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嘘告だと思い込んでたら本告でした  作者: 家紋 武範
第二章 二人は恋人
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第五十五話◇加川美羽

 文化祭二日目となり、昨日は結婚式の仮装をしていた瑠菜はまるでこの世の終わりみたいな顔をしながら登校してきた。アップダウンの差が激しい子だね。空くんとさっさと帰ってデートでもしてたハズなのに。空くんとケンカでもしたのかなぁ?

 私は瑠菜へと近付いて、その肩を叩いた。


「おはよう瑠菜」

「あ……美羽ちゃん、おはよ……」


 く、くーらい。これは確実に何かあったに違いない。私の心はなぜか少しだけ明るくなったのに気付いた。

 それは二人と空くんの間がダメになり、空くんが私とが付き合えるのではないかという僅かな期待を抱いたからだろう。

 ダメね、私。昨日は修斗とあんなに話して、雰囲気が良くなって久しぶりにキスしたっていうのに。


 修斗は変わった。少しだけ空くんっぽい。優しいし包み込む感じが増えた。前はガキそのものだったけど、相手を優先することを覚えたっていうか、頼り甲斐があるっていうか。

 空くんへの気持ちを断ち切って、私たちは一歩進み出したハズなのに。


「どうしたの瑠菜。元気ないよ?」

「あーん、それがね」


 瑠菜は話し出した。それは昨日の学校の帰り、空くんの部屋で仲良く過ごそうとしたら、密着してキスしてるところを親に見られたので、今後は夢唯が監視について、二人きりになるところを阻止されるのだとか。

 なるほど、ラブラブ真っ最中の瑠菜たちにとっては致命的な妨害工作をされたということだろう。しかし、私は気になった。空くんの部屋で仲良く過ごそうとしていたことに。


「あの、さ」

「なに?」


「二人は──、まだキスまでだったよね?」

「え? やん。美羽ちゃんに言ってなかったっけ? 空きゅんと最後までした話。そっかー。瑠菜お休みしてたから、してなかったよね。そうそう。瑠菜たちィ、この前しちゃった。やんやん」


 なぜだろう。どうしてなんだろう。


 私の世界が暗転する。


 空くんは、瑠菜を──。


 私じゃない瑠菜を抱いたのだ。


 いや、それは当たり前だ。瑠菜は空くんの彼女なのだ。


 私には今、修斗という彼氏がいて、瑠菜には空くんという彼氏がいる。


 当たり前のこと。


 そうなって当然の──。


「へー……、空くん……、優しかった?」

「うん。優しかったよ?」


「瑠菜は……? 瑠菜は空くんに優しくして、あげた……?」

「瑠菜? うーん、よく覚えてないな~。空くんばっかり見てたから。うふ!」


「そう……」

「うん」


「そうなんだ」


 その後、瑠菜は森岡家で正座して、反省会をされた話をしていたが、私は相づちを打つので精一杯だった。そのうちに空くんが来て、瑠菜を連れていってしまったが、すぐに夢唯に見つかって二人は教室に戻ってきた。だが、瑠菜の表情は幾分落ち着いていた。


 それから文化祭の二日目の行事が始まり、教室は慌ただしくなった。瑠菜と空くんはそれでも仲良く引っ付きながら、クラスの出し物の駄菓子を売る売り子さんをやっていた。

 私はそっと教室を出て、一人校内を歩いていた。すでに校内には、一般客が入り込んで混雑していた。わあわあと楽しそうな声が辺りに鳴り響いていた。

 でも私の回りだけ音の無いグレーな世界。まるで一人しかいないような。

 断ち切ったはずなのに。空くんへの思い。私は大事に育て過ぎてしまった。だから大きく成りすぎてなかなか消えなくなってしまったのだ。


「あーら、おねえさんいらっしゃい。寄ってかない?」


 聞き覚えのある声。しかし、オネエのような声。私がそちらを見ると化粧をして、露出の多い服を着た、ミニスカの修斗が立っていた。思わず吹き出した。


「なあに? その格好……」

「やーねー、言ったでしょ? サッカー部でゲイバーをするって。さあ入ってよ。丁度サービスタイムなんだから。お客さん、あなたラッキー、ネ」


「なんのサービスよ」


 私は修斗に背中を押されて入ると、むさ苦しい男たちが女装をして接客している。でもかなりの大繁盛だ。


「さあ、おねえさん、ここに座って。お飲み物は?」


 ナヨナヨと体をくねらせて聞く修斗に、私は笑いしかない。メニューを出されて炭酸飲料を頼んだ。修斗はバックヤードに声を張り上げる。


「はいご新規さん、コーラ一丁!」

「あいよ!」


 修斗は、ニコニコしながら私の前に立っていた。さっきまで落ち込んでいた私の心も、この雰囲気に飲まれて楽しくなっていたし、次に何が起こるかワクワクしていた。そのうちに、ボーイの服を着た女子マネージャーがマイクを片手にアナウンスしてきた。


「さあー、ショータイムの始まりでぃす。お兄さんもお姉さんも、お父さんもお母さんも、おじいちゃんもおばあちゃんもゆっくり飲みながら楽しんで。この世の楽園パラダイス、当店きっての美少女たちが、生足上げての大サービス!」


 みんな拍手するので私も釣られて拍手すると、修斗はニカッと笑ってステージに向かった。他にも二人のサッカー部の女装男子がステージに立つ。

 ボーイ姿の女子マネージャーは、サッカーボールを三人へと放ると、三人は同時に足へとボールを落とした。

 リフティングだ。ポンポンと足技を駆使してボールを床に落とすまいと蹴り上げる。

 女子マネは、マイクを使って「イチ、ニー、サン、シー」と数を読み上げていた。


 彼らのリフティングする姿はミニスカだ。足を動かす度にスカートがヒラヒラと揺れる。逞しい足の根元は、どうやらビキニパンツのようで、それが見えると女子たちから歓声が上がった。私も思わず笑いながら黄色い声を上げてしまった。


 ショーは成功を収め、誰もボールを落とさずに同時に手でキャッチして、マネージャーへとボールを返した。それにも歓声が上がる。それが終わると修斗は私の方へと駆けてきた。


「どうだった?」

「すごーい。面白かった」


「でっしょう? おねえさんには特別に、二人きりの時に見せて上げてもいいわよ」


 そう言って修斗はウインクする。普段の様子との格差でまたも面白くなって笑ってしまった。


「はー、面白い」

「そう?」


「その話し方、クセになるんじゃない?」

「そーねー。それが私の目下(もっか)の不安かしら?」


「みんな生足に毛がないね。この時のために剃ったの?」

「あらー。部活するのに、みんな剃るのよ? 知らなかった?」


「えー、知らなかった。そうなの?」

「そーよ。前からよ。ほほほほほほ」


 楽しい、楽しい。修斗といて、何かとても安心を感じる。さっきまでの不安と嫉妬、それもどこかに飛んでいってしまった。


「ね、修斗」

「なーに?」


「今日も一緒に帰ろう、ね?」

「いーわよ、いーわよ。全然いーわよ」


「明日は一緒に、校内回るんだもんね」

「そーよ。だから今日はいっぱい働かないと、ね」


 修斗は忙しそうだ。他の接客もあるのだ。私も自分のクラスの出し物に参加しないと。


「じゃ頑張ってね!」

「ええ、あなたも」


 私は晴れ晴れとした気持ちで、部屋を出た。

 さあ、頑張れ、加川美羽。

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