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嘘告だと思い込んでたら本告でした  作者: 家紋 武範
第三章 森岡海とシンデレラボーイ
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第七十五話◇森岡海

 な、なんか、このお金持ち御用達のスーパーってすごい。通路は広いし、明るいし、見たこともない品々ばっかり。

 月島くんのお父さんはフルーツを見映えよくカゴに詰めるように店員さんに指示していた。

 ふーん。フルーツの詰め合わせかぁ。高そー。三万円くらい? きゃー。やっぱりお金持ちはちがうねー。


 レジに向かうと、お値段二十八万八千円──。し、白目。

 え、えーと、メロンにマンゴーにブドウにモモに、あと何入ってた? 桁一つ違うんですけど?

 オーノー! お金持ち怖い。そんなんすんなり買っちゃうわけ?


 くっ。それはそれはお父様に悪い虫が付いたハズだ。こんな桁違いの行動されちゃったら。

 オイオイ、月島宙! お前大丈夫だよな? 昔の清貧(せいひん)時代を忘れてないよな? 金の魔力で、人様を蔑ろにしてみろ。地の果てまで追い掛けて殴ってやるからな?


 お父様は、それ以外にも花束を買って、運転手さんにトランクに入れるよう言った。そして取って返して我が家のほうへ……。


 父や母は大丈夫よね? あの与えられた時間で父はお掃除をし、母はお茶菓子を買いに行ってるハズよ。

 でも、トランクには約三十万のフルーツと五万の花束がある。ウチの四~五月分の食費分くらい。ダメだ格が違いすぎる。


 そんなご両家の親たちを騙します。私と月島宙は、偽りの婚約なのです。バレたらどうなるんだろう。くうう。


 我が家に到着。父母は玄関先までスーツを着用の上でお待ちしておった。そりゃそーよねー。


「これはこれは、月島さん、ようこそおいでくださいました。狭いですが、どうぞ、どうぞ」

「いいえ、お構い無く。これからは親戚付き合いするでしょうから」


 両親は早速気絶しそうになっていたが、気合いでこらえ、リビングへと案内した。

 お菓子は高級菓子店のケーキだ。よくやったぞ、母よ。さやちゃんは嬉しそうにパクついてた。可愛い。そのうちに兄の部屋に行きたいと言うので、兄が迎えに来てくれると、兄に抱きついて連れていかれた。その光景にみんなで笑った。


「はっはっは。彩花もずいぶんお兄さんに慣れているようで。これではもう一つ縁談のお願いをしなくてはならないですな。その際には彩花は海くんの義姉になるのかな? それとも義妹?」


 お父様は冗談のつもりだったかもしれんが、ウチ両親は気を失いかけている。だが、なんとか父は踏ん張った。


「あの月島さん、先程の電話では、当家の海をご子息の婚約者としたいとのお話でしたが、あのー、当家は見ての通り一般家庭ですし、貴家に見合う教育もしておりません。分不相応なお申し出に、妻と歓喜しておりましたが、考えますに当家は不適格と思い直しまして、このお話、お断りしようと思うのですが……」


 父も母も、ダラダラこぼれる汗をタオルで拭きながら申し上げると、月島くんは立ち上がり、お父様はそれを制して答える。


「実は宙は不幸な生い立ちでして、最近までは父の顔も知らず、学校にも行けずに、働いて彩花を養っておりました。そんな時に海くんには大変お世話になったようなのです。当然、海くんは宙が私の子などとは知りません。思いやりの気持ちで、兄妹を助けてくれたのです。宙は、海くんへの思いを募らせ、もはや海くん以外考えられないそうなのです。ここはどうか一つ、月島の顔に免じて話を受けては下さいませんか?」


 父母の目は白と黒が行ったり来たり。そこに渦中の月島宙は言い放つ。


「海くんのお父さん、お母さん、僕の気持ちは生半可ではありません。例え月島の子ではなくとも、きっと海くんとの将来を模索したでしょう。どうか難しく考えないで下さい。ただ近所に住む、平々凡々な月島宙に嫁ぐのだと思って欲しいのです」


 父と母は、それでも『いや』『でも』『しかし』と言っていた。そーだよねー。そりゃ大富豪に嫁ぐなんて簡単には決められないよね。

 そこで月島くんのお父さんは、ポケットから何やら取り出し、サラサラと文字を書き始めた。


「小切手で申し訳ございませんが、結納金です。どうぞお納めください」


 んー、ゼロの数が多くて一目じゃ分からんぞ? 一、十、百、千、万、十万、百万、千万、一億、じゅ……、十億? アカン。母がソファーに身を預けて気絶した。


 父もアワアワして、小切手とお父様の顔を見たり見なかったり。

 うーん、みんな熱くなりすぎだよ。ここはこの海ちゃんが助け舟を出してやりましょ。


「そうですよね。父と母の気持ちも分かります。私たちまだ中学生ですもの。これから月日を重ねて、そこで愛を育んで行き、二人ならば大丈夫となったら、もう一度婚約の話と結納金のお話にしたらいかがです? 今は仮の婚約と言う形ではどうでしょう?」


 ウチの父と母は、それに激しく頷いた。しかし月島家は渋い顔。特に月島宙は、絶対に嫌という姿勢だ。この足引っ張りめ!

 月島くんのお父さんは、ようやく頷いた。


「うーん、さすが海くんですな。確かに二人は若過ぎますし。宙が不届きな真似をして、海くんを泣かせてもいけません。ここは、仮の婚約と言うことで手を打ちましょう。期間は三年。二人が高校二年生になったら、もう一度話をしましょう、それまで年に二回ほど家族同士で会食して親睦を深めませんか?」


 ふむふむ。それも良いかもしれませんね。ウチの父母も納得したようです。

 しかし、月島宙はお父様へと食い下がる。


「そんな! 父さん! 仮の婚約だなんて。それじゃ、僕と海くんの関係は何なんだい!?」

「そりゃあ恋人だろう」


「恋、人?」


 月島宙は、真っ赤な顔をして私に視線を送ってきやがった! まずい。コイツは劣情のまま何を仕出かすか分からん。私は月島くんのお父さんに提案した。


「ソラくんのお父さん、少しお話したいことがあります」

「何かね? 海くん」


「あのー、大変申し上げ難いのですが、婚約だ、恋人だと行って、私たちは夫婦のような関係になるのは早いですよね。私は女ですし、男性の力には敵いません。そこのところはソラくんに釘を刺さて欲しいのです。ソラくんが望んだら、そういうことをしなくてはならない、と言う風にさせないで貰いたいのです」


 すると、月島くんのお父さん以外にもウチの父母までギロリと月島くんを睨んだ。ざまぁ。少しは反省しなさーい。


「宙、お、お前──」

「い、いや、父さん、なにもしてない。なにもしてないよ」


 ふっふっふ。お前が言い訳しても、先程車の中で私の手の甲にチッスをしてたことはお父様も横目で見ていたはず。お前のようなエロチック艦隊には制裁が必要なのだ。せいぜいお父様にたっぷり絞られなさーい。


「お前の性はまだ若くて暴走するかもしれない! もしも海くんに同意もなく手を出して見なさい! そしたら後継者から外すからな!」

「い、いや、まさか、父さん、僕は海くんを尊敬しているんだ。同意無しなんて、そんな卑怯なことは絶対にしないよ?」


 けっけっけ! ずいぶんと小さくなったもんだ、月島宙! しかし、言質取ったり! 同意無いなら手を出さんと言うことで。ここは一つ手打ちとしましょう。

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