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嘘告だと思い込んでたら本告でした  作者: 家紋 武範
第二章 二人は恋人
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第四十五話◇加川美羽

 私は自身の部屋のベッドの上で深く吐息を漏らして天井を見つめていた。そして自己嫌悪しながら濡れた中指を見る。


「空くん、空くん……か」


 そして後始末をしてベッドに座り直した。深いため息の後で立ち上がり、服を着替えた。薄く化粧をしているとスマホに着信。待ち合わせ場所に着いたとのメッセージだった。あたしはそれにも深くため息をつき、またベッドに倒れたが、思い直して立ち上がり駅へと向かった。

 すでに待ち合わせ時間に30分遅れている。帰ってくれたら幻滅して清々するのに。


 待ち合わせ時間に50分遅れて到着。修斗はスマホのトークアプリを眺めていた。あたしへのメッセージに既読が付かないと思ってるのだろう。はいはい。


「ごめーん。遅れた」

「お、おう。美羽、俺待ち合わせ場所間違えてたのかと思ったよ」


「ふーん。でも正解。場所も時間も」

「そ、そっか」


「怒らないの? 急に昨日の晩に時間と場所言われてさ。部活は?」

「いや大丈夫。急に腹痛くなったって言って……」


「あら痛いの? 帰ったら?」

「まさか。わざわざ仮病使ったのに? 美羽に会えるーと思って来たのに?」


「ぷ」


 あたしはちょっとだけ笑った。昔の修斗なら散々説教してきたくせに、急に優しい攻めかた。それにあたしのために部活休んでくれたなんて。


「ありがとね、来てくれて」

「そりゃあ、ね。もうすぐ誕生日だろ?」


「え? 覚えててくれたの?」

「あたり前だろ? 去年は服プレゼントしたよな?」


「そしてホテルに連れ込んだよね。アンタってそればっかり」

「おいおーい。それは今言わなくていいだろー」


「今は友だちだからね。やめてよね、そーゆーの」

「分かってます。エッチは無し、だよな」


「有りのほうがいいわけ?」

「有ったら有ったほうが……」


「無い!」

「無いよね。はいはい。エッチは無い」


 ぷぷ。でもコイツ、誕生日覚えててくれたんだ。ホントは今日は文化祭の仮装グッズでも見ようと思ってたのに。

 あたしは修斗を指差しながら宣告する。


「65点から70点」

「おー、やったあ。でもナニそれ。70点?」


「修斗への惚れ直した点数だよ。100点になったら付き合ってあげる」

「うおー、マジかぁ。じゃ、俺頑張る」


「じゃ頑張ってください」


 あたしたちは横に並んで商店街のほうへ。こちらの小物屋さんとかファンシーな雑貨屋さんを巡るつもりだ。


「あ、美羽見てみろよ」

「あー、噴水」


 そこは商店街の入り口付近にある空き地だったところだ。バス停と噴水が出来ていた。ライトアップ照明もつけられてる。


「こりゃデートスポットになるな」

「いいね。今のうちに写真撮っておこう!」


 あたしは自撮りモードにして噴水をバックに写真を撮る。するとヒョイと修斗が顔を出して、一緒に撮ってしまった。


「あー! 何すんの~」

「やー、ごめんごめん。俺も撮ーろおっと」


 そう言って、自撮りにして写真を撮っていたが、明らかに噴水は入っておらず、あたしを入れていた。


「む。わざとやってるな」

「分かる?」


「分かるよ。止めてよね~」

「待ち受けにしよ……」


「なんでよ」

「別に友だちが待ち受けでも良くね?」


「うーーー」


 修斗は、やっぱりいい男だ。イケメンだし。爽やかな笑顔が好きだ。あたしたちの距離は触れるか、触れまいか……。もどかしい距離だ。

 でもこの男は少し前まではあたしを裏切って、他にも女作って遊んでいたんだ。

 不誠実な征服者。わがままにあたしの体をもてあそんだ。去年のあたしはまだ16歳になったばかり。その前に女にした。そして自分の欲望のままにいろんなことをさせた。


 空くんだったら……。多分あたしたちは、互いに気遣いあっていただろう。対等な間柄。いつも笑顔が絶えない恋人同士だったろう。高校、大学、就職、そして結婚。出産、育児、夫婦、壮年、定年、老後……。全部想像できる、幸せしかない未来。

 はー、また空くんのこと考えてた。考えないようにするために修斗を呼び出して、瑠菜と空くんが来そうにない商店街を歩いてるってのに。


「あれ? あれ一條ちゃんと空じゃね?」


 修斗の言葉に全身が硬直する。あたしも見つけた。楽しそうな空くんを。瑠菜を横にぶら下げて……。

 修斗は二人に手を振ると、二人もこちらに気付いて近付いてきた。あたしも笑顔で二人を迎える。


「やんやん、美羽ちゃーん。偶然だねー」

「やー、修斗くん、加川さん。デート?」


 二人のいつものペース。あたしは手を振って否定した。


「チガウチガウ、デートじゃないよ。あたしたち友だちだもん、ね!」


 そう言って修斗を睨む。別に憎いわけでもない。ただ強がりたいだけ。瑠菜はそれに残念そうな顔をして言う。


「なーんだあ、デートじゃないのかぁ。二人お似合いなのにぃ」

「ちょっとちょっと止めてよね。一回別れたんだから。どうしてもって言うから一緒に居るだけ!」


 言ってしまった。言わなくてもいい言葉。自分から呼び出したのに。修斗の顔を見なくても、なんか空気で分かる。多分寂しそうな顔をしてるんだろうな、と。

 しかし瑠菜はそんなこと、気付きもしないのかあたしに紙袋を出してきた。


「えへ。美羽ちゃん、これなーんだ?」

「え?」


「じゃーん。誕生日おめでとう!」


 そう言ってあたしに紙袋を押し付ける。あたしは突然のサプライズに目を丸くした。


「え、うそ」

「ホントだよ。空きゅんと選んだんだ。ね、ね。開けてみて?」


 空くんを見ると、いつもの優しい目をしていた。


「瑠菜に聞いたんだよ。だから二人で選んだんだ」


 あたしがそれを開けると、フォトフレームが一つとマスキングテープが三つ。フォトフレームは、いつか駅前の公園で会った犬と同じ形だった。


「あ、ありがと……」

「そしてこれは俺から。お菓子と、石鹸でできた花みたい」


「え? 空くんからも?」

「そう。高いもんじゃないから受け取って」


 空くんから受け取った袋には可愛らしい造花がラッピングされていた。そして、クッキーも同梱されている。


「すごく嬉しい……。大切にするね」

「いやぁ大したもんじゃないよ」


「あの、空くんの誕生日は?」

「俺? 俺は12月8日。だからまだ4月生まれの瑠菜の一つ下なんだ」


「じゃああたしも少しだけお姉さんだね」

「そーそー。加川お姉さんにはいつも助けられてます」


 そこに瑠菜が入ってきて、空くんの腕に絡み付きながら言う。


「んぎー。瑠菜もお姉さん!」

「そうそう、瑠菜もお姉さんだよ」


「んふー。じゃあねー、美羽ちゃん、また学校でねー」

「じゃあねー、修斗くん、加川さーん」


 二人は行ってしまった。おそらく駅前の公園のほうだ。あたしはしっかりと胸の前で空くんからのプレゼントを抱き締めていた。修斗は小さい声で言う。


「あの……。誕プレなにがいい?」


 あたしは修斗の手を引いていた。二人とは逆の方向に。そしてたどり着いたのは前に修斗と入ったことのあるホテルの前だった。


「お、おい。エッチは無いんじゃなかったのか?」

「気が変わった。誕プレはこれにする」


「は?」

「その代わり、前みたいに一人よがりなのはイヤ。いつも強引だよ、痛いし、もっと、もっとあたしを包む込むように優しく愛して欲しいの……」


 あたしは修斗の顔を見つめて言う。そして手を引いたが修斗は足に力を入れて拒否した。離れてしまう二人の手……。


「なによ。あなたの好きなのしようって言ってんの」

「俺じゃない。抱かれてるって思い込む身代わりだ、相手は空だろ?」


「………………」

「そうなんだろ?」


「いいじゃん、別に。あんただって、あたしと付き合ってるとき、他の女とヤってたんでしょ? どう違うっての?」

「そうだ。最低だと分かった。だから止めた」


「はっ。今さらなんだよね。まあいいや、シラケた。もうヤんない。残念でした」

「俺だって……」


「なによ」

「お前を好きだから、好きだから、もう一度一緒にいたいから、なのに、お前、最低だよ。俺も止める……」


「なにをよ!?」

「お前と付き合うの……」


 そう言うと修斗はあたしに背を向けて歩きだしてしまった。あたしはその背中に叫ぶ。


「なによ! 0点! 0点だよ、アンタなんか!」


 修斗は、それに答えもせず、肩を落として行ってしまう。行ってしまった……。あたしは腕を上げて涙を拭いた。


「もう……、最低。はは、最低なの、あたし、か……」


 もう自分でどうしていいか分からない。修斗をいいように使って傷つけて……。助けてよ、瑠菜、空くん、……修斗……。

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