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嘘告だと思い込んでたら本告でした  作者: 家紋 武範
第二章 二人は恋人
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第三十八話 

 ついにその日がやって来た。週末土曜日、一條さんのママさんの実家大河原家に行く日だ!

 俺はお父様に手渡されたサングラスをかけ、お父様の愛車であるSUVの前にお父様と並んで立っていた。まるで映画のワンシーンだ。


「じゃあ行くぞ、空!」

「はい、お父さん!」


 すっかり戦友気分の俺たち。まだ一戦も戦ってはいないが、すでに呼称がファーストネームとなっている。

 お父様は運転席に。俺はその横の助手席へと座る。後部座席では、愛しの一條さんと、そのママさんが乗っていた。そしてママさんは俺とお父様の仲良さに疑念の目を向けているようだ。


「なーんか、仲良くなりすぎじゃない?」

「うー。瑠菜も空きゅんの隣がいいのにぃ」


 うん、俺もキミの隣がいいんだけど、今日は別だ。お父様と共闘する可能性が高い。いい人キャンペーン実施中の一條さん&ママさんのお二人はお気付きになっていないとは思うが「俺をいじめるお父様」「が恐れるおじいさま」と言うのは、かなり脅威ということだ。

 そのおじいさまが我々男衆に危害を加えてくる可能性、それはかなり大きいのだ。

 この筋肉ダルマで身長190センチのストリートファイターなお父様すら恐れるおじいさまだよ? 俺なんて全てがアヴェレージな少年。身長は168センチ、体重56キロ。うーん、村人的存在。

 冒険者なら前衛のハンマー持った戦士と、斥候役の盗賊くらいの体格差。戦闘はお父様に任せて、オイラは薬草使って回復させまっせ! 的な役か……。

 いる? その存在。すぐ追放になりそう。でもお父様は俺と共に戦おうとおっしゃってくれた。


「空、無事に帰ってこれたらキャンプに行くぞ!」

「はい、お父さん!」


 車は高速を走り、大河原家に向かって行く……。





 途中のサービスエリアで食事を取った後、県を三つ跨いで目的の大河原家に着く頃には14時近くとなっていた。

 一條さんは、おじいさまのおうちは大きな家、と言っていたが、そこは回りに堀を巡らし、三メートルクラスの高い土塀に覆われたお屋敷だった。門には係りがいて、ママさんが顔を出すまで通すまいとの気概がある門衛的な人だった。なにこれ。

 門をくぐっても、なかなかお屋敷には到達せず、二つ目の塀では車を下ろされ、係りによって、一條さんとママさんはお屋敷のほうへ。俺とお父様は別棟へと案内された。

 一條さんは俺に向けて手を上げる。


「じゃあ空きゅん、また後でねー。頑張って!」


 え、え、え? もうすでにおかしいぞ? どうして俺と一條さんが離れ離れに!?

 そこにお父様の声。


「気を引き締めろ。気を抜いたら殺られる。ここは敵地だ、全てを疑え」

「て、敵地? 全てを疑えって、お父さんもですか?」


「それは好きにしろ。だが、俺はお前を守るつもりでいる。お前もせめて自分の身を守れるよう気を張っておけ」


 ええー!? ちょっと! これラブコメですよね? ラブはどこ行きました? コメは? 女子がいなくなる、イコール色気がなくなるなんですけど? 一條さんのでっぱい話をみんな待ってるんですけど?


 回りは大河原家の使用人さん十人ほどに囲まれている。怖い。しかし、お父様はさも当然のようだぞ? 俺は正面を向いて歩くお父様に尋ねた。


「あのう……これは?」

「香瑠と瑠菜は夕食の下ごしらえをしている、とされている。俺たちがこの大河原家の敷地内から採れる食材を持ってくる、と香瑠たちは聞かされているのだ。事実、俺は今まで猪の肉や熊の掌を採ってきたことがある」


「猪や熊? あ、あの……」

「なんだ?」


「ぶ、武器は?」

「そんなものはない。今持っているものだけだ」


 え?


 え?


 ええ?


 そのウソ、ホント? はは、聞き間違いだ。猪の肉とか熊の掌とか、何かの間違いなのだ。きっと、その辺の茂みから『ビックリカメラです~』とかヘルメットをかぶった人がでてくるに違いない。

 それにそれが本当だったら、猪とか熊とお父様は戦って勝ったことになるよね? 無傷のハズない。だが分からん。お父様なら勝ってしまうかも知れない。


「あの、お父さん?」

「本当だ。それが大河原家の俺に対するやり方なのだから」


 すると、使用人の中でも格が上そうな人がお父様の言葉を遮るように口を出した。


「香瑠さまのご家来衆。それ以上の発言は禁じます」


 ご、ご家来衆!? いや、ママさんの夫と娘の恋人ー!! 娘さんにはこの方の遺伝子が入ってますけど? なにこれ。ここ日本ですよね? ひいいいーー!! やっぱり来るんじゃなかった。殺されるかもしんない。お父様をいなすほうが簡単だったのかもしんない。


 しかし待て森岡空。考えろ。お父様は今まで猪や熊と戦った、としよう。だけど日本にそれ以上の猛獣はいないハズだぞ? 虎とか獅子とか象なんかは外国にしかいない。しかもそれ食材か? ということはだ、また猪や熊を採ってこいと言われてもお父様ならなんとかなるのかも?

 ホッ。なら大丈夫そうだ。とりあえずお父様が味方でよかった。


 使用人に囲まれて歩き続けると、やがて大きな建物が見えてきた。日本家屋だが、窓はなく、入り口しか見えない。そこで使用人の偉い人が先んじて入り口の扉を開ける。


「ご健闘を」

「いらぬ気遣いだ」


 お父様は、偉い人の横を通りながら言い放つ。そして入り口へと入るので、俺もその背中を追って中に入った。すると扉が閉められ、中には俺たち二人。しかも灯りもない。


「こっちだ」


 お父様の声の導きのほうに進むと、二メートルほどの高さの場所に緑色の小さなランプが点いている。その明かりで、そこには巨大なモニターがあるということが分かった。しばらく経つと、そのモニターが点いたのだ。


「やあ一條くん。また会えて嬉しいよ」


 そこには70歳ほどの白髪の老人が紋付き袴を着て微笑んでいた。お父様はギリリと歯軋りする。そして老人は、俺のほうを見る。


「キミかね。大河原家の孫に手を出したという不埒な少年は。ワシは現大河原家当主、大河原源蔵である」


 お、大河原家──!? いや、僕が手を出したのは一條家の瑠菜さんです。大河原家ではぁ、ないですよ! キスしたけど。舌も入れたけど。一角獣な腰をグリグリ擦り付けたけどぉーー!! でもデリケートな部分に手は触れてませんよぉー! だから、なにもしてませんので許してぇーー! なんて通じるワケないですよね、分かります。すいません。


「まあいい。キミの名は?」

「あ、あの森岡空と申します。一條瑠菜さんとは真剣な交際をしています。この目を見てください。名前の通り大空のように澄みきっているでしょう!?」


 必死! 死にたくないから。なにこのデスゲームみたいなの。だって空、巨大モニターとお話するの初めてだもん! こんなリモート知らない! 知らない!


「ふふ、怯えているな。そう恐れるな。ちゃんと夕食に招待しよう。だが君たちには裏山にある食材を採ってきて貰いたい」


 うごごごご。お父様から聞いてました。食材採り。裏山っすか。たしかに深山っぽいの後ろに控えてましたよね?


「今回は秋ということもあり、旬の松茸を採ってきて貰いたい。なに、裏山の一部は松茸山になっておってな、行けば必ずある。そこから一人十本。すなわち二十本採ってきて貰いたい」


 ま、松茸ぇ!? 食べたことないです。ウチ、貧乏サラリーマンなので。でも、ホー。松茸かあ。お父様の言った猛獣じゃないぞ。これなら楽勝なのかも知れない。


「だがな、松茸山には盗賊避けの罠もある、熊や猪、マムシやスズメバチ、猛禽類も居るかもしれん。そこで遭難するかも知れんが、我が大河原家は預かり知らぬことである」


 ぱかーん。アゴが外れました。そ、そりゃそうですよね? お父様は猪や熊を採ってきたんですもん、そりゃいますよ。はは、こりゃダメだ。そして遭難してもタッチしないですと!? ダメだ言葉が通じない。ああ一條さん、最後に一目会いたかった……。


『残念! 森岡空は死んでしまった! もう一度最初から? タイトルに戻る?』


 いやいや、人生は一度きり。もう一度最初からなんて出来ない。もしもやり直せるなら、今度は俺から告白するよ、瑠菜あ。


「夕食は19時からだ。だから君たちには17時30分には目的を達成し戻ってきて欲しい」


 人が考えてるのに、勝手にペラペラしゃべるねい! なんでい、なんでい! べらんめえ!

 17時30分!? 今14時30分だから三時間ほどの猶予か……、お父様がいれば出来るのかな?


 すると、大河原老はとんでもないことを言い放った。


「ただし、今どちらか片方が、もう片方を害せば、松茸のことなど考えなくてもよい。すぐにここから出してやろう、どうする?」


 え? 害す? それって、俺だったらお父様を……? お父様だったら、俺、を?

 するといつの間にかお父様は俺の後ろに立っていた。そして、凄まじい衝撃が首元に響く……。


「かはっ……!」


 誰も信じるな、誰も信じるな──。それはお父様さえも……。


 ああ、一條瑠菜、キミの元に、帰れ、な、い……?

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― 新着の感想 ―
[良い点] 動物に好かれるってのがここでまさか活きるのか!? 熊を味方に連れておじいさんを驚かせてほしい
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