき出しにしていた。


部屋の中にはオードブルが置いてあり、高そうな酒の瓶が転がっている。


娼婦が料理を取り分けようとしていたが、サスケ・イッセイは女性たちを全員楽屋から出ていくように命じた。


「音合わせはどうしたんだ?あと一時間で本番だぞ」


「おお!それは楽しみだ」


ニセイは麻薬草を取り出した。


その姿を見て、サスケ・イッセイはもう駄目だと思った。


「よし、今回の仕事でもう終わりだ、解散だ」


「・・・正気か、それでどうするんだ?」


「麻薬で職業ピエローズをつぶす気か?もう誰もお前なんか相手にしていない!」


「違う!俺が職業ピエローズだ!お前こそ誰なんか見ていない!夢が叶ったんだ!辞めたいなら勝手にやめろ!お前なんかただの役立たずだ」


ニセイは酒を飲みながら、楽屋から出ていった。


「ニセイ」


「解散だ!」


楽屋に独り残されたイッセイは鏡台に座った。


鏡に映った目の前の自分にお前どうするんだ、どうしたらいいんだ、問いかけ続けた。


目の前にニセイが愛用していた品が無造作に転がっていた。


無意識のうちにイッセイはそれを手に取っていた。



「くっ」


サスケ・イッセイは洞窟の中を進んでいた。


ゴーッと嫌な音が響き渡る。


「急げ、崩れるぞ」


外からライアスの声がした。


分かっていると声も出さず進み続けた。


脚の後ろで崩れたのが分かった。


「やあ助けに来たぞ」


ホマレのところまでくることができた。


イッセイとホマレは顔を合わせると二人ともなんとなく笑った。



「また掘り返そう、窒息する前に」


洞窟の外では会議だ


「待て!今考えている!」


ライアスはその場でぐるぐる同じところを歩きながら考えを巡らせていた。


「彼女はどこ?ホマレはどうなっているの?」


そこへモナカ・パピコが駆け寄ってきた。


しんと静まり返った。


「中だ」


ソウタがあごで差したその先は、岩がギッシリと崩れていた。


「生きているの?」


みんな目を逸らした。


「応えてよ!」


ライアスがそれに応じた。


「分からん、イッセイが中に入ったんだが、崩れたんだ」


「・・・なぜ掘らないの?」


モナカ・パピコは先陣をきって岩を運び出した。


皆それに続いた。



「よし行くぞ!」


サスケ・イッセイはシン・ホマレの上に乗っていた岩を退かした。


「手を握れー」


「え?握ったらいいのか?」


「そしたら引っ張って」


「え?いいのか?」


「肩の位置がズレたの、やって」


「無理だ」


「できる、さあ」


イッセイは一思いに引いた。


「あぐっ!」


ホマレの悲鳴が狭い空間に反響した。



現実逃避したかったのか、サスケ・イッセイの脳裏にまた過去の記憶が蘇った。





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