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嘘告だと思い込んでたら本告でした  作者: 家紋 武範
第二章 二人は恋人
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第三十四話 

 文化祭実行委員に推薦されてしまった話を一條さんにした。国永さんからの鳴門先輩が策謀を巡らして的なのは憶測なので伏せたが。


「ごめんね。だからしばらく一緒に帰れないんだ」

「うん、大丈夫だよ。生徒会から指名されるなんて、やっぱり空くんはすごいね。空くんならきっと上手く行くと思うから、頑張って……。あれ? おかしいな。おめでたい話なのに、瑠菜、空くんを元気づけなきゃなのに……、涙が……」


 気の毒! そしていい人! くおお、一條さん! 今すぐさらってキスしてしまいたい! くそう、学校め! 俺たちの仲に入り込みやがってからに!

 それにいつも一緒にいたのに、これからは週末デートしない限りは二人っきりになれないじゃないか。そしたら今週末は、一條ママさんの実家に行くみたいだし……。


 と、待てよ? 一條さんのお父様は、あの時、ママさんのご実家のお電話に大変に怯えてらっしゃった。

 うちの両親は互いの実家との関係も良好で、俺たち兄妹はよく連れていって貰って楽しい団らんなんかを味わった思い出がある。


 しかしお父様のご様子を思い出すと、あれはご実家との関係は良好ではないと推測できる。ふはは、あのお父様が無様に小さくなる姿を見るのは楽しいかもしれん。


「ねえ瑠菜?」

「なに?」


「瑠菜のママさんのご実家ってどんなとこ?」

「どんな? うーん、まあ大きいおうちだね」


「ふーん田舎って感じ?」

「まあそうだね」


「おじいさまってどんな人?」

「おじいさまは、パパみたいに優しい人だよ」


 パパみたいに! あのお父様のような? だからこそ、娘の婿には厳しいってことか。お父様が俺にするみたいに? ふふふ、こりゃお父様、ざまあですね。


「じゃあ、おじいさまはママさんをとっても可愛がってたんだねぇ」

「うん、すっごく! 里帰りすると頬擦りするくらい」


「へー、すごい」

「あと瑠菜のことも可愛がってくれるよ?」


 へー、一條さんのことも? ん、ん? ちょっと待て。その溺愛する肉親、そのパートナーへと憎悪。となるとママさんへのお父様。瑠菜ちゃんへの俺になるのでわ!?


 こ、これは! 人を疑うことを知らぬ、善の善なる人、能天気娘一條さんやママさんは気付いてないかも知れないけど、おじいさまは危険度大の人物で、お父様はママさんや一條さんを傷つけないように人知れず堪え忍んでいるのでは? それはあり得る。そうなると一條さんの『優しい人』など一ミリも信用出来ない。

 うむむ、事前に調べなくてはならない。よく知る人に……。




 放課後、一條さんと別れた俺は肩を落としながら新入りとして、文化祭実行委員の男子委員が集まっているという空き教室へと向かった。ここはこの期間だけ文化祭実行委員室というものになるのだ。


「いらっしゃ~い」


 そこにはニヤケ顔の同級生の委員たち。彼らは早急に俺を囲んだ。俺は壁へと追いやられてしまった。奴らの顔が怖い!


「大好きな一條さんと離れ離れになったのはどんな気持ちィ~?」

「俺たちゃあ、一條さんとお前が放課後歩いている姿なんぞ見たかぁないから文化祭実行委員になったんだよ」

「さぁー、何やってもらおーかなー!」


 ゲゲ。アンチ森岡の皆さん! 第二、三話から鳴りを潜めてらっしゃると思いきや、盲点! こんなところで力を蓄えてらっしゃったー!


「取り敢えず、この空き木箱を体育館の地下室にでも運んで貰おうかな? 邪魔だし」


 うーん、そうね。教室のスペースも狭いもんね。でも相当重そうだぞ? 俺は一人で四つもある木箱を体育館の地下室へと運んだ。すると、最後の一つを運んでいる際にズラリと並んだ生徒会役員。その先頭にいる生徒会長、鳴門先輩に見咎められた。


「森岡空くん。それをどこに運んでいるのかね?」

「あの、文化祭実行委員室から体育館の地下室です……」


「あ、それはいけないな。すぐに戻してくれたまえ」

「え? でも部屋を使っている実行委員はいらないと言ってましたが?」


「いいや、体育館地下にそれを置かれてはスペースが狭くなる。文化祭実行委員室は一年でもひと月程しか使わないからな。そこは我慢してくれたまえ」

「はあ……」


 そう言われて持ち帰ると、今度はそのひと月の間だけ体育館地下に置かして貰うよう交渉して来てくれとか、勝手は許されませんという回答を持ち帰ったりとかで、徹底的にこき使われた後、20時に這う這うの体で家に帰る……ところだったが思い出した。行かなくては行けない場所がある。

 それは一條家。目的の人物は──。


「ほう」


 その人は街灯の下でニヤリと笑う。俺はペコリとお辞儀をした。それは一條さんのお父様だった。だいたい会社帰りはこの時間だとあらかじめ聞いていた。会えて良かった。


「来る頃だと思っていた」

「そうなんですか?」


「話を聞こう」

「はい」


 お父様は、近所の広い児童公園まで俺を連れていった。当然一條さんはここにいない。お父様は暖かい微糖コーヒーを買ってくださったので受け取った。

 そしてお父様はベンチへと座り、俺は月明かりを背に受けて立っているところでお父様は口を開いた。


「で? 要件は検討がつくが、一応伺おう」

「はい、実は週末の瑠菜さんのおじいさまの家に行く件ですが」


「やはりそうか」

「お父さんは、大変恐縮しておりました。それはあちらさまのおじいさまとはとても厳しい人なのではないかと疑念を抱いたのです。孫娘と付き合う男など言語道断などと言われるのではないかと思いまして……」


 そこまで言うと、お父様は片手を上げて余裕げに制した。


「分かった、分かった。その心配、間違いではない」

「と、おっしゃいますと?」


「なにも世の中の娘の父親とは、俺のように優しい人間ばかりではない。中には鬼のように厳しい、クソみたいな分からず屋も大勢いるよ。だがキミはそんな地獄を知らんだろう?」

「はあ、最近一人似たようなかたがおりますが……」


「そうか。ソイツは気の毒だな」

「はい……」


「そもそもだな、ウチの香瑠の実家、大河原家は昔から続く名士と言われる家柄で、経済界にも政界にもパイプのあるところなんだ」

「そうなんですか?」


「そうだ。俺みたいな半端者など気にも止めない。俺と香瑠は好き合ってはいたが、とても結婚なんてできる相手じゃなかった。当時の香瑠には婚約者もいたしな」

「マジですか! どうやって結婚を?」


「そこだ。俺は悩みに悩んだ末、香瑠が不幸になるかもしれないとは思ったが、高校を卒業したその日に香瑠を連れて駆け落ちしたんだ」

「すげえ!!」


「金なんか無かったしな。電車に揺られて行けるところまで行った。そこでアパートを借りようと思ったが保証人も敷金も礼金もない。しかし香瑠はそういう業者を見つけてな、金も少し持ってるとか言って、なんとか小さい部屋に転がり込んだんだ」

「いや、苦労なされたんでしょうね~」


「まあな。次の日に二人で婚姻届を出したんだが、それが元ですぐに大河原家に見つかってしまってな。香瑠は連れ戻されそうになったが、すでに瑠菜が腹に宿っていたこともあり、なんとか許して貰ったんだ」

「じゃあ結婚は許された?」


「表向きはな」


 そう言ってお父様は指を立ててニヤリと笑う。


「だが義父は俺のことを許してはいない。香瑠の里帰りには、俺には無理難題を吹っ掛けてくる」

「無理難題ですか?」


「うむ。それはハッキリ言えば俺を亡きものにするようなものだったり、香瑠と離婚させようと脅迫めいたものだったり様々だった。直接的なのではゴルフのドライバーで足を打たれたり、金属バットで頭を殴られたりもしたが、あいにく俺はタフなのでな。無事に香瑠の元に帰れている」


 そ、それは──!? マジですか。コンプライアンス的にどうなんですか、それ。それにこれラブコメですよねー!? そんなバイオレンスな……。


「だからな、森岡くん」

「は、はい」


「ここは一つ協力しよう。今度義父は、俺たち二人を同時に襲ってくるかもしれん。キミは『瑠菜と結婚したい』と言った男だ。義父の瑠菜可愛がりは異常だ。きっとキミにも危害を加えてくるだろう。だが二人で手を組めば上手く行くはずだ」


 お父様は、ベンチに座ったまま俺に握手を求めた。うん、お父様は敵に回せば手強いお方……。でも仲間ならきっと心強いぞ!

 俺はお父様の手を握った。

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