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嘘告だと思い込んでたら本告でした  作者: 家紋 武範
第二章 二人は恋人
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第五十二話

 一條ファンクラブのアンチ森岡の方々に、引き摺られるように文化祭実行委員室へと連れてこられてしまった。ひいいいい、誰か助けてぇ!


「へっへっへ、森岡、よくもニセ情報で俺たちをシンミリさせてくれたな」

「許さん、許さんぞ、森岡ぁ~」

「この恨みはお前の体で払って貰うぞ! そら、後ろ向け!」


 えええー!? 体、ですかー!? それって、お色気的な? やめてー!!


 アンチ森岡の皆さんは強引に俺の上着を剥いで、上半身は裸にそのまま半回転させられ、彼らに背中を見せる形となった。


 パン! パン! パン! パン!


「へ~、スッキリしたぜ~」

「良かったぜ、お前」

「じゃあな、森岡!」


 彼らが去ったその後には、背中にきっちりと彼らの手形を残された俺がいた。いって~、思いっきり張り手かましやがってあいつら~。


 はっそれより! 最近は全然会えてなかった、一條さん! 俺の、俺の愛しい人は!? そして思い出した! そうなんだ。なーんだ、そっかぁ~。一條さんは転校しないんだ。やったぁ!

 俺は着替えてから、部屋を出た。一條さんを探すためだ。しかし背中が痛い。アイツら本気で張りやがって~。


 そう思っていると向こうからカラードレスを着た集団。あれは生徒会役員の方々と文化祭実行委員女子の皆さんだ。彼女たちは俺を見つけると早々に俺を囲んだ。今度は何ですかぁ?


「ちょっとちょっとぉ、森岡くん」

「瑠菜ちゃん全然転校しないじゃない」

「彼氏ならちゃんと把握しておいてよね」


 ごもっとも……。おっしゃる通りでございます。くうう~、それについては俺が一番ダメージが深いんだよぉぉぉ~。


「でも、ま、よかったじゃん」

「そーそー。これからもしっかり青春してください」

「別れるなよ~。ちゃんと結婚しろよ~」


 おお! ありがたい励ましのお言葉。きっと俺たちは結婚に向かって付き合っていきますので応援よろしくお願いします!


 そう思っていると彼女たちは俺の背中に集まった。


 パァン!


「いだ!!」


 それに彼女たちは笑う。


「気合いだよ、気合い」

「やだなぁ、大げさ」

「瑠菜と仲良くね~」


 き、気合い? でも先ほどのダメージも合間って、背中がジンジンするんですけど?

 おおう、でも一條さんを探さねば。くうう。蓄積されたダメージのお陰で、足が思うように進まない……。


 壁にすがりながら階段を下り、ヘアーサロン御堂となっている職員トイレのほうへ。ここで一條さんはヘアスタイルを直しているのかも……、と思ったがすでに廊下には椅子が出され、後片付けの真っ最中。そこにでてきた修斗くんと目が合った。


「よーお空、お前聞いたよ。一條ちゃん転校しないんだって~?」

「う。そ、そうなんだ。俺の勘違いだった」


「でもよかったじゃんか。じゃ、これからもラブラブ出来るな」

「うん、ありがとう……。修斗くんは?」


「ん? どした?」

「前に加川さんとデートしてたけど……」


「おーう、あれ? んー、まあお前らは幸せまっしぐらだけど、さ」

「うん」


「まあ美羽には美羽の人生。俺には俺の人生があるよ。これから長いんだ。それぞれの道を行くことにしたよ」

「そ、それって……」


「うん。フラれちまったってことさ。でもお前とは友だちのままだからな」


 と、寂しそうに笑って、俺の肩を組んで胸を軽く小突いて来た。


「ケンカ……したの?」

「うん、まーな」


「ダメだよ。好きなんでしょ? 仲直りしないと」


 すると修斗くんは大きくため息をついてから言う。


「あのなー、ダメなもんはダメなんだよ」

「どうして?」


「それは──」

「うん」


「アイツには、今好きな人がいて──」

「え?」


 その時だった。向こうの廊下から、ブーケを片手に持った加川さんが駆けてきた。その後ろにはウェディングドレスのすそを持ちながら追い掛けてくる一條さん。なにしてんのさ。

 加川さんは、俺たちの前に来ると荒い息を整えていた。修斗くんは、そのまま彼女の呼吸が治まるのを待っていた。


「あのね、修斗」

「お、おう」


 すると加川さんは、手に携えたブーケを修斗くんへと突き出したのだ。


「これ、瑠菜から」

「う、うん」


「次は私たちの番だって」

「い、いや、でも俺たちは──」


「この前はごめん。私、修斗にただ甘えてただけだった、みたい」

「そ、そうなん……?」


「そう、ごめんね。いろいろ、当たり散らして」

「しかし、その……お前には、その、好きな人がいるわけで……」


「でも、修斗が振り向かせてくれるんでしょ?」

「あんま自信ないけどな」


「頑張ってよ」

「うーん。だ、な。頑張って、みるか……」


 その後、二人は見つめあっていたので、俺は一條さんを連れてその場から離れた。


「二人きりにしてあげようよ」

「えへ。そだね」


「瑠菜、キレイだよ」

「ホント? あへぁ~嬉し~。空きゅんはもうお着替えしちゃったんだ」


「そうなんだよ。まあ、仮装行列が終われば今日は終わりだもんね。後は明日の準備する人はしないと」

「空くんは?」


「俺も実行委員の仕事かなぁ~」


 すると一條さんは、耳を近づけるように合図し、俺が身を屈めるとそっと耳打ちしてきた。


「お仕事、サボっちゃお?」

「い? ダメでしょ~。学校の仕事だし、仮装も俺の勘違いでみんなに迷惑かけちゃったし~」


「でもさでもさ、この時間から帰って空きゅんのおうちで……」

「ん?」


「その~、仲良くしよ?」

「な、仲良く?」


「ホラ。見せたい下着もあるし」


 のわー! エロス。エロスだぞ、一條すぁん! 何ですか。いわゆる夫婦の夜のお誘い……。こんな口撃に俺が耐えきれるわけない。耳元に桃色吐息ぐぁ!

 うっほ! 一條さんったら肉食系だなぁ。ニヤニヤが止まらない。俺は制服のまま、ウェディングドレスの一條さんと手を取ってクルクルと踊った。

 こうしちゃいられない! 一條さんを着替えへと向かわせ、俺は生徒会長の鳴門先輩の元へと行った。鳴門先輩は生徒会室に国永さんと入るところだった。


「あの……、鳴門先輩、今お話いいですか?」

「ん? どうしたのかね、森岡くん」

「おお、空。空じゃないか」


 若干疫病神の国永さんが気になるものの、俺は頭を抑え、咳き込む仮病を駆使した上で鳴門先輩へと言う。


「あの~、実は今日は体調不良で、ケホケホッ。仕事は無理そうなので帰ってもいいですか?」

「なに? 森岡くん。そんな体調で仮装行列をしていたのかい?」

「なんだ、風邪か? よし。私が面倒見てやろう」


 いーんだよ。君は出てこなくて。邪魔邪魔、邪魔すんな。


「頭も痛いですし、腰も痛いですし、咳も出ますし……。今日の仕事はお休みさせて貰っても構いませんか?」

「ああ、もちろんだとも。私のほうから委員のみんなには行っておこう」


 うえーい。やった。でも顔に出しちゃいけない。俺は元気無さそうに二人に背を向けた。


「なんだ、しっかりしろ。気合いが足りん!」

「痛!!」


 バッシーーン! ゴリラのような怪力が俺の背中を襲う……! アンチ森岡の皆さんや、女子の実行委員さんたちから背中に受けたダメージが残っていた俺は、ダメ押しを食らってその場に崩れ落ちた。


「ありゃりゃ」

「こら、夢唯! 具合が悪い森岡くんになんてことを……」


 さすが疫病神。俺はフラフラになりながら立ち上がり、昇降口へと行くと、一條さんが待っていて、めちゃくちゃ心配してくれた。おお俺の天使……。

 この天使と今からします。えへへへへ。


 俺は背中の痛みなど忘れて軽快な足取りで我が家へと向かった。まだ14時だし、親も妹もだーれもいない! その空間で俺と一條さんは、わーいわーい。


 我が家へ到着。すぐさま一條さんを玄関の中に引き入れて、その場で濃厚キス。もうここから部屋まで待てない。一條さんも俺の身に触れてきた。同じ気持ちだね。さあ今すぐ俺の部屋へ──。




「──何やってんだ? 瑠菜」


 俺と一條さんは、キスをしながら大きく体を跳ね上げた。彼女と密着したまま恐る恐る声の方を見ると、そこには一條さんのお父様と、我が家の両親がズラリ勢揃い……。


 終わった。何もかも。終わってしまったのだ。俺の脳裏には走馬灯が駆け巡っていた。

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