第八話
俺は、どうしていいか分からずにいると、一條さんが言う。
「瑠菜わぁ、空くんとゴロナン、ゴロナンできるならどこでもいい」
「あっそ。じゃカラオケにする? ソファーもあるし、ポテトもあるし」
加川さんの答えに、御堂が指を立てて提案してきた。
「いい場所がある。そこならカラオケも食事も出来るし、映画も見れる。食事以外は全部コミコミ価格」
なに、そのパラダイス。すごい。さすがは御堂。デート慣れしてるなぁ。
一條さんも、それに賛成したので、俺たちは御堂の案内するほうへ。すると、奥まった通りを抜けて、見えてきたのはホテル街だった。思わず直立不動の姿勢の俺。
う、うぉい! ここ? 四人で入るの? そう思ってると御堂が言った。
「じゃあ美羽、入ろうぜぇ」
あ、ちゃんと二対二か……。って、安心できねぇ! 御堂は加川さんとそういう関係でも、俺と一條さんは、違う!
はっ! そうか! 御堂がここの支配者説再燃!!
俺が童貞のオロオロタジタジのところで、三人は俺に告げる。
『やっぱり童貞はカッコ悪ィなぁ』
『じゃあたしたちはグループで入るから、アンタは個室ビデオ屋にでも行きな!』
『はい、回れぇ、右! 目標、個室ビデオ。駆け足ィ、進め!』
と、こうくる! ぐ、ぐふ! あいたー! こりゃさらにダメージが深い! お三人様がホテルに入って何をするかを想像しながら俺は一人もんもんとしながら帰路に着く。
すると、腕に絡み付く一條さんがキュッと力を込めてきたので視線を落とす。そこには上目遣いの一條さん。
「あ、あのぉ、空くん? 私たちにはまだ早いよね?」
お、おう。そうです。早いです。そ、そんなハッキリと……。俺とキミとは入らない。だから、キミは御堂と入るって宣告ですか?
すると、加川さんは眉を寄せて御堂から離れ、俺と一條さんのほうに近づいてきた。ヤバい、『さっさと帰れよ!』とかって怒られる?
しかし、加川さんは御堂のほうを向いて声を荒げた。
「マジでなんなの? 今日は瑠菜と空くんとのダブルデートでしょ。終始つまらなそうな顔して。そんで自分勝手なことばっかり言うし、空くんよりも上みたいなの見え見え。終わってるわ、アンタの性格。もう無理。あんたなんかと別れる!」
「は、はあ? お前が勝手にダブルデートを決めてきたんだろうが! こっちはお前に合わせてんだよ。いいから、いつもみてえにヤらせろ!」
そう言い終わった御堂だったが、俺たちの後ろに視線を移すと顔を青くした。そして、小さな声で言う。
「あ、その、俺、急用思い出したわ。じゃ」
と言ってそそくさと走り去ってしまった。俺たちは、御堂の視線の先が気になって同時にその方向に振り返る。
そこには、顔中にタトゥーを入れ、そこらじゅうにピアスをつけた筋骨隆々のタンクトップ姿の男たちが五人、サングラスをかけた黒人さんもいる。それがこちらに向かってくる。
「きゃ……!」
一條さんと、それに続いて加川さんまでもが、その男たちの雰囲気に飲まれて俺の背中に隠れたが、俺は逆にその男たちへと近づいた。
「どうしました? 何か困り事?」
「ああ、分かる? ちょっと駅までの道、聞きたいんだけど」
「ああ、じゃあ逆方向ですよ。今来た道戻って、大きな通りに出たら右に曲がって一つ目の交差点、左に曲がって真っ直ぐです」
「おお、ありがとう! みんな俺たちの姿見ると逃げちまって困ってたんだ」
「いかついですもんね~」
「おいおい、言うなアンちゃん。気にしてんだから。じゃあな!」
そう言うといかつい集団は駅に向かって去っていった。俺はその集団を見送っていると、二人の女子は駆け寄ってきた。
「すごい、空くん!」
「え? だって困ってそうだったから」
「いやマジ、すごいよ。あんなアウトローな人たちに自分から話に行くなんて。修斗なんて怖がって逃げちゃったっていうのに。ホント、サイテーだね。あんなヤツ」
一條さんは、前にも増して俺の腕にすがり付く。そこに加川さんも近付いて、もう片方の腕に絡み付いて来た。
「いっ!?」
「じゃ、三人でカラオケ行っちゃおう!」
俺は驚いて固まっていると、一條さんは口を尖らせて加川さんに抗議した。
「ちょっとー! 美羽ちゃん、空くんから離れてよぅ。空くんは瑠菜の恋人なんですからね!」
「いいじゃん。あたし、フリーになったんだから。空くんには今日のお礼にハーレムなパラダイスを味合わせて上げようよ。ね、空くん。両手に花だね。どう気分は?」
「いや、ちょっと、えと、あの、え!?」
「ダメぇ。ダメだよぅ。空くんは瑠菜だけのものなのぉ!」
「ねぇ、空くん。瑠菜から聞いたけど、キスが上手いんだって~? 私にもしてみてよ」
「え!? 瑠菜、言ってるの?」
「言っちゃった! だって、いいでしょ~。でも美羽ちゃんにしちゃダメ!」
「なんで、なんでぇ? あたしにもしてよぅ。独り占めはずるぅぅい~」
「あっ。たは、たはははは……」
「ちょっと、美羽ちゃん、私の言い方の真似しないでよぅ」
「分かった? ほーら瑠菜、しっかり掴んでないと、空くん取っちゃうぞ~」
「ねえー! もう、止めて!」
「ほーらほらほら、おっぱいも擦り付けちゃうんだから!」
「ねええええええええーー!!」
な、なんですか、この騒ぎは? なぜその中心に私がいるのでしょうか? どなたか教えてくださいませんでしょうか?
先生、父さん、母さん、神様、仏様。この状況を説明してください……。
ふぉい! あまりのことに意識を宇宙に飛ばしてしまっていた! 危ない、危ない。どうやらあれだ。御堂は嘘告メンバーから除外されたようだが、また新たなる攻撃!
この美少女二人は、俺を惑わすために二人がかりで攻めるシフトにスライドしてきたのだ!
くっ! 一條さん一人ですら厄介なところに、新たな戦艦、加川が登場! 全砲門がこちらに向かって一斉砲撃してくる!
右腕にでっぱい、左腕におっぱい。ふにょふにょふにょふにょ。こ、こんなバカな話があってたまりますか!?
「ねぇ、空くん、なんで前屈みになってるの?」
「聞いちゃダメだよ、瑠菜」
「えー、なんで、なんでぇ」
「いーの。子供は黙って早く寝なさーい」
「ぷん。子供じゃないもん」
か、かわいい。しかし、こんな街中でなんという辱しめを! 白昼堂々、女子二人に胸を押し付けられ、前屈み、一部直立不動になってしまうとは!
一條瑠菜、加川美羽! 許し難し!!