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嘘告だと思い込んでたら本告でした  作者: 家紋 武範
第二章 二人は恋人
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第四十二話 

 お父様の蹴りは、見事にカメラを破壊していた。首の折れたカメラはウィンウィンと何かを探すように回転している。

 お父様は、そのカメラの根元に松茸を見つけて掘り起こした。


「二十本目だ。今から攻撃に転じよう!」

「こ、攻撃、ですか? どうやって?」


「空、お前は気付いているか?」


 お父様が親指で指す方向には、猪の親子が顔を覗かせてこちらを見ている。親一匹と子供四匹の家族だ。


「わっ。猪!」

「そうだ。どうやらお前に関心があるようだぞ?」


「いいいいい、猪が、ですか?」

「そうだ。おまえは気付いてなかったようだが、どうやら動物が寄ってくる能力があるようだぞ。はっはっは」


「いや、そんなバカな。昔から子供や動物には好かれますけど、あんな野生のものまで……」

「いや、お前にとっては今の状況は極限状態だ。いつもよりもそれが増しているのかも知れん。ものは試しだ、ちょっと呼んでみろよ」


「ぼ、僕が? あの猪をですかあ?」

「そうだ。どうやって呼ぶ?」


「うう、何かあったら助けてくださいよ? 急に突っ込まれてぶっ飛んだ先に地雷があってドッカーンとか嫌ですからね?」

「分かった分かった。まずやってみろ」


 俺は納得行かないまま、腰を曲げた。


「チチチチチ。おいでー」

「おいおい、それ鳥を呼ぶやつ。って来たな……。驚いた」


 猪たちはトコトコと寄ってきて、親の猪は俺の前で膝を折った。


「こ、これは……」

「乗れってことだろう」


「の、乗るんですか?」

「そうだ。見えるか?」


 お父様は俺と肩を組んで山の下を指差しながら言う。


「あそこが大河原屋敷だ。分かるだろ? あそこまで一気に駆け降りて、庭でひと暴れしてこい」

「えええーー!? だって俺、猪に乗るの初めてだし、操作なんて分かんないし、罠ばっかだし、傾斜はきついし、無理です、無理!」


「なに言ってんだ。為せば成る、為さねば成らぬ何事も。成功すれば大河原老もお前の結婚を認めてくれるぞ? それに猪はこの罠だらけの山で育ってるんだ。罠を本能的に避けるハズだ!」

「そんな! 何も保証がないっす!」


「いいから行け!」


 そう言って、お父様は猪の尻を登山靴で蹴る。途端、猪は駆け出した。


「うそぉーーーー!!」


 早い、早い! この松茸山を駆け抜ける風のよう。まるで松風。そうだ、お前は松風だ!

 俺は木や枝に当たらないように猪の上で身を伏せ、しがみついた。後ろには仔猪たちも付いてくる。猪は山を駆け降り、グングンと大河原屋敷が近付いて来て、このままでは塀にぶち当たると思ったが、猪たちは傾斜で思いっきり飛び上がった。そして見事に整えられたお庭に着地……。

 ま、マジ、です、かーー!!

 こんな見事なお庭で暴れてこいとお父様は言われた。そんなことしたら、普通におじいさまに殺されるのでは? それにお父様はあの山の中から、どうされるのだろう。


「曲者ぞ! であえ! であえーー!!」


 ちょちょちょ、猪だけに! 慌てかたがダジャレになりました! ですが、なんですか、その時代劇みたいなの!? こうなったらヤケだ! あのお父様に言われた通りにやるしかない!


「行け! 松風!」

「ブヒーー!!」


 猪たちは、ブイブイ言いながら庭のあちこちを行ったり来たり。俺はロデオみたいになりながら猪にしがみついていた。

 お屋敷の使用人たちは、棒を持ってあれよあれよと成っております。

 いやこんなブーちゃんに突進されたら死んじゃいますもんね。


「銃を持ってこい!」


 な、なにやら聞こえましたよ? 物騒な話が! なんかドヤドヤとお屋敷の奥に引っ込んでいく人の姿も見えますけど、銃ですか? それって麻酔のヤツですよね? まさか殺傷能力のあるやつでは……。

 ふおい! なにやら猟銃を一人一挺、それが五人、計五挺こちらに向いておりますけど? そして、使用人の偉い人が手を上にあげております。


 ま、まさかそれが『撃てーー!!』とか言われて下ろされた日には、俺の体に五つの穴が空いて絶命してしまうのでは!? お父様、助けて!!


「やんやん、空きゅん、なになに楽しそう! 瑠菜もぉ、瑠菜もぉ、瑠菜も乗る~」


 い、い、一條すぁん! 何やら一條さんが現れた途端、使用人の偉い人から『瑠菜さまだ。隠せ』との小声が聞こえました。そして猟銃隊は体の後ろに銃を隠しました。ほー、瑠菜ちゃん助かったよお!


 俺は近付いて来た一條さんをおとなしく待ってくれている猪の背中に乗せた。そしてその場で一周グルリと回る。

 なにやら使用人たちがうろたえております。ふふーん、このお姫様の前では彼らも形無しのようですなぁ。この僕は、このお姫様と付き合ってるんですぜ? ラブラブチウチウしてるんですぜ? ソファーの上で抱き合ってゴロゴロした仲なんですぜぇ? 頭が高ぁい!


 俺が優越感に浸っていると、屋敷の奥からお父様とママさんが現れた。


「よお! 空! よくやったな。こっちも松茸届けてきたぞお!」

「お父さん!」


 無事だったんだ~。良かったあ! そして屋敷の奥から出てきたって、どうやったんだ? お父様はあの罠だらけの山を駆け降りて、屋敷の屋根にでも降りて、どこからか侵入したってこと? マジですげえー!

 するとママさんが言う。


「ほら瑠菜。じゃあ私たちがお料理作らないとね」

「はあーい、ママ」


 そう言って二人は屋敷の奥へと引っ込んで行く。お父様は俺の元に来て、猪を山に帰そうと言い、俺たちは裏口から猪を出した。


「おーい松風。元気でなー!」


 と猪たちの背中にいうと、猪たちはブイブイ言いながら去っていった。ほんわかな気持ちで振り返ると、おっかない顔をした使用人たちが十人、俺とお父様を待ち受けていた。


「香瑠さまのご家来衆。屋敷の中で勝手な真似は許されません! 別棟で待機を命じます!」


 と叫んできた。怖い。つか俺たち、この人たちより下の扱いなんですね……。お客さんでもないのか……。しかし、お父様は余裕気に答える。


「なんだ聞いていないのか? 夕食の場で正式に大河原老から発表があるが、俺は香瑠の夫であると認められた。そしてこっちの森岡空は瑠菜の婚約者である。上役に確認してみろ」


 そう言われて、使用人の偉い人は冷や汗をかきながらインカムにモゴモゴやっていたが、そのうちに『はい、はい、ですが、しかし』とか聞こえて来た後に、腰を九十度に曲げてお辞儀した。


「も、も、申し訳ございません、旦那さま!」

「いやいや、お役目ご苦労。ではフワフワなソファーでもある客間に通して貰おうか。別棟はノミだらけのゴザでいかん」


「は、はは、ははは……」


 青い顔をして震える使用人の偉い人。回りの使用人たちは、ザザッと音を立てて左右に割れてお辞儀をした。

 なんか気持ちいいので、俺もお父様のように笑いながら彼らに言った。


「お役目ご苦労!」


 ひゃー! 偉そうなの気持ちいい!

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