順調
夕暮れの空が淡く染まり、裏通りの倉庫部屋にはわずかな灯りだけが揺れていた。
ミレイユとシャルロットが簡素なテーブルを囲み、ラインの到着を待つ。
ミレイユはフードを少し上げ、無表情な横顔で指先を軽く組んでいる。シャルは壁にもたれ、軽く髪を撫でて間をつないでいる。
間もなく扉が軋む音とともにラインが姿を現す。
「やぁ、お待たせ」
ラインは以前に比べ、わずかに表情が柔らかい。最近は大きな陰謀もなく、町も落ち着いているせいか、彼も余裕があるのだろうか。
「で、どうだった?」
シャルが先に口火を切る。「あなたが苦労して構築してきた関係、そろそろ手応えがあってもいい頃じゃない?」
ラインは軽く微笑む。「ああ、レイヴンクロウ隊はすっかり僕への信頼と依存を深めている。 剣も魔法も人並み以下の僕が、ほぼ自由にパーティーを動かせるようになったといってもいい。 とはいえ良心や常識の範囲内なら、だがな」
ミレイユがわずかに目を細める。「彼らを通じて領主や街の有力者とも繋がりができたみたいだし、あなたの思惑は、ほぼ実現しつつあると見ていいの?」
ラインは首をかしげつつ、わずかに頬を上げる。「ああ、実は先日、領主の娘に会ったよ。彼女を助けた功績をガルフォードたちが大げさに語ってくれたおかげで、領主や娘の反応はかなり良好みたいだ」
「ふうん、領主の娘ね」
シャルロットは小声で鼻を鳴らし、「すっかり有名人じゃない。あなたが裏でやってたことは知られてはいないけれど、評判は良い、と?」
ラインは軽く両手を広げる。「あぁ、バレてはいない。ガルフォードたちも僕を英雄的に語るわけでもないが、“裏で支えてくれた助言者”のおかげだ程度に話してくれたらしい。これで領主やラフェリア様は僕に興味や感謝を示している」
ミレイユはフードの下で少し口元をほころばせる。「つまり、あなたの狙い通り? 領主と直接繋がれば、パーティーを介さなくても権力にアクセスできる」
ラインは肩を軽くすくめる。「完全に狙っていたわけでもないが、おおよそな。 次は領主の権力を動かせるようにしたい」
シャルロットは唇の端を吊り上げ、「領主や娘との関係を深めて、強い立場を取るのね?どんな手を使う気?」
ラインは落ち着いた声で答える。「まずは彼らが僕を必要とする状況を用意することだ。もちろん、無理やり事件を起こすわけにはいかないが、情報面で領主が手を焼いている小さな問題に手を貸す。善意と平和的な手段で街を補強することで、僕の存在を自然に欠かせないものにしていく」
ミレイユがフードの下で「なるほど」と呟く。「武力や強引な策略じゃなくて、“この人に頼めば小さな問題が自然と解決する”と領主たちに思わせるのね。それで、より直接的な関係を築く、と」
「そういうことだ」
ラインは笑みをほとんど表に出さず、淡々とした口調を維持。「レイヴンクロウ隊はすでに無条件で僕を信じるようになっている。次は領主たちが判断に困るような些細な案件に手を貸し、『あの人なら助けてくれる』と確信するように仕向ける。そうなれば、領主側も僕を必要だと感じるようになる」
シャルロットは目を輝かせる。「なるほど、暴力も脅しもなし。むしろ善行を積み重ねて、後戻りのできない信用関係を作るのね。確かに、それなら誰も疑わない。それどころか、ラインが表に立たずとも政治的影響力を持てる」
ミレイユは静かに頷き、笑いながら少し誂うように「あなたは悪ぶってるけど、根は善人よね」と言った。
ラインはわずかに声を和らげる。「僕は善人と呼ばれる気はないが、結果的に街が安定し、領主からの信頼も得られるなら最高じゃないか」
シャルロットは「フフッ」と喉で笑う。「あなた、そうやってどんどん人心を掌握していくのね。でも、私たちにとっても都合がいいわ。大事件なしで、我々が生きやすい環境を整えてくれるんだから」
ミレイユはわずかにフードを揺らし、「ええ、ライン、あなたが街や人々に尽くしていくなら、私も少し気が楽になるわ」
その言葉には、微かな安堵がにじむ。
ラインは余計なことは言わず、ただ静かに頷く。「さしあたって、領主とレイヴンクロウを通じた信用は確保済みだ」
シャルロットは「順調ね。 正攻法の場合は”真実”を捻じ曲げる必要がないから簡単でいいわ」
ラインは軽く笑い、「むしろ、誠実な支援を積み重ねるほうが、長期的に強い立場を築ける。僕たちが望む情報を手に入れるにも、魔力理論を研究するにも、領主の協力があれば扉は開きやすいだろう」
ミレイユは小さく微笑む。「結局、善行があなたの最大の武器になっていくわけね。面白い皮肉だわ」
ラインは「そうかもしれないな」と淡々と返しながら、視線をシャルロットからミレイユへ移す。「これからも、二人の力を借りることになる。必要な時には"真実"を捻じ曲げるような情報操作を頼むことになるけれど、よろしく頼むよ」
シャルロットはすんなり頷く。「任せておいて。あなたがどう街を動かすのか、楽しみにしてるわ」
ミレイユはフードの奥で微笑み、「えぇ、あなたを信じてる」
こうして三人は、静かに今後の方針を確かめ合う。
ラインはラフェリアとの関係性を用い、領主の権力を柔らかく揺らし、強い立場を手に入れる計画を進める。
すでにAランクパーティーは表では自在に動かせる。
次は領主とその娘、そして街全体を動かせる影響力を紡いでいくのだ――そして、いずれはこの国をーー




