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嘘告だと思い込んでたら本告でした  作者: 家紋 武範
第三章 森岡海とシンデレラボーイ
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第七十八話◇森岡海

 あーら北大路さん、お散歩? 可愛いワンちゃんねぇ。とは言い難い恐ろしげな犬に、私の体は硬直していた。

 由真は高笑いしながら言う。


「ホントに憎たらしいわね、アンタたち。人目を憚らず抱き合ったりして。紹介するわ。私の犬のスターリン。私にはとっても従順なの。私にしか懐いてないと言ったほうがいいわね。犬種はロットワイラー。犬による死亡事故の二割はロットワイラーと言うデータがあるのよ?」


 ギョエー! そ、その話関係あります? 由真は黙って散歩を続け、私たちの横を通り過ぎるだけじゃないの?


「見てよこの筋肉と力強さ。いい? この愛犬の散歩中、犬に力負けしてリードを放すなんてあり得ない話じゃない」


 うごご。つまりコイツ、リードを放すつもりなんだ。そしたら、この死亡事故二割を招くサメみたいな犬が私たちをガブガブと。こ、怖い。


「海くん、逃げろ!」

「え?」


 月島くんは、私を守るように前に立つ。


「ちょ、ちょっと! ダメだよ。一緒に逃げよう?」

「何言ってるんだ! 犬の走る速さにかなうもんか! 俺が囮になってる間にキミは川に飛び込め!」


「何言ってんの! アンタを置いて行けるわけないでしょう!」

「バカ! 何てことない。アイツを倒したらすぐに迎えに行くから」


 そう言って、月島くんは私を突飛ばした。


「海くん、愛してる。キミから受けた恩は一生かけても返せない」


 月島くんの死亡フラグな言葉と同時に由真の手から犬のリードが放される。月島くんは、それに突っ込んで行ったのだ。


「ワンワンワン!」

「ソラ!」


 私は思わず目を閉じた。月島くんが噛みつかれるところなんて見たくない。しかし、その惨劇の音は聞こえず、恐る恐る目を開ける。


「ワンワンワンワン!!」


 しかし、月島くんが由真の犬に掴みかかろうとするものの犬は月島くんの横を上手くすり抜ける。まさか、こっちに来る?


「そうよ! スターリン! その女のほうよ!」


 由真が叫ぶ。私は慌てて逃げようとしたが、草で足が滑ってスッ転んでしまった。


「海くん!」

「ワンワンワンワン!!」


 月島くんの叫び声と、犬の楽しそうな声──。え? 楽しそうな?


 見ると由真の犬は、土手を駆け上がり、堤防の上を歩いている男子学生のほうへ。あれは──?


「ワンワンワンワン!!」

「うわー! なんだコイツ! 可愛いなぁー!」


 兄だった。由真の犬のスターリンと抱き合って、土手をゴロゴロ転がって遊んでいる。

 スターリンの目はハートマークじゃないかと言うくらいラブな目で、兄の顔をヴェロヴェロ舐めていた。


「ちょ、ちょっと、スターリン?」


 そ、そりゃそーよねー。由真にしか慣れてないワンちゃんが、初めて出会った兄にゾッコンなんだもの。


「ほーら、お手。おかわり。おまわりは出きるかな? そー、回って回って。伏せ。んー、いい子、いい子。クッキー食べるか?」


 芸を教えて、エサまで……。由真はトボトボとスターリンを迎えに行き、肩を落として帰っていった。

 兄も手を振って書店のほうへと向かって行く。今日は新しいマンガの発売日なのであろう。だからこっちの道に来たのね。でも良かった。助かった。


 いつの間にか月島くんは、私の横に立ち、転んでいる私に手を伸ばしていた。私はそれを掴んで引っ張り上げられる。月島くんは、服についている土や草を叩き落としてくれていた。


「ちょっと! お尻とか胸とかに集中してない?」

「まさか、そんなワケないでしょ? 土が付いてるんだもの仕方ないじゃん。へへ」


 何なのコイツ。さっきまでの緊張感はどこへやら。役得とばかりに私の体に触りやがって。


「よーし、異常無し。倒れて小さなお胸がますます小さくなってないか心配だったよ」


 はい、セクハラ確定。ビンタしとこう。私は月島くんの頬を張り付けたが嬉しそうな顔……。むむむ。

 おとー様? コイツを後継者から引き摺り落としてくださいな。全く以て許しがたし。


「ぷっ。それにしても海くんってずっと勘違いしてた? 俺が他の女子に興味あるわけないじゃん。俺にはキミだけなんだからさ……」


 そして、キスの続き。私はいつものように時間が止まって、なされるがまま。


「んんんッ」


 ヤバい。声が出てしまった。コイツの思う壺じゃねーか。私が主導権を取るのだ。取れ。取るのだ、私。


「ねぇ、海くん。一條先輩って、あの人?」


 月島宙は、私から唇を離して堤防の上を見つめた。私もその方向を見る。

 するとそこには、兄の背中を隠れながら追いかける一條先輩の姿が。


「あれは、よっぽどお兄さんが好きなんだねぇ。まぁお兄さんみたいな人なら分からなくもないよ。彩花も好きだしね」


 え? え? え?


「どうしたの? 海くん」

「ちょっと待って。何か、繋がりそう。いろんな図式が」


「図式?」


 そうよ。一條先輩は、いつも何かを追いかけていた。そこにいたのは、中心にいたのは?


『その人の名前は、ソラ、って言うの』


 ソラって、月島宙のことだと思い込んでいた。そもそも、私と月島くんがいるところに現れてたし。

 でも、考えてみると兄の、兄のことを? いやまさか。兄は一條先輩とはレベルが違いすぎる。一條先輩が好きになるわけ──。

 う、うん。でも何か引っ掛かる何かが……。一條先輩が言っていた、引っ掛かる言葉? それが全てを握っているような?


 そう、あの時──。


『森岡くんの誘拐事件、無事で良かったわね。私も安心したわ』


『森岡くんの誘拐事件、無事で良かったわね』


『森岡くんの誘拐事件──』


 ちょっと待て! あの誘拐事件で兄の名前は出ていない。それを知っているのは、警察と当事者の私たちと──!


 兄とさやちゃんを犯人から救った通りすがりのお婆さんと思わしき人だけだ!


 月島くんも、犯人の黒いワゴンを追跡する白ワンピの女性を見たと言った。兄も薄ボンヤリと白い女神を見たと──。一條先輩の当日の服装にピタリと合致する。

 謎は──、謎は全て解けた。真実はいつも一つ。

 つまり、一條先輩は兄のことが好きなのだ。そして、一條先輩は人並外れた身体能力を持ち、車を追い掛け、一人で犯人のいる別荘に乗り込んで犯人たちをやっつけた──?


 いや、まさかね。兄は子供や動物には好かれるけど、同年代の美人麗人佳人に好かれるわけなんて……。ねぇ。

 それにそうなると一條先輩は犯人のような凶悪な大人四人を一気に相手しても勝てちゃう女性ってことになっちゃうぞ?

 さすがにそれはないのかなぁ~?

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[一言] 正解です 笑 真実はいつも一つ!
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