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【番外編5】 寂しがり屋


 この頃、クライヴの仕事が立て込んでいるらしく、彼は連日夜遅くに帰ってきた。

 それからも書斎に(こも)っているような状況で、ラフィナと一緒に食事も取れないぐらいだった。


 ……ここ数日ラフィナは1人にされて寂しい思いをしていた。


 そんな彼女は、歌うための部屋で大きな窓際に立ち、空を見上げていた。

「…………」

 今日はシトシトと雨が降っており、灰色の空が広がっている。

 そっとガラスの窓に触れて、当たった雨がサラサラ流れていくのを眺めた。


 ラフィナの心の中のような空模様だった。

 彼女は大好きな歌を歌っても心が晴れなかった。


 ……この部屋には防音魔法がかかっているから、どれだけ歌っても書斎にいるクライヴには迷惑かけないんだけど……


 ラフィナがシュンと項垂(うなだ)れた時だった。

 廊下からこの部屋に続く扉が開き、クライヴが現れて彼女に声をかけた。

「やっと終わったよ」

「クライヴ!」

 パァッと笑顔を浮かべたラフィナが、クライヴに駆け寄り抱きついた。

 

 クライヴはラフィナの頭を撫でながら、あくびを噛み殺す。

「疲れたから、ちょっと休むよ」

 彼はラフィナの頭をポンポンと叩くと、抱き合っていた体を解いて、1人で寝室に向かった。


「…………」

 何か言いたげなラフィナが、クライヴの背中を追いかけた。


 


 ーーーーーー


 寝室に入った僕はベッドにボスンと倒れ込んだ。

 目を閉じたまま仰向けになるように体を反転させる。

 すると、体の右横に柔らかくて温かいものがくっついてきた。

 半分眠りに入った頭で〝ラフィナかな?〟と思っていると、唇に何かが触れるのを感じた。


「…………」

 ゆっくり目を開けると、ラフィナが覆い被さるようにして僕を上から覗き込んでいた。

 エメラルドの綺麗な瞳をぼんやり見つめる。

 目線を下に向けると、彼女が指先を僕の唇に当てていた。

「……私の血、飲む?」

「…………うん。じゃあ、いただこうかな」

 僕は穏やかな笑みを浮かべた。


 ……疲れている僕を、ラフィナなりに心配してくれているのかもしれない。


 僕は唇に添えられていた彼女の手を握ると、麻痺の魔法をかけた。

 口を開くと、ラフィナが人差し指を差し込んでくれる。


 なるべく優しくその指を噛むと、ラフィナの甘美な血の味が口の中に広がった。

 久しぶりに飲む彼女の血をゆっくり味わいながら、コクコクと飲む。

 ラフィナが僕の右半身に伏せるようにくっついて、熱心に様子を眺めていた。


「……ごちそうさま。ありがとう」

 しばらく血の味を堪能した僕は、ラフィナの指から口を離した。

 そして再び目を閉じる。


 美味しい物を飲んで、ラフィナの温かさを感じて……いい夢見れそう……


 なんて微睡(まどろ)んでいると、不意にラフィナの歌声が寝室に響き渡った。

 驚きのあまり少しだけ眠気が吹き飛んだ僕は、目をひらいて歌い続けるラフィナを見た。

 だんだんと彼女の歌声に惑わされていき、欲情の熱が灯る。

 

「…………」

 歌い終わったラフィナが、僕をすまなそうに見た。

 そして唇に控えめなキスを落としてくる。

「まだ寝ないで」


 僕は彼女を片手で抱きかかえ、もう一方の手をマットにつきながら体を起こした。

 2人してベッドに座った体勢になる。

 ラフィナは僕の胸にひたいをくっ付けて(うつむ)いている。

 そんな彼女の両頬に優しく手を添えて、ゆっくりと上に向かせた。


 思った通り、顔を真っ赤にさせたラフィナの潤んだ瞳と目が合った。

「もしかして……相手して欲しかったの?」

「……うん」

 顔を固定されているラフィナが、せめてもの抵抗なのか目線をそらした。


 僕は笑いながら、いじらしい彼女にキスをした。

 ラフィナが僕を求めるなんて初めてだった。

 こんな可愛らしいお願いは、多少疲れてても聞いてあげなきゃ。


 眠気と欲情の熱のせいで、いつもよりフワフワする頭でそんなことを考えていた。

 繰り返しキスをしながら、ラフィナを押し倒してベッドに沈み込むと、彼女は幸せそうに笑っていた。

 


 


 

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繋がっていく作品の紹介

『人から向けられた願いを叶えます』蒼刻の魔術師ディランと一途な白猫のジゼル

リンクしているお話
☾ 96話〜98話、128話〜131 話

続きのようなお話
☾ 130話から

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