動揺
夜の宿舎の応接室には、ランタンの柔らかな光が揺れていた。
その下で、Aランクパーティー「レイヴンクロウ隊」のメンバーたちが静かに向き合っている。
昼間は外出や調査で顔を合わせる機会が少なかったが、今は副長を除いた全員が揃い、緊張した面持ちだった。
隊長ガルフォードがローテーブルに両肘をつき、低い声で切り出す。
「どうやら副長のセドリックがマルシェード商会と繋がっていて、不正な物資を流しているかもしれない……そんな話が広まっているようだな」
彼は念を押すように一人ずつ顔を見回した。
「ええ、さっきギルド周辺で耳にしました」
剣士の男が沈んだ口調で答える。
「副長が何か企んでいるらしい、と囁く者たちが増えています。このまま放置すれば、俺たちの名誉まで傷つくかもしれません」
「そんな……副長が、そんな危ない橋を渡る理由があるのでしょうか」
弓使いの女が困惑の表情を浮かべる。長年戦いを共にしてきた仲間を疑うのは痛ましい。
すると、治癒師のリーネが小さく手を上げ、皆の視線を集めた。
彼女は昼間、ラインという下級冒険者の男と話を交わしたことを思い出し、表情を引き締める。
「実は、今日ギルドで出会った人から、奇妙なロット不一致の噂を聞いたんです。『マルシェード商会の出荷する箱と公示ロット表が微妙に合わない』と。その人はラインさんといって、彼自身はDランクのようでしたが、なぜか内部情報に詳しく、彼の友人が不正を訴えて行方不明になったとも聞かされました」
「ライン、か……」
ガルフォードがその名を反芻する。
「君が直接話したのか? 何か証拠は?」
「証拠はまだ確認していません。ですが、ラインさんは内部事情についていろいろ教えてくれました。具体的な検証手段も示してくれました。嘘ならすぐにわかりますし、わざわざそんな嘘をつく意味もないでしょう」
リーネは少し悩みながらも不審な点はないと伝える。
「彼の友人は正義感が強くて、上層部に訴えると言い出した途端行方不明になり、つい先日遺体で発見されたそうです。ラインさんは友人を失った怒りと悲しみから、不正の真相を突き止めたいと言ってました」
「遺体で……?それは闇が深いわね」
弓使いの女が顔を曇らせる。
「もし友人が不正を告発しようとして殺されたのなら、内部の犯人は相当用意周到なはず。セドリックがそこまで関わっていると断定はできないが、無視はできない話だ」
「リーネ、その人は他に何か言っていたか?」
ガルフォードが尋ねると、リーネは思い出すように視線を落とした。
「もうすぐ行われる領主依頼の物資を改めて確認すれば、何かしらの矛盾点が見つかるんじゃないかと彼は言っていました。『倉庫で実際にロットを比べればいい』と。彼はそれで真実が出れば、友人の無念も晴らせるはずだと……」
「なるほど、ラインとやらの動機も筋が通っているし、公示ロットと実物を照合するという提案も悪くない」
剣士の男は納得したように頷く。
「確かに、もし不正があれば即座に分かるし、なければ副長への疑念も少しは和らぐ。どちらにせよ、倉庫確認は必要だな」
「副長がいない間に証拠を押さえられれば、一方的な言いがかりにならない」
ガルフォードは微かな決意の炎を宿した瞳でメンバーを見渡した。
「この問題は、単なる噂話ではなく、人命に関わっている可能性すらある。ラインとやらの話が真実なら、告発者は口封じで殺された。俺たちも安全ではいられない。誰が犯人でも、真実を突き止めなければ、領主依頼が始まる前に隊は崩壊しかねない」
リーネは唇を噛む。
「疑うのは辛いですが、行かねばなりませんね。もし何もなければいいけれど……」
「分かった。明朝、倉庫を再点検する。ラインさんも同行を申し出ていると言ったな?」
ガルフォードは思い出したように言う。
「彼の協力は利用しよう。慎重に動けば、どちらに転んでも我々に有利な材料が得られる」
部屋には重い沈黙が落ちたが、それは覚悟の証だった。
この夜、ラインから得た情報がパーティーを動かす大きなきっかけとなった。
そして明日、倉庫での確認が、パーティーと副長の運命を大きく揺さぶることになる。