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底辺冒険者、影の支配者として裏から糸を引く  作者: 来夢
Aランク パーティー掌握編
11/41

最高のポジション

 翌朝、まだオルグリアの通りが半分眠っている頃、レイヴンクロウ隊は副長セドリックとその関係者を領主代理人の下に引き渡していた。昨夜の激戦で加担者たちは捕縛され、不正と暗殺計画の事実もあらわになった。パーティーは勝利の余韻に浸る反面、裏で糸を引く者の存在があったことを確信する。


 小さな応接間、陽が差し込む前の淡い光の中、ガルフォード、リーネ、剣士、弓使い、そしてラインが揃っていた。リーネは包帯を巻いた腕をさすりながら、ラインに視線を向ける。昨夜、彼女が人質になった際、ラインの凄みが際立った。彼は剣を取らず、魔法も唱えないが、口と頭脳だけで副長に人質解放を選ばせた。その落ち着きと知略は、リーネにとって今まで見たことがないタイプの“強さ”だった。


 リーネの頬が少し紅潮していることに、剣士と弓使いは気づいたが、あえて口にしない。それが彼女なりの感謝と憧れであると読み取ったからだ。


「さて、捕らえられたセドリックが何度か口走っていたな……『なぜこんなにも早く手を打てたのか』『誰がこんな状況を作ったのか』と」

 ガルフォードは腕組みをして、ラインへと顔を向ける。

「正直、私も不思議だ。領主特使の噂や輸送準備の情報が流れたのはごく最近なのに、それがフェイクで我々を優位に立たせたなんて、まるで相手の手の内を全て読んでいたようだ」


 ラインは控えめな微笑みで首を傾げる。

「計算と運が半々でしょう。友人の無念を晴らすために、多少の下調べや人脈を使いました。マルシェード商会の動きを予測し、副長が不正物資を紛れ込ませていると知った時点で、彼が焦れば必ず無理筋の行動を起こすだろうと踏んでいたんです」


「つまり、あなたは最初から副長が罠に落ちるシナリオを描いていたわけね」

 弓使いの女が感嘆の声を漏らす。

「……すごいわ、ラインさん。私たち、あなたなしでは正面対決するしかなかった」


 リーネはラインに歩み寄り、小さく微笑む。その表情には昨夜の恐怖と、そして救われた安心、なによりラインへの特別な想いが滲んでいる。

「昨日は、私……あなたがいなければ人質のまま危ないところだった。本当にありがとう」


 ラインは伏し目がちに頷く。

「お礼を言われるほどのことはないですよ。僕は剣も魔法も使えないから、せめて情報戦で役に立ちたかっただけです。友人の仇を討ちたい気持ちも、あなた方を助けるモチベーションになりました」


 ガルフォードは深く息をつく。

「あなたの知略がなければ、この暗殺計画と不正騒動はもっと長引いたかもしれない。副長を捕らえたとはいえ、これから領主への正式報告やマルシェード商会側との精算が残っている。そこでもあなたの洞察力や交渉術が必要になるだろう。正式な参謀として、我々に加わってくれないか?」


 その提案に、剣士と弓使いも期待を込めてラインを見る。

 リーネは胸が高鳴る。彼がパーティーの一員になってくれれば、これからどれほど心強いか……。


 ラインは驚いた表情を浮かべ、ゆっくり頭を振る。

「ありがたいお誘いです。ただ、僕は戦力に直接貢献できませんし、常に皆さんと行動するにはいろいろ不安もあります」


「いや、君の戦闘時の動きを見ていたが物怖じすることなくサポートを行えていた。Aランク相当とは言わないが訓練次第でBランク相当のポーターとしても通用するんじゃないか?他にも役割はきっとあるはずだが……」


 ラインは困った顔をして頷いた。

「そうですね、では“臨時”の参謀という形で協力させていただけませんか?依頼や状況次第で呼んでいただければ、その時は知恵をお貸しします」


「臨時……?」

 ガルフォードは首を傾げる。


「ええ、僕はただの下級冒険者ですし、皆さんと一緒のパーティーに加入させていただいても長らく個人ランクが上がらずご迷惑をおかけしてしまいますし、正式加入ではなく臨時加入という形にしていただければ裏から協力することもできます。あくまで外部アドバイザー的な立場でいさせてもらえれば、情報を集めるにも動きやすいんです」


 ラインはさらりと言い訳を織り交ぜる。真相は、パーティーを完全に掌握するまで表立って参加するつもりがないからだが、誰もそれを疑わない。


「分かった、臨時でも構わない。あなたがいないと、これから始まる領主依頼での難局も乗り越えにくいだろう」


 ガルフォードは納得したように微笑む。

「君には報酬も用意しよう。今回の一件であなたがどれほど価値があるか、我々は痛感した。リーネ、剣士、弓使い……皆、彼の判断なしではここまで迅速にセドリックを倒せなかったと感じている」


 リーネは少し恥ずかしそうにうつむく。

「本当に、頼りにしてしまいそうで怖いくらい……でも、それはあなたが凄いからですよ」


「凄いだなんて。僕はただ、可能性を示しただけですよ」

 ラインは軽く肩をすくめて微笑む。その仕草にリーネは胸を高鳴らせ、剣士と弓使いは苦笑する。


 こうして、全てがラインの狙い通りに運んでいた。彼は正規メンバーにはならず、外部参謀としての立場を確保することに成功する。パーティーは自然とラインに依存し、リーネは彼にほのかな憧れと感謝を抱く。対策の早さや計画の妙を目にし、誰もが彼を必要としていた。


 朝日が昇る頃、パーティーは副長関連の後始末を続け、領主報告への下準備に取りかかる。そんな中、ラインは密かに笑みを浮かべる。盤上の駒は思い通りに動き、臨時の参謀という立場は、パーティーを自分の手の中へ徐々に導くための最高のポジションだった。

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