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誘宴

 長く続いたヴァランの陰謀と魔獣騒動が収まり、街には穏やかな気配が戻りつつある。

 露店には果物が並び、子供たちが笑い声を上げながら石畳を走り抜ける。

 そんな、少し気が緩んだような空気の中、Aランクパーティー「レイヴンクロウ隊」と、彼らに縁のある謎多き助言者ラインが、街角で再び顔を合わせていた。


 「おはよう、ラインさん!」

 真っ先に声をかけるリーネは、治癒師としてパーティーを支える柔和な女性だが、今はまるで尾を振る子犬のように人懐こい笑顔を浮かべている。

 彼女は以前にも増してラインに信頼を寄せ、親しい友人に話しかけるような軽さと喜びを滲ませる。

 「おはようございます、リーネさん」

 ラインは相変わらず淡々と答えるが、リーネの明るさに少し引き込まれるような柔らかい空気が流れる。


 近くではロウェンが腕組みし、セリーヌが地図を手にして立っている。

 ガルフォード隊長は少し離れた場所で人通りを眺め、街が如何に落ち着いたかを実感しているようだった。

 リーネはラインに更に近づき、まるで甘えるような瞳で「あなたがいると、なんだか安心するんですよ」とささやく。

 その声には純粋な安心と敬意が混ざっていて、セリーヌは「リーネ、いい加減少し落ち着きなさいよ」と軽く揶揄するほどだ。


 「まあ、わからないでもないわ」

 セリーヌが肩をすくめる。「何せ、私たちはあの大事件から立ち直れたのも、ラインさんの助言のおかげだから」

 ロウェンもうなずく。「セドリック副長の不正事件の時は、俺たちの名誉は地に落ちそうだったんだ。

 でもラインのおかげで名誉挽回できた。

 あれがなければ、領主が再び俺たちを信用してくれることもなかったろうな」


 ガルフォードが戻ってきて、しばし黙った後、口を開く。

 「ところで、ライン。

 実は領主から、俺たちレイヴンクロウ隊に招待の話が来ているんだ。

 先の事件……魔獣討伐中、冒険者も騎士団も不在の隙を突くようにラボを強襲して、囚われていた領主の娘ラフェリアを救い出したことが決定打になったらしい。

 領主は俺たちを高く評価している」

 彼は言葉を選びながら続ける。「まあ、名誉挽回できたってことさ。

 噂によれば、領主は我々とその手柄について話を聞きたいそうで、屋敷へ招きたいと言っている」


 ロウェンが誇らしげに鼻を鳴らし、「あれだけの悪評を払拭できたんだ。

 このまま関係を強めるには、領主邸訪問はいいチャンスだろう」と頷く。

 セリーヌは得意げに「魔獣や組織の残党が蠢く中、私たちは完璧に状況を覆したもの。

 領主が興味を持つのも当然よね」と笑う。

 リーネはキラキラとラインを見つめ、「もちろんラインさんも行きますよね?

 だって、あの時、あなたがいなきゃ、私たちはただ魔獣と戦っていただけだもの」と言い、頬を染めながら近づく。


 ガルフォードは咳払いしつつ、視線をラインへ向けた。

 「そう、領主はパーティー全員を招待する予定だが、正直なところ、俺たちが成功した裏には君の助言があったと知れば、彼は君にも興味を抱くだろう。

 もっとも、現時点では領主は君のことはよく知らない。

 俺たちが屋敷でちゃんと説明すれば、ライン、お前も招かれた意味が分かるというものだ」


 ラインは少し考え込む仕草をとり、眉をひそめる。

 「僕はあくまで臨時で助言しているだけです。

 名簿に名を連ねている正規メンバーではありませんし、このような公式な場へ出るのは分不相応かと……」

 その言葉に、リーネは明らかにショックを受けた顔になる。「そんなこと……ラインさんがいなかったら、ラフェリア様を救えていません!」

 ロウェンも険しい顔で「そうだ、実際あの奇襲時に、誰がどう動くべきか、ラインが示した情報と誘導がなければ成功率は下がってたはずだ」と主張する。

 セリーヌは苦笑い。「ラインさん、謙虚すぎるわよ。

 領主邸への招待はむしろあなたの手柄をきちんと伝えるいい機会よ」


 しかし、ラインは首を横に振る。

 「ありがとうございます。

 でも、臨時という立場以上に、僕は表舞台に立つべき存在ではないと自負しています。

 Aランクパーティーの名誉はあなた方が十分保っている。

 領主があなた方を評価したいなら、正規メンバーだけで十分です」

 その冷静な拒否に、リーネは「でも……」と言いかけて、言葉を失う。

 セリーヌは腕を組んでため息をつき、ロウェンは沈黙。

 ガルフォードは軽く眉をひそめ、「本当に行かないのか?」と念を押す。


 ラインは淡々と答える。「ええ、今回は辞退させてください。

 領主がまだ僕を知らない状況で、いきなり出て行っても困惑させるだけかもしれない。

 まずは皆さんが堂々と手柄を認められれば、それでいいと思います」

 ガルフォードは不満げだが、無理強いできない。

 「わかった、君がそう言うなら仕方ない。

 領主へは、まず我々だけが赴くとしよう……」

 ガルフォードは視線を落とす。

 リーネは唇を尖らせながら「…本当、もったいないわ」と小声で呟いた。

 彼女の瞳には、もっとラインに誇らしげに世に出て欲しい気持ちが揺れている。


 セリーヌは仕方なさそうに、「ラインさんらしいわね」と肩を落とす。

 ロウェンは短く息をついて、「まあ、いいさ。俺たちがしっかり誉めておくよ」と僅かに笑う。

 リーネは最後に未練がましくラインの袖を引き、「早く正式にうちに入ってくれればいいのに⋯⋯」と小さく囁く。


 こうして、彼らの議論は一旦ここで収束する。

 大事件を経て関係が安定した今、ラインが目立つ必要はない。

 だが、リーネの切なげな表情、セリーヌやロウェンの残念そうな雰囲気が、ほんの少しだけ人間関係に揺らめく波紋を残した。


 穏やかな朝の光が、彼らの姿を柔らかく包み込む。

 騒々しい陰謀の嵐は過ぎ去り、今は小さな情感が交錯するだけの静かな幕開けだ。

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