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嘘告だと思い込んでたら本告でした  作者: 家紋 武範
第二章 二人は恋人
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第五十四話

 その後、俺と一條さんはリビングの床に正座させられ、うちの両親から大説教を食らっていた。ほぼ俺が叱られていたのだが。

 なんでもお父様は中東に行く前に、我が家の両親へと俺たちの後事を頼みに来たらしい。しかしそこで俺たちにすれば見られてはいけない熱い場所を見せてしまったワケだ。


「空! お父さんは恥ずかしいぞ! 瑠菜さんのお父様は、お前を信頼して、将来の二人のことについて相談しに来てくださったのだ。我々は二人を一緒にさせてやりたいということで一致した。しかし、お前はこの家には誰もいないと思い込み、軽薄で破廉恥なことをしようとしていた。最早言い訳は出来ないぞ!」

「あ、あの、ごめんなさい……」


「空? あなた前にお父さんに釘を刺されたんじゃないの? それなのに、その話をさっぱり聞いてなかったのね? お母さんは情けなくて──」

「はい……、ごめんなさい……」


 ううう、怒り心頭の父に泣き出してしまった母。いたたまれない……。さっきまであんなに幸せで浮かれていたのに、この超重苦しい空気をどうしたらいいんだ。

 俺と一條さんは小さくなりながら、うちの両親の話を聞いていたが、一條さんのお父様は、目を閉じて腕を組みながらさっぱり言葉を発してくれない。怒られるなら、怒られたで怖いけど、黙ってられるのも相当に怖いぞぉ……。


「悟さん、うちの空が大変申し訳ありません。どうでしょう? 二人が成人するまで会うのを制限するというのは?」


 うちの父の提案。あの~、それって俺たちが一緒にデートするとかも制限されてしまうとかそういうこと? えー!? そんなバカな。でもこの雰囲気では何も言えない。決まった条件を飲むしか出来ない。


「あの、それは……」


 我慢できなくなって声を発したのは俺ではなく一條さんだった。なんて勇敢な! しかし、顔を上げた俺たちが見たものは、カッと目を見開いたお父様の顔だった。俺も一條さんも動きが完全に停止した。

 そこでお父様の口が開く。


「空よ」

「は、はい」


「俺はお前を信用していた。誠実なヤツだと思ってもいた。しかし、隠れてコソコソと娘に手を出していたなどと、考えるとハラワタがひっくり返りそうだ」

「あの……、はい、すいません」


「何を言っても信用できん。謝りながら心の中では舌を出しているかも知れんからな。先ほど陸さんが申された案、それも良いのかもしれない」

「はい……」


「しかしな、お前らの恋心が行き過ぎて暴走、迷走し、大学へも行かずどこか遠くに駆け落ちしてひっそりと暮らす、なんてことも考えるかもしれん。そんなことしたら二人はいいかもしれないが、我々はどうだ。ただ二人を日々心配し、その日その日を後悔しながら生きなくてはならなくなる。親というのは損な存在だな。悔しいが、二人の付き合いは認めてやらなくてはならない」


 おおっと、これは……! お父様は、俺たちの気持ちを優先して、これまで通りに付き合っててもよい、とそうおっしゃって下さっている? いやまだだ。まだ喜ぶな。神妙な顔をしていろ、俺よ。

 するとお父様は身を乗り出して俺に顔を近付けながら凄んだ。


「だがな、まだそういう行為はお前たちには早すぎる。お前たちが18歳になるまでそう言うことを禁ずる。いいな!?」

「え? あ、あの、は、はい……」


「だがお前の『はい』など信用できん。俺が出張中に、親の目を盗んでコソコソするのは見えている。よって、お前に監視をつけることにする」


 か、監視? それって……。一條さんのママさんですかね? 確かにママさんは主婦ですから我々にくっついていることは可能かもしれませんが、主婦業とて激務です。そんな中、我々をずっと監視するなんて難しい話なのでは?

 俺が考えあぐねていると、お父様はスマホを取り出しどこかに電話し始めた。え? ぎょ、業者?


「もしもし。私だ。君は森岡家を知っているか? そうか、ならば結構。すぐにここにこれるか? よろしい。では待っている」


 通話が終わった。そこでお父様はお茶を一息飲む。俺も両親も一條さんも、何がなんだか分からずに戸惑っていると、インターホンが鳴る。母が応対しに立ち上がり、暫くすると母の足音を含めて三つの足音が聞こえて来た。


 ドアが開くとそこには国永さんと生徒会長の鳴門先輩がいた。え? このかたたちが監視?

 俺と一條さんが驚いていると、お父様は立ち上がって国永さんの肩を抱いてにこやかに笑う。身長190センチのお父様が180センチの国永さんの肩を抱いている姿は圧倒的な威圧感があった。


「お前たちは知っているだろうが、この子は国永夢唯。彼女は俺の弟子だ。さらに鳴門くんも参加して貰う。空と瑠菜の学校生活から通学路まで、二人きりにならないように二人には付き添って貰う。いいな!?」

「はい、お師匠さま。空は本日、体調不良で学校の仕事を早退しましたが何かありましたか?」


 ジロッと両親とお父様の睨み。

 うごごごごご。さすがミス疫病神。どこからともなくやって来て、俺たちに厄災を運んでくる国永夢唯! この女がお父様の弟子? なぜに、いつの間にそうなった?

 このクッソ真面目な国永さんは、師匠であるお父様に命ぜられたら、それを素直に従うだろう。あのバカ力で、俺たちを妨害するのだ……。

 オー! マイ! ゴッド!!





 一條さんは、もはや連行という形でお父様に連れられて帰っていった。国永さんと鳴門先輩もそれに続いた。俺はさらに両親にこってりとしぼられ、フラフラになりながら自室のベッドに崩れ落ちた。

 ああ、どうして今日に限って。お父様が中東に行った後なら、俺たちは誰の目に憚ることなく、この部屋でラブアッフェアに励むことが出来たに違いない。しかし、アフターフェスティバル、後の祭り。取り返しのつかないことをしてしまった。18歳まで俺たちには監視が付き、キスすら遠慮しながらプラトニックに付き合って行かなくてはならない。

 今まで毎日していたキスも出来なくなる生活。唇が乾く乾く。ああ、なんて俺は不幸なんだ。どうすりゃいいんだ。


 その時だった。部屋のドアがノックされ、妹の海が顔を出したのだ。


「ただいま。なんかお父さんもお母さんも様子が変だよ? お兄ィ、何かしたの? 一條先輩が外国行っちゃうからって家庭内暴力なんて見損なったよ?」


 いやどうしてそうなる。お前の思考回路が不思議でならん。俺は立ち上がって海へと詰め寄った。


「家庭内暴力なんてするかよ! 今日一日いろいろあったんだよ!」

「きゃあ! 興奮しないで! 男の力に女が敵うわけないでしょう!?」


「いやいやいやいや、なんで俺が暴力キャラにされてんだよ?」

「だって、恋人を失って自暴自棄に……」


「失ってなどおらん。一條さんが転校するのは俺の勘違いで、彼女はここに残るのだ」

「あら!? じゃあなんでお父さんもお母さんもお兄ィも様子がおかしいわけ?」


「それは……」

「それは?」


「一條さんと玄関で抱き合って、その……そういうところを両親と一條さんのお父さんに見られたからだ」


 とたんに海は鼻水を吹き出し、そこに転がりながら笑い出した。


「笑え。笑い終わったら話を聞いて貰おう」

「ゲボハハハハハハ!」


 やはりコイツ……! 怪物ランドの大王様だったのだ! ゲボハハハハハハなんて笑うのは怪物大王くらいしかいない。くぬぅ! 人の不幸が大好きなヤツめ!

 だが、お父様や国永さんのような怪力怪物には怪物の力を借りねばならん。それにこやつなら、何か策を出してくれるかも知れん。


「はー、それはそれは。親にそういうとこを見られるなんて、お兄ィも一條先輩もうかつなんだよ」

「言っても仕方がない。もはや過ぎたことだ。俺たちは18歳まで接近を禁止する監視がつけられる。どうしたらいい?」


「さあ? バイトでもしたら?」

「はあ? バイト?」


「一緒にいたいってもの分かるけど、なんか見てると危なっかしいよ。うかつにも何度も親に見つかるなんて。恋は盲目とはいうけれど、二人は浮かれすぎて回りがよく見えてないんだと思う。そう言うことを出来るのは、人の目を盗んで計画的なものこそが出来る権利があるのよ。多少はずる賢くて、人の隙を出し抜けるものじゃないと。まあ、お兄ィたちは18歳になるまではお金でも貯めて、二人でいる場所を借りれるようになりなさいな」

「う、うぬぅ……」


「それに同じバイト先なら、一緒にいれるし、仕事も楽しいかも?」


 なるほど、なるほど。やはりこやつは今孔明の麒麟児だ。それはいい。一緒にバイトすれば、国永さんは割り込んでこれないだろう。バックヤードでムフフ、なんてことも有り得なくもない。

 ふーむ、多少こずるくなくては、恋人だって場所を確保することが出来ない。なるほどねー。まぁこやつも彼氏持ちだし、上手くやってるってことなのだろう。

 そうか、バイトして二人で住むアパートでも借りろってことかな? それともラブホとか? いやんバカン。でもそうだよな。金さえあれば二人きりになれる場所はあるんだから。

 これは良いことを聞いた。うんうん、なかなかやるな、森岡海!

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[一言] カーイカイカイ( ˘ω˘ )
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