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底辺冒険者、影の支配者として裏から糸を引く  作者: 来夢
Aランク パーティー掌握編
12/41

エピローグ

 夜も更けた頃、オルグリアの外れにある廃屋の一室。窓はなく、粗末な椅子とテーブルがあるだけの暗い部屋。あの一連の計略が終わった後、ライン、シャルロット、ミレイユの3人は再びここで顔を合わせていた。


「結局、あのパーティーはあなた……いえ、私たちに大きく依存するようになったみたいね」

 シャルロットはくすっと笑い、テーブルに頬杖をついてラインを見る。その瞳には、満足とわずかな誇りが混じっている。

「ふふ、私が流した領主特使の噂、すごく効いていたみたいじゃない。商会側も副長も踊りまくったわね。誰かさん、まるで楽団の指揮者みたいだったわ」


「ありがとう、シャルロット。君が市場や酒場でさりげなく噂を転がしてくれなければ、特使来訪のフェイクはこんなに自然に浸透しなかった」

 ラインは控えめな笑みを浮かべる。

「それに、あのサロンでリーネが聞いた暗殺計画の断片――あれも君が用意した“即席俳優”達が上手く演じてくれたから、確信に至れた。半端な話を小出しにすることで、リーネ達は臨時給仕人たちに聞かされた程度の噂を、自分で発見した真実だと思い込んだはずさ」


 ミレイユはフードを外し、紙片を指で弾く。淡々とした口調で言う。

「私の方は、報告書やロット表に微妙な改ざんを仕込むために商会書庫に潜り込んだあの夜が一番大変だったわ。公示ロット表の筆跡を何度も再現し、領主代理人に似せた印章を準備して、存在しないロットを自然に見せかけるには細心の注意が必要だった」


「あれはターゲットの信用を勝ち取るための最も重要なピースだったからね。パーティーが倉庫で不正の証拠を発見し、確信を深める流れがなければ僕のことは信じてもらえないし、副長を炙り出す材料も足りなかった。いつも通り素晴らしい仕事だったよ、ミレイユ」


「そうね。ミレイユの手腕は大したものよ。不正の証拠を掴むだけでなく、不正の証拠を“創り出し”ちゃうんだから。まさか不正の品がないにも関わらず不正の証拠が出てくるなんてセドリックは夢にも思わなかったでしょうね」

 シャルロットは愉快そうに笑う。


 普段表情があまり変わらないミレイユだが、二人から褒められて照れているのか、口角が少し上がり、頬が赤くなっている。


「レイヴンクロウ隊が、なぜあれほど早い対応ができたのか、セドリックは最後まで理解できなかったんだろうね。自分が操っていると思い込んでいた周囲が、実は僕らの演出した舞台で踊っていただけだとは」

 ラインは指先で机を軽く叩く音を刻む。

「彼らはこれで僕らなしには問題解決できないと痛感した。参謀役として僕を受け入れただろう? もっとも、あまり常駐すると目立ちすぎる。だから、外部アドバイザー、臨時協力者として関わることにした。パーティーが困った時だけ姿を見せれば、僕の価値はますます高騰する」


「まあ、しばらくはあなたが定期的に彼らを救うヒーロー役でいられるってわけね」

 シャルロットは喉を鳴らすように笑い、ミレイユは無言のまま、わずかに頷く。


「……レイヴンクロウに対しては私たちの出番はもっと控えめにしておいた方がいいと思う」

 ミレイユが淡々と言う。

「サロンでリーネを追い出すため、影縫いのフリをしたあの瞬間が少し気がかり。もし何度も似た手を使えば不審に思われるかもしれない」


「あー、そういえば私もリーネに“シャーロッテ”って偽名で接触して噂流してたから、冒険者仲間ってポジションでしか近寄れないわ」

 シャルロットは軽く肩をすくめる。


「あぁ、影縫いって架空の暗殺者の噂を流してもらったのも結構良かったね。ミレイユが本物の影縫いだと思われちゃってると今後に支障があるかもしれないから特にリーネとは距離を開けておいたほうが良さそうだね」

 ラインは冷静に指摘する。


「そうね、まぁ影縫いを名乗ったわけでもないし、なんとでもなりそうだし良しとしましょう。でも次は、今後の関係も考えて接触したほうがいいかもしれないわね」

 シャルロットは軽く手を広げて、茶化すような目線をラインに送る。

「あなたが考えた偽の輸送準備と特使のデマの二段構えの策は大成功。パーティーはもうあなたなしには前へ進めない。臨時参謀として、より高値で買われる未来が待っているわ」


「ありがとう、二人とも。君たちの協力がなければ、ここまで上手く運ばなかった」

 ラインは感謝の言葉を囁く。ここまで全てが想定内。後は、タイミングを見計らってまた一歩ずつパーティーを自分の方へ引き寄せるだけだ。


 ミレイユはフードを被り直し、シャルロットは気楽な仕草で退出の準備をする。

「じゃあ、私は次の輸送任務まで噂レベルで情報を調整しておくわ。何か必要があればまた呼んでちょうだい」

「私は新たな書類偽装のためのサンプルを集めてくる」


「頼むよ」

 ラインは静かに微笑む。その笑みは、陰影の中で冷静さと自信を帯びている。彼ら裏方の三人が醸し出す穏やかな達成感は、誰にも知られず、ただ暗がりに溶け込む。今夜の作戦を経て、彼らはさらなる高みへと近づいていた。

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