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人には言えない2人だけの秘密と楽しみ。地上に舞い堕ちたセイレーンのラフィナ  作者: 雪月花


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10/21

【番外編7】 ケンカ


 あれからラフィナとの攻防戦に全て負け続け、血を飲まなくなって4日目を迎えていた。

 手先がたまに震えたり、気がつくとボーッとしたりする禁断症状が出てくる時期だ。


 もうケンカの内容なんか関係なく、お互い意地になっていた。

 

 ……ラフィナは楽しんでいる気がするけど。

 なんて酷い子なんだ。

 僕は、ただ血が飲みたいだけなのに。


 断酒ならぬ断血状態の僕は、思考力も低下しているのを感じた。


 ……けど、今日は子守唄の対策をしてきた。

 これで……勝てるはず!




 僕は意気揚々と別邸の玄関扉を開いた。

「ただいま」

 ゆっくりエントランスまで歩いていくと、奥からパタパタと駆けてくるラフィナの足音が聞こえた。


「おかえりなさい」

 ニコニコ顔のラフィナが出迎えてくれた。

 

 僕たちは、歌の後の攻防戦以外はいたって普通だった。

 表面上は。


 けれど実はもう戦いは始まっている。

 今日のラフィナは髪を結い上げて、その白いうなじを僕に見せつけていた。

 

 『首に噛みついて血を飲みたい』という僕の本能を知っている彼女は、わざとそうして(あお)ってくる。

 僕がうなじを見つめている視線に気付くと、ラフィナは意地悪くクスッと笑った。


 ……もうここで襲うぞ。


 僕は目を逸らして心の中で悪態をついたが、努めて平然を装い、ラフィナと夕食の準備をした。




 いつものように、僕たちは歓談しながら美味しい食事とお酒を味わった。

 それに満足した所で、ラフィナが歌うための部屋に僕を誘導する。

 禁断症状中の僕は、お酒が入ると無性にラフィナを恋しく思い、歌を聞く前から頭がぼんやりしていた。


 僕は部屋の奥のソファに深く腰掛けて、呼吸を落ち着かせる。

 そしてラフィナの美しい歌声を聞きながら、最近の攻防戦のことを思い出していた。


 ……1度は先手必勝で、歌い終わったラフィナの手をすぐ取って、血をいただこうとした。

 けれどそれを予期していたのか、歌い終わる前に続け様に子守唄を歌われてしまった。


 昨日はベッドの上で、ちょっと可哀想だけどラフィナが歌わないように口を塞いだ。

 けれどハミングで器用に子守唄を歌われるとすぐに眠ってしまい、血にありつけなかった。

 ラフィナの口を塞いでいた手から力が抜けるころ、彼女の楽しそうな笑い声が聞こえた気がする。


 ……やっぱり酷くない?

 僕はただ血が飲みたいだけなのに……


 低くなった思考力でそんなことをまた思っていると、歌い終えたラフィナが僕を振り返ってニコッと笑う。

 その優しげなエメラルドの瞳に、優越の感情が宿っているように感じた。


 僕はフラフラと彼女に近づくと、思わず聞いてしまった。

「……もしかして焦らしてる? 僕を焦らして喜んでる??」

「あはは。そんなことないよ。いつまでもつかな〜とは思っているけど」

 ニヤニヤ笑っているラフィナが、僕の手をとって歩き出した。

 寝室へと連れて行ってくれるようだ。

「やっぱり楽しんでるよね? そんなに意地になるのって、ラフィナはあのパーティでやましいことがあるんだ」

 僕はわざと意地悪な言い方をした。

 これまで遊ばれた仕返しを込めて。


 そして寝室に入ると部屋のランプをすばやく付けた。

 明るいと嫌がるラフィナのために、いつもは真っ暗なんだけど。

 これも仕返し。




 案の定、寝室に入ったラフィナが僕を振り返ってしかめ面をした。

「私は何も……ってキャッ!」

 そんなラフィナを抱き上げながらベットに放り投げた。

 あくまでも優しく。


 そして僕を睨みつけているラフィナに覆い被さって耳元で囁く。

「分かってる。ラフィナってすごく男慣れしてる訳でもないし、あんまり遊んでないだろ?」

「〜〜〜〜っ!」

 顔を真っ赤にさせたラフィナが、たまらずに子守唄を歌い始めた。


 僕は彼女に気付かれないように、ほくそ笑みながら目を閉じた。

 そしてラフィナの上に倒れ込み、彼女の首元に顔をうずめる。

 しばらくラフィナが歌い続けているのをいいことに、僕はそっと麻痺の呪文を唱えた。




 ーーーーーー


 ラフィナが歌い終わると部屋は静寂に包まれた。

 彼女がポツリと呟く声がやけに響いた。

「……本当はそろそろ、イチャイチャしたいんだけどなー」


 僕は両手をついてガバッと上半身だけ起こすと、思わず叫んだ。

「可愛いっ!」

「!? なんで起きてるの!?」

「綺麗な首筋見せつけてくるから、首筋いっちゃう? あー、けどやっぱり危ないよね。禁断症状中だし……」

「え? え?」

 血が飲みたすぎる僕は、ラフィナのことを半ば無視して肩にパクッと噛みついた。

「ふわぁ」

 麻痺の魔法をかけて肩に噛み付くと、ラフィナにとってはこそばゆい刺激らしく、艶っぽい声をあげた。

 

 血を飲まれてしまったラフィナは愚痴をこぼした。

「っなんで子守唄が効いてないの〜?」

 僕はそんな彼女の頭を手探りでヨシヨシ撫でながらも、久しぶりに飲む血を目を閉じて味わっていた。


 たっぷり飲んだ所で、僕は静かになってしまったラフィナが気になった。

 彼女の肩からいったん離れて様子を窺う。

 そこには眉を下げて涙目になっているラフィナがいた。


 僕は自分の唇をペロっと舐めながら言った。

「防御魔法を帰りにかけてもらって来たんだ」

「……じゃあ、普通の歌……惑わす方も効いて無かったの?」

「うん」

「……それで今日は雰囲気ちょっと違ったんだ……じゃあいつも防御魔法かけて素の状態で吸えばいいじゃん。歌もその方がちゃんと聞けるし」

 ラフィナが口を尖らせてジト目で見てきた。

「最近、血を飲んだらある程度スイッチ入るんだよなぁ……」

「それって……」


「「条件反射」」


 僕たちの声が揃った。


「まぁ、今はそれプラス禁断症状なんだけどね。おかわり」

 僕はもう片方の肩に口を近づけた。

「!? もうダメだよ!」

 ラフィナが僕の肩に手をついて、グイッと押し返した。

「じゃあ、お望みのイチャイチャする?」

「……あらためて言われると恥ずかしいな」

 ラフィナは照れながらも、僕を押しのけている手の力を弱めた。


 僕はそんな可愛い彼女の瞼にキスをしたり、抱きしめたりして、久しぶりのラフィナをゆっくり味わった。

 ラフィナも僕の背中に手を回し応えてくれる。


「……子守唄を歌うと睡眠魔法がかかるって前から知ってたんだ?」

「うん」

「じゃあ、今までも本当に嫌だったら僕を眠らせたらよかったのに」

「…………」


 僕はニヤニヤして続けた。

「上半身に麻痺の魔法をかけた時とか、湯浴みに一緒に入った時……」

「あーあーあー! そんなこと掘り返さないでよっ!」

「あはは。僕を焦らした仕返し。嫌って言いながら本当はラフィナも好きなん……」

「もうっ! 血を飲んだあとだから、口にキスさせてあげない!」

 むくれたラフィナが、くるんと体を反転させて僕に背中を向けた。


 綺麗に結い上げていた髪が少し崩れていたけれど、白いうなじが見えていた。

「そう言えば、禁断症状中だった」

 僕はそのうなじにパクッと甘噛みする。

「ひゃあ」

「……食べないよ」

「うぅ……正気のクライヴは意地悪だ」

「じゃあ理性のない時の僕はどんな感じ?」

「…………もう、許してよ」

 ラフィナが耳まで赤くなりながら、しまいにはペタリと伏せてしまい、シーツに顔をうずめた。




 攻防戦に無事に勝った僕は、今までのうさを晴らすようにラフィナを恥ずかしがらせて、思う存分彼女を()でたのだった。




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繋がっていく作品の紹介

『人から向けられた願いを叶えます』蒼刻の魔術師ディランと一途な白猫のジゼル

リンクしているお話
☾ 96話〜98話、128話〜131 話

続きのようなお話
☾ 130話から

·̩͙✧*٭☾·̩͙⋆✧*•┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈•

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