第四十一話◆大河原源蔵
儂は久々に娘と孫娘に会い、その身を抱き締めていた。まったくあんな下忍の小倅ごときにやれる娘ではないというのに、あの一條の息子め。百度殺しても飽きたらん。
「さあさ香瑠、瑠菜。お屋敷の中には美味しいお菓子があるぞ。あと音楽の生演奏も用意しておる。この一週間でおじいちゃんが準備したおもてなしを味わっておくれ」
孫の瑠菜は手を叩いて喜んだ。そして瑠菜は言う。
「あのねー、おじいさま。瑠菜、おじいさまに紹介したい人がいるのぉ」
儂はそれに微笑みながら答えた。
「ふむ。そうか彼氏だね。でも大河原家のしきたりは知っているね瑠菜。女は家を守り、男は外で働かねばならん。だから悟くんと裏山で食材を採ってきてもらうよ。係りのものがすでに案内している」
「うふ。知ってるわ、おじいさま。今日の夕食は何かしら?」
「そう、松茸尽くしだよ」
「すごーい。瑠菜、松茸だーい好き」
「そうかそうか、では屋敷に入りなさい。そして夕食の準備のお手伝いをしてもらうよ? 出来るかな~?」
「うー、おじいさま、瑠菜を子供だと思ってるな~。もう瑠菜だって大人なんですからね。ちゃんと出来るもーん」
「ほほう。それは頼もしい」
儂らは三人仲良く並んで屋敷の中に入った。さて、募る話もあるがそれは夕食の時に回そう。まずは一條と、口に出すのも穢らわしいが瑠菜の彼氏……とやらを殺さねばならん。
儂は屋敷の中にある、秘密のコントロール室に入った。すでに一條と瑠菜のゴニョゴニョは『始まりの間』にいるようだ。儂はモニターの前に座り、スイッチを入れる。これで『始まりの間』の一條らには儂の姿が写っていることだろう。
「やあ一條くん。また会えて嬉しいよ」
小倅め、悔しい顔をしておる。そして瑠菜のゴニョゴニョはずいぶんと貧弱だな。こりゃすぐ死ぬわい。瑠菜もよくもこんなものを好きになったもんだ。瑠菜は優しいからボランティアだな。瑠菜には儂が一番いい相手を見つけてやる。宮さま、高官の息子、一流企業の社長の息子……。選り取り見取りじゃわい。香瑠もそうなっていれば幸せだったのに、下忍の一條の小倅ごときに強姦されたがために結婚せざるを得なくなるとは。ぬぬぬ、思い出しても腹が立つ。
下忍はどうなっても下忍。儂の駒に過ぎん。それが子供が出来たから結婚などと言うことならば、たまたま山に入ったら事故が起きて死亡、も有り得るのだ。今日こそ死ね、一條め。
ふふん。何やら森岡とかいう少年を背中に担いで地下通路を行くようじゃぞ? まあ前回壊された罠は修復してある。そしてお前がまだ見たこともない罠もあるのだよ。くくく。全てはそこかしこに設置したカメラでお前らの死に行く様を確認することが出来る。楽しませてもらうよ。
ほほう、やはり一筋縄では行かん。一條のやつめ、罠にはかからぬか。だがこの先には……、そう。水牢がある。出口と見せかけて水牢。二人とも溺れ死ぬがいい!
はっはっは! 面白い、まんまとかかりおった! あそこにはカメラがない。まあ20分で水がいっぱいになる。そうだ、今のうちにお茶を持ってこよう。
儂はお茶を取りに行った。コントロール室を出て、秘密の階段を下り、使用人に命じるとすぐさまお茶を持ってきたので、コントロール室へと戻りつつ悲しい顔をして一人練習をした。
「香瑠、瑠菜。実は大変なことが起きてしまってな……『お父様、何が起きたの?』うむ、悟くんと森岡くんだが、山の池に足を滑らせてしまったようでな、二人のご遺体が先ほど上がったのじゃ……『そ、そんな』スマン。儂のせいじゃ、恨んでくれて構わん。『そんな瑠菜、おじいさまが大好きよ』そうか? そんな瑠菜の婿を選んでおいたぞ。あんな貧弱な男などすぐに忘れる、なーんての、ほっほっほ」
儂が笑顔でコントロール室の戸を開けると、水牢の扉が開いており、水が流れていた。
「む?」
すぐさま、他のカメラに切り替える。どこだ? どこだ? 見つけた!
くぬう、一條め! どうやって切り抜けた!? あやつ、命冥加なやつ! 許せん! 絶対に殺す!
どうやら松茸山への道を見つけてしまったようだ。くそ! 流石は一條風介と三條守女の息子よ。
あいつは、儂が下忍たちを交配させて作り上げたハイブリッドスーパー忍者となるべき男だったのだ! 18歳になったらすぐにでも諜報部に加入させ、世界中を混乱に陥れさすつもりだったにも関わらず、今は一般企業の一社員。バカか。望めば社会の裏側から世界に号令できたハズなのに。
あやつをこのまま放ってはおけん。
ふふふ。どうやら瑠菜のゴニョゴニョは地雷を踏んだらしい。まずは一匹始末完了だな。残りは一條、貴様だ。
ぬぬぬ!? 一條のヤツ、なにやら動いていると思ったら地雷をクリアしただと? あの瑠菜のアレも生きておる! くくく、どうしたものか……? まあいい。他にも罠は張り巡らされておる。全ての罠まで解除することは出来まい! 今こそ死ね!
う! 一條のヤツめ、カメラを一台壊しおったぞ? まあいい、次のカメラに切り替えれば分かる話だ。
む? む? む? どこにもおらん。しかも、このカメラも、このカメラも壊されている? くっ! 一條のヤツ、どこに姿を隠しおった!?
儂が一條ともう一匹の姿を追っていると、何やら庭のほうが騒がしい。そして内線が鳴る。
「どうした? 賊でも現れたか?」
「あのう、それが御館さま……」
「なんだ。さっさと申せ」
「それが、瑠菜さまのご家来が猪の背に跨がりまして、庭で乗り回りしております」
「な、なんだと!? 何をやっておる! では銃で撃ち殺せ!」
「し、しかし……瑠菜さまが……」
「構わん。猪を狙おうとしたら、つい当たってしまったとでも言えば良いだろう」
「いえ、瑠菜さまが『やんやん、空きゅん瑠菜も乗りたぁい』と申されまして、の、の、の、乗っております」
「は、はあ!?」
儂は腹立ち紛れに受話器を叩き付け立ち上がると、背中を取られ首筋に刃物を押し付けられた。
「くっ! いつの間に! 一條め!」
「お義父さま、娘さんとの結婚をお許し願いたい!」
「く、く、くくく……!」
「お義父さまは言われました。時間内に自分のところにたどり着けば結婚を許すと! ならばお約束を違えなさるな!」
「ふぐ! ぐぐぐ……ッ!」
「ついで、瑠菜と森岡空も将来を誓わせます。夕食の時に、二人の婚約を許すと! 明言なされませ!」
「き、貴様……! この儂に殺気をッ! 身の程知らずが!」
「当たり前でしょう。今まで何度私に殺気を向けましたか!? いいですか? ここで刃を横に引くことは容易いこと! さあ明言なさいませ!」
く、くそ! この男、本気で……!
「わ、分かった──」
「ふふ、はっはっは! ではお義父さん。これから宜しくお願いします。松茸は台所に届けておきますので」
そう言って一條のヤツは、そこに小太刀を放り投げて部屋を出ていった。
「くそ!」
儂はその出ていった戸に、ヤツの小太刀を放り投げる。それは深くそこに突き立っていた。
「許せん、許せんぞ、一條め! この礼は必ずしてやる……!」
儂は一人地団駄を踏んでいた。そして閃いた。ふふふふ、見ておれ一條悟め!




