表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/41

計画

夜の闇に沈むオルグリアの外れ、人気のない不思議な形をした施設の一室で、二つの人影が揺れるランプの光に浮かび上がっていた。


そこにいるのは、闇組織「ヴァラン」の幹部たちだ。

一人はグラシードと呼ばれる男。背が高く痩せた体躯、骨張った頬骨を持ち、鷹のように鋭い眼光で周囲を睥睨している。黒いコートの襟を高く立て、その内側には様々な薬品と小道具が隠されているらしく、体を動かすたび微かな金属音が響く。

もう一人はレイラという名の女性。艶のない暗緑色の髪をきつく後ろでまとめ、小さなゴーグルを額にずらしている。袖の短い外套から細い腕がのぞき、化学実験で黄ばんだ薬染みの跡が微かに残る。薄笑いを浮かべる彼女の瞳には、冷えた知性が宿っていた。


この「ヴァラン」は、科学技術に優れた闇組織として名を潜めており、独自の薬物と魔力操作で密かに魔獣を操る技術を持つ。彼らは既に一度、魔獣を暴走させて領主を揺さぶろうと試みたが、思わぬ障害に遭い計画は失敗に終わった。


「前回は誤算だったな、レイラ」

グラシードが低く唸る。その声は乾いており、壁に染み込んだ埃の匂いと相俟って陰鬱な空気を醸し出していた。

「奴ら冒険者があまりに早く対応しやがった。わざわざ希少な『アルハデス液』を使って魔獣を狂乱状態にしたのに、結局大した効果を得られずじまいだ」

彼は机上の瓶を指先で軽く弾き、苦い表情を浮かべる。


「今回はそう簡単にはいかないわ」

レイラが肩をすくめる。

「アルハデス液はもう残り少ない。この希少薬品があれば、特定の魔獣をさらに大規模かつ長時間暴走させられるけれど、これが最後の一本。つまり、あと1回しかチャンスはないの」

その声には苛立ちと焦燥が滲み、ゴーグルの下で細めた目が儚い光を帯びている。


「だからこそ、全力でやる」

グラシードは握り締めた拳をテーブルに置く。

「領主の娘、名はラフェリアだったな。あの娘を必ずラボへ連れて来させるんだ。前回は計画が中途半端で、ラボまで誘導する前に魔獣が鎮圧されちまった。この失敗を繰り返すわけにはいかねえ」


彼は暗い笑みを浮かべ、レイラは悪意を帯びた光を瞳に宿しながら続ける。「ラボには我々が求める研究資料や器具が揃っている。領主の娘ラフェリアの血は特異な魔力因子を含んでいるらしいわ。それを使った特殊な実験が、この街の支配構造を根底から覆す力を我々に与える。娘を人質にするだけじゃない、彼女の血を抽出し、調合すれば、さらなる権勢を得ることができるの」


指先で薬瓶を弄びながら、レイラは小さく笑った。

「領主を従えるだけじゃない、その成果は我々『ヴァラン』の研究を飛躍的に進める。前回のような失敗は許されないわ…今度こそ娘を手中に収め、ラボで魔力薬品の秘密を解き明かすのよ」


「当然、魔獣を暴走させるにはコストがかかるけどな。二度目の今回は、前回より遥かに大規模にする。森を踏破するほどの数を動かし、冒険者や騎士団ごと足止めしてやる。奴らが四苦八苦している隙に、娘をさらい、ラボで骨抜きにするんだ。アルハデス液を全量投入すれば、前回以上の狂乱が引き起こせる」


グラシードは黒い結晶を指先で弾き、「失敗は許されない。ここで領主の娘ラフェリアを手中に収め、技術資料を完成させれば、次は我々がこの街の闇を支配できる」と言い放った。


こうして決意を固めた「ヴァラン」は、再度魔獣狂乱計画を発動しようとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ