第五十七話◇一條瑠菜
ジャジャーン! 文化祭三日目がやって参りました! 本日はベストカップルを決める日なのです。
ベスト、と言えば、瑠菜と空くん。カップル、と言えば、瑠菜と空くんなのです。こりゃあ私たちを祝福するために神々が用意してくださったに違いない日なのだわ!
私は念入りにお顔や髪型をチェックして家を出ると、空くんが道の途中で待っていてくれた。
「瑠菜おはよう!」
「やん。空くんお迎えに来てくれたのぉ?」
「そうだよ。一緒に登校しよう」
「うん!」
私たちは、ニコニコ笑顔で登校した。本日の文化祭も一般公開され、前日のようにクラスや部活で出し物をするんだけど、私たちは昨日頑張ったので今日は文化祭を楽しむ日なのだ。
私たちは早速ベストカップルの会場である体育館へと向かうと、夢唯ちゃんと、生徒会長のナントカ先輩に捕まってしまった。
「おはようございます、鳴門先輩」
空くんは生徒会長さんに挨拶をした。そうだった。鳴門先輩ね。ナントカ、ナルト、うーんナントカのイメージが強すぎてお名前覚えにくい。
そうこうしてると、美羽ちゃんも御堂くんを連れてきたので、六人で体育館のベストカップル会場へ。私と空くんは並んで受け付けした。
会場は、パーティションで仕切られていて、順路通りに進んでいくようだ。中にはたくさんの人がいる。一般参加もオーケーらしく、大人な人たちもおられるようだ。
でもごめんなさい。私と空くんは、どんなカップルにも負けない。負ける要素がないんだもの。私たちは顔を見合わせて、ふふん、と笑いあった。勝ったわね。遊園地のチケットは私たちのものね。
第一のチェックポイントには生徒会役員の女子が待ち受けていた。
「あら、会長」
「やあ渡瀬くん。我々三組に第一チェックをしてくれたまえ」
「へー、会長も出場ですか。へー、へー」
「こ、こら。無用な詮索は止めて貰おう。夢唯とは幼馴染みなのだ」
そうよね、そうよね。ナントカ先輩は夢唯ちゃんと幼馴染み。美羽ちゃんと御堂くんは一度別れてしまった仲。そこ行くと瑠菜と空くんはラブラブ真っ最中。ラブラブ過ぎて監視まで付いてるんだもの。第一チェックも難なくクリアよね。
そこで係の生徒会役員の女子が言った。
「では第一チェックです。お二人は互いに呼び捨てで呼び合う仲ですか?」
し、し、し、白目。
な、なに、そのチェック。そんなの二人の仲に関係ある? 私が空くんを『くん』付けで呼ぶのは、尊敬しているからなのに。昔の良妻賢母みたいに、一歩引いて夫を支える──。そんな仲だってことなのよ?
私が気絶ぎみに突っ立ってしまっていると、美羽ちゃんたちも夢唯ちゃんたちもはしゃぎながら一様に声を上げた。
「修斗」
「美羽」
「大知」
「夢唯」
それを聞いた係の人は、手提げ籠にピンポン玉を二つ入れて彼らに手渡した。
「はい、第一チェック完了です。第二ポイントに向かってください。そして、そちらのお二人は?」
と、私たちに手を向けてきた。
「瑠菜……」
「そ、空──」
私が初めて空くんを呼び捨てにすると、空くんは驚いた顔をしたので慌てていると、美羽ちゃんが言った。
「ウソだね、瑠菜。いつも空くん、空きゅんでしょ?」
ガガーン!!
私は係の人からピンポン玉が一つ入った手提げ籠を渡された。おそらく、これはベストカップル度を表すポイントなのだ。
美羽ちゃんも夢唯ちゃんも二ポイント。私たちは一ポイント。その差、倍! くうう。でもまだ始まったばかりだもの。こ、こ、こんなのへっちゃらよ!
私はふらついて思わず空くんの腕に絡み付くと、すぐに夢唯ちゃんに睨まれた。あわわ、夢唯ちゃんは監視すら忘れていない!
続いて第二ポイントに行くと、またもや生徒会役員の人。
「それでは第二チェックポイントです。お二人のお付き合いは何年ですか?」
なーんやそれ。ちょっとちょっと、二人の仲に年数なんて関係ある? そんなの必要ない。私と空くんは百年だってラブラブに違いないのに!
「私たちは去年からだから一年とちょいだよね?」
「そーだよな」
美羽ちゃんが言った言葉に、私は抗議した。
「係員さん、あの二人一度別れてますよ。そしたら再度付き合い出してからの日数ですよね?」
「ちょっと、瑠菜!?」
「だってぇ、ずるぅい、ずるぅい。瑠菜と空くんはまだ一月半なのに、二人は一年とかずるぅい!」
すると、係の人は私たちの籠にピンポン玉を一つ入れた。
「一年未満は玉一つです。そちらのお二人は復縁含めて一年以上ですね。玉二つです」
私は美羽ちゃんの籠に入れられるピンポン玉を凝視した。あちらは四つ、あちらは四つ……。私はまるで大渦に身体が飲み込まれて行くように感じていた。さっきまではたったの一つだけの差だったのに、今では二つの差がついている──。
「私たちは子供の頃からだから、十年以上だな」
「そうだな、あの頃の大知は本を読んでくれる、優しいお兄さんだったな」
は、はあ? 付き合ってもいないあなたたちが何を言ってるの?
「十年以上ですと、玉四つですね。先を進んだご夫婦も四つ持って行きましたよ。会長、頑張ってください」
な、な、な、なにぃぃいいいーーーー!!?
すでに玉六つですと? 私たちは二つ……。その差、三倍。いや、めんつゆの希釈率じゃないんだから。──何よ、その突っ込み!? ダメだわ。私は混乱してる。足がもつれる。目の前が暗い。あとどのくらいチェックポイントがあるの?
考えたらずるいわ。ナントカ先輩は生徒会長だし。このチェックポイントの問題は全て知ってるデキレースに違いない!
「ちょっとちょっと、ナントカ先輩!」
「え? わ、私のこと……かな?」
「先輩は主催者側ですよね? 当然チェックの問題は知ってらっしゃいますもの。自分の都合のよい質問内容なのでしょう? いいえ、そうに違いない」
「い、いや、私はこの企画は副会長に任せていたので中身は知らないんだ。副会長にも参加していいと言われたし……」
私がナントカ先輩に詰め寄ると、そこに美羽ちゃんと夢唯ちゃんが言い出した。
「ちょっとぉ瑠菜、それはないんじゃない? 呼び捨ても年数も、恋人には必要な要素だと思うけど?」
「そうだな、自分の玉が少ないからと言って、抗議するのはフェアじゃないな」
な、な、なんですと?
ああ、神様。この者たちは自分たちが何を言っているのかよく分かっていないのです。どうか彼のものたちの罪をお許しください。そして私たちに玉をください、百個ほど──。
第三チェックポイント。もはやテンション下がり気味の私たちへの次の試練。
「第三チェックポイントは、お二人のケンカの数です」
私は笑いながらエバって前に出た。
「ふふん。一度もありません」
そーよ。私たちは仲良しですもの。ケンカなんて一度もないない。空くんは優しいし~。これは玉十個くらい貰えるんじゃない?
すると夢唯ちゃんがポツリ。
「ケンカというか、大知が一方的に怒るみたいなのはあるな」
「うん、まあそうだな。まあいつも元通りにはなるが……」
続いて美羽ちゃんが言う。
「私たちは──、まあ結構するよね。それで一度は別れちゃったし。復縁したけど」
「ごめん、な?」
ホッホッホ。まあ、皆さんそう落ち込まないで。だって私と空くんはベストカップルなんですもの。これがベストカップルなの。だから仕方ないわよね。
「ケンカするほど仲が良いと言います。御堂、加川ペアは三個。会長、国永ペアは二個。森岡、一條ペアはゼロとなりまーす」
は、はあ!? 何ですか、その新常識? ケンカするほど仲が良い? 聞いたことない。ケンカしないほうが仲が良いに決まってるでしょう? それが玉ゼロ個? ああ、ダメ。もう私、崩れそう。
私が貧血を患ったかのようにフラフラしていると、空くんが係の人に食い下がってくれた。
「あの……。俺の恋人の瑠菜は、俺が意地悪じみたことを言うと、胸をポカポカと叩いてくるんです。それは……ケンカになりませんか?」
おお! 空きゅん! さすが! そーよ。私が空くんのお胸を叩くのは恋人の微笑ましい行動だけど、人から見たらケンカ、に見えなくもない?
すると、係の人は苦笑を浮かべてピンポン玉を一つ手に取った。
「あー、えーと……、じゃあ、一つお持ちください。さあ遠慮なく、どうぞ、どうぞ」
が、ガーン!
お、お情け? それはそれで、ベストカップルにとっては屈辱! で、でも、貴重な玉一つだもの。ありがたく頂戴しよう……。ああん!




