表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/41

交流

 レイヴンクロウ隊が魔獣騒動や誘拐事件を乗り越え、領主の娘ラフェリア・ヴェルデッティを救出してから、街には落ち着いた空気が流れている。


 魔獣騒動の解決やヴァランの崩壊で危険が減り、外に出て市井の人々の声を聞く機会が増えたことで、ラフェリアは領主の娘として何か役立てないかと考えることが自然と増えていた。


 この朝もラフェリアは一人で街角を歩き、小さな果物屋や雑貨屋、行商人たちの姿を眺めていると市民から声をかけられる。


「おはようございます、ラフェリア様」と声をかける通りがかりの商人は彼女の身分を知りながらも、特に畏まることなく笑顔で迎える。 ラフェリアが日常的に街に溶け込んでいる証拠だ。


 街の人々にとっては、ラフェリアが屋敷から出てきたということは、領主家が市民生活に関心を示した象徴なのかもしれない。


「この果物、甘くて皮が薄いんですよ」


 果物屋の女主人がすすめる季節の蜜柑を口に運ぶたび、ラフェリアは新鮮な感動に包まれる。


 (今まで知らなかった味……街にはこんなにも、さまざまな幸福があるのね)


 さらに、この日、行商人たちの雑談に耳を傾けていると、隣国の文化について面白い話が聞こえてきた。


「隣国には特殊な調理道具があって、調理が楽になるらしいよ」


「工芸品も素晴らしいんだ。その金細工や織物が手に入れば、この街の商人たちも有利に商売できるだろうに」


 彼らは口々に、隣国からの品物や技術が街の暮らしを便利にすると語っている。


 ラフェリアはその言葉に心を動かされた。

 レイヴンクロウ隊のおかげで自由に歩けるようになったばかりの彼女は、まだ社会について深く考えた経験は少なかったが、ここ数日の外出で気づいたことがある。


 それは、領主の権威や治安維持だけでなく、経済や文化の交流が街を豊かにする力があるということ。


 (もし、隣国と私たちの領地がもっと文化的な交流をすれば?

 あちらの工芸品や技術者を呼べば、この街の商人や職人たちも学べるし、暮らしが楽になるはず)


 そう考えたラフェリアは、屋敷へ戻ると父である領主グレイヴ・ヴェルデッティに相談することにした。


 広い執務室で書類をめくっていたグレイヴは、娘の帰りを嬉しそうに出迎えた。


「お父様、私、ちょっと考えがあるんです」


 ラフェリアは緊張しつつも、微笑みを浮かべて提案を述べる。


「隣国との文化交流をもっと活発にできないでしょうか? 隣国の技術者や工芸品を展示する合同展示会を開いて、市民がそれを見る機会を作れば、新しい商品や工夫が街に根付き、暮らしが豊かになると思うんです」


 グレイヴは驚きつつ頷く。


 誘拐事件や魔獣騒動の後、彼はラフェリアの無事と、今こうして街に関心を持ち建設的な意見を出せるまで成長したことを、心から喜ぶ。


「なるほど、展示会か……良い考えだ。以前は、このような提案を娘から聞くことなど思いもよらなかったが、今はこうして自由に外を歩き、人々の声を聞くことで、建設的なアイデアを出せるようになったのだな。 ラフェリアよ、私はとても誇らしい気持ちだ」


 領主は温かな笑みを浮かべて娘の手を軽く握る。


「お前が自ら街を見て考えた提案なら、きっと有意義だろう。それに今日は……」


 その時、執事が控えめに扉をノックし、知らせる。「領主様、今日お越しになる予定の客人がもうすぐ参ります」


 グレイヴは「ああ、丁度よい」と笑う。


「ラフェリア、今日はちょうど良い日だ。隣国から来る貴族、ラシェット伯爵が近隣領地との関係改善を探るため訪れることになっている。まさに文化交流の話をするのにうってつけの人物かもしれない」


 ラフェリアの瞳がわずかに輝く。


「まあ。……伯爵はどのような方なのですか?」


 グレイヴは腕を組み、考えるような素振りを見せる。


「ラシェット伯爵は、隣国の有力貴族で、工芸や技術の分野で精通していると聞く。領主間の会合で顔を合わせたことがあるが、彼はとても礼儀正しく、積極的に文化交流を推奨しているそうだ」


 ラフェリアは微笑み、「それならば、私が提案した展示会についても、良い助言をいただけるかもしれませんね。伯爵が協力してくだされば、この街の商人や職人たちも新しい刺激を得られるでしょう」


 領主は頷く。


「そうだな。伯爵は我が国に珍しい工芸品を送ってくれる可能性もある。まさに好機だ。 以前は心配ばかりしていたが、いまは娘が自ら考え、街のために動いてくれる。これほど心強いことはない。また、それが私にはとても嬉しい」


 父と娘が微笑み合う中、しばらくして扉が開く。



 執事が扉を軽くノックし、小さく咳払いしてから告げた。

「お待たせいたしました。ラシェット伯爵がお見えです」


 領主グレイヴ・ヴェルデッティは微笑をたたえ、娘のラフェリアと共に顔を上げる。

 その瞬間、優雅な衣服に身を包んだ貴族が軽やかに足を踏み入れてきた。


「グレイヴ・ヴェルデッティ殿、そしてラフェリア・ヴェルデッティ様。お初にお目にかかります。私はラシェット伯爵、隣国より文化と友好をお届けに参りました」


 伯爵は魅惑的な笑顔を浮かべ、その声は朗らかで耳心地が良い。


 領主グレイヴは一歩前へ進み、穏やかに頭を下げる。


「伯爵、よくお越しくださいました。ちょうど良い時期にお見えです。我々は、隣国との交流を強化し、この街にさらなる繁栄をもたらしたいと考えていたところです」


 そう言ってグレイヴは隣に立つ娘を示した。


「こちらは私の娘、ラフェリアです。彼女が外へ出て街の声を聞くようになり、いくつか興味深い提案を持ってきてくれました。ラフェリア、挨拶を」


 ラフェリアは軽く会釈し、澄んだ瞳で伯爵を見る。


「はじめまして、ラシェット伯爵。私、ラフェリア・ヴェルデッティと申します。まだまだ未熟ですが、最近は市民の声を聞く中で、この街をもっと豊かにしたいと思うようになりました」


 伯爵は再び魅惑的な笑顔を浮かべる。


「お会いできて光栄です、ラフェリア様。その志があれば、街はさらに輝くことでしょう」


 領主とラフェリアは顔を見合わせ、さっそく伯爵が来た理由について尋ねる。


 伯爵は肩を軽く上げ、「実は、我が国では工芸品や技術者が多く育っております。もしこの地域で、その技術や工芸品を流通させれば、お互いの商会同士が新たな関係を築けると考えています。もちろんこちらの特産品は我が国で流通させ互いに益のある関係を目指していきます」と説明した。


 その言葉に領主は満足そうに頷く。


「なるほど、私たちもつい先程そのようなことを考えていたのです。そして隣国との文化交流が商会同士の契約だけで終わらず、市民にも利益をもたらす形が望ましいと思っておりました」


 ラフェリアは期待に満ちた声で提案を続ける。


「でしたら、ただ商会同士で契約するだけでなく、もっと大きな催しを開くのはいかがでしょう?

 街の広場を使って工芸品の実演や、異国の物産の販売を行うのです。市民も呼べば、より多くの人が隣国の文化に触れ、両国の理解と交流が深まるでしょう」


 伯爵はその発言に目を輝かせ、「おぉ、素晴らしいお考えです、ラフェリア様。あなたの発想は実に柔軟で、かつ市民への思いやりに満ちていますね。まるで、この町の発展を手助けするために生まれたお方のようです」と、朗々と称賛する。


 その言葉に、ラフェリアは頬を僅かに赤らめ、「過分なお言葉です、伯爵」と控えめに笑う。


 領主は娘が褒められたことに機嫌よく、嬉しさが顔に出てしまう。


「ラフェリアがこれほど建設的な意見を出すようになったのは、外へ出られるようになったおかげ。私も感無量だ。あなたが用意してくださる工芸品や技術者、それがこの街をより華やかな舞台に変えるでしょう」


 伯爵はうなずき、「では、具体的な準備が整い次第、再度こちらへ参ります。技術者たちの選定、工芸品の輸送ルートなど、いくつか検討事項はありますが、この挑戦はきっと成功しますよ。 ラフェリア様のような方がいれば、我々も喜んで手を貸します」と満面の笑みを浮かべる。


 ラフェリアは嬉しそうに、「私も大いに楽しみにしております」と答え、その輝く瞳は新たな未来を思い描いているようだった。


 伯爵は「それでは、また近いうちに」と一礼して部屋を後にする。


 去り際、彼の表情にはわずかながら深読みの難しい笑みがちらりと浮かぶが、領主とラフェリアは気づかない。


 伯爵の足音が廊下に遠のくと、領主は笑顔で娘に声をかける。


「ラフェリア、素晴らしい提案だった。きっとこの街はさらに豊かになるだろう。こうして君が活躍する日が来るとは、父として誇りに思う」


 ラフェリアは明るく微笑み、「これもレイヴンクロウ隊や、助けてくれた方々がいたおかげです。街の人々が笑顔で暮らせるように、私も微力ながら頑張ります」と意気込む。

 

「素晴らしい催しにしたいですわ」と心の中で繰り返しながら、ラフェリアはこれから始まる準備と挑戦に、期待を膨らませる。


 こうして、静かな部屋に残るのは、領主と娘の満足感と希望、そして近い将来に現れる華やかな文化交流の光景。


 ラフェリアはただ純粋な期待に胸を膨らませていたーー

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ