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嘘告だと思い込んでたら本告でした  作者: 家紋 武範
第二章 二人は恋人
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第二十八話◆一條悟

 まったくもって気に入らん。あの森岡空とかいう男め。口にするのもおぞましいが、瑠菜の彼氏。くおおおおおお! 忌々しい!

 先ほど、瑠菜がスマホを見ているのをソファーの後ろを通るとき偶然見てしまった。


『明日はお父さんと離れて釣りしよう。そんで、見えないとこでラブラブチウチウしようね』


 とか書いてやがった! 一字一句逃さんぞ、森岡空め! その作戦、妨害させて貰う。フン。大事な娘をかどわかす大悪人め! ああ瑠菜、お前は騙されているのだよ。



 次の日。森岡の野郎は5時30分に来て、俺の荷物積込を手伝うとか言ってきやがった。ムカつくので、飲み物が入ってクッソ重いクーラーボックスを持たせてやった。そしたら瑠菜も香瑠もそれに手伝って、難なく車に運び入れやがっている。マジなんなの、コイツ。帰ればいいのに。


 車に乗り込むと、アイツは瑠菜の乗る後部座席に乗ろうとしたので、瑠菜は俺の隣の助手席に乗るように指示したが、そうするとアイツは妻の香瑠の隣に座ることになるので、やはり香瑠は俺の隣にして、瑠菜は後部座席に戻した。

 そしたら香瑠も瑠菜も『パパ面倒臭い』と言ってきやがった。うぬぬぬ、平和な一條家を乱すのは、誰あろうそこにいる森岡だと言うのに、俺が悪者扱いになっている。許せん。

 イラつきながら車を出してから気付いた。そしたら森岡を俺の隣に乗せればよかったのだ。くううう! 森岡め、許せん!


 香瑠は車内で森岡にいろいろ質問していたが、そんな男に興味など持つべきではない。お前の夫は俺なのだから。くくく~。ここで男らしいところを見せなくては。


 一時間半の運転で、隣県のキャンプ場に到着。車を小川に寄せて駐車。森岡のアホにテント設営を手伝わせた。事故に見せかけてスレッジハンマーで頭を殴ってやろうと思ったが、瑠菜の手前やめてやった。俺は人殺しになりたくはない。命拾いしたな。


 バーベキューコンロを用意し、まな板、包丁を準備した。釣ったものをすぐに焼けるようにだ。

 竿とエサは森岡に渡した。エサは適当につけろと言うと、恐縮しながら下流へと行こうとした。

 瑠菜はウキウキしながら早速森岡の手を取って車から離れようとしていたが許さなかった。釣った魚はすぐ調理しなくてはならないから見える場所にいろと言い聞かせたのだ。


 森岡は瑠菜を連れて『こういうのも楽しいじゃん』とか言いながら近くの丸太の橋を渡り、我々の対岸で釣ることにしたようだ。とはいえ素人丸出し。へっぴり腰とはまさにこのこと。まあ一日釣れずのボウズに間違いない。

 そこで俺はイワナやヤマメを山ほど釣って家族から尊敬を集める。


『へー! パパやっぱりスゴいね』

『やんやん、パパの釣ったのスゴく大きい~』

『それに比べて……森岡くんはダメね』

『パパ、もう瑠菜、今この時をもってこの人と婚約を破棄するよ。面倒だからキャンプ場に置いてっちゃおう』

『そーかそーか、そうしよう』


 ははは。香瑠も瑠菜も俺の元に戻ってくる。ざまあ! 森岡ざまあ!


「よっ!」

「やーん、空きゅんスゴーい!!」


 な、な、な、なにぃーー!!

 も、森岡! 貴様、嘘をついたのか? 釣りは初めてだと嘘を!? やっぱり貴様は卑怯なヤツだ! ぬおお! 40センチ級のイワナを……!


「やんやん、空くんの大きい! 大き過ぎるう!」

「瑠菜! 大丈夫! 大丈夫だから、俺に任せて!」


 お前、何やってる! 人の娘に! おおっと……釣った魚を捕えて針をはずしてるだけか……。なんかセリフが際どいぞ?


 瑠菜は森岡のボケが釣った魚をバケツに入れて俺のほうに持ってきた。


「じゃパパ、調理よろしく~」

「お、おう……」


 俺がイワナの内臓(ワタ)を取り、塩に漬けてると、また対岸から声だ。


「瑠菜、瑠菜あ! バケツ早く持ってきて~」

「スゴーい! 空きゅん、また釣ったの~?」


「あはははー。釣りって簡単だなぁ」


 ブチブチブチブチッ! 堪忍袋の緒が切れた。な、なんなのアイツ! 釣り道の奥の深さを分かってない! ちなみに俺が釣れてないのは調理してるからだからな!


「はいパパ。これもよろしく~、空きゅーん、今行くね~」


 瑠菜の声にバケツに視線を落とすと、バケツの中には大きめのイワナが三匹……。高速回転で森岡のほうを見ると、アイツの回りには小鳥が舞い、リスらしき小動物がピョンピョン跳ね回っている。そして、このキャンプ場に来ている、四、五歳ほどのどこぞの少年少女が、ヤツの釣りの様子を見ている。


 て、て、て、調教師(テイマー)!? あやつは、不思議なスキルを使って、幼いものや動物などを集める能力を持っているということか!? それによって、純粋無垢な魚たちもよってくると……? まったくもって気に入らん!


「空くん、瑠菜もやりたいいい」

「そう? じゃ竿を持って……」


「こうかな?」

「うん、上手だね。じゃ自分であそこに入れてごらん」


「こ、こう?」

「いいよ、いいよ~。どう? 感じるだろ?」


「うん……、なんか来る感じ」

「いいぞ~、じゃ俺の動きに合わせて……」


 なんだと、てめえこの野郎! それ釣りだよな? 釣りの話だよな? いちいち言葉がやらしいんだよ! 瑠菜の背中に張り付いて一緒に竿を持ちやがって!

 ゆ、許せん!


「森岡くん! ちょっと来たまえ!」

「は、はい!」


 森岡のクソは、瑠菜と早々に釣り上げた魚をバケツに入れて俺のほうにやって来た。


「は、はいお父さん、なんでしょう?」

「キミね、キミぃ。中々釣りが上手じゃないか。だがこうせわしくては私が釣れん。魚の捌きかたを教えるから、キミ、やってみたまえ」


「は、はい」


 そこで森岡に魚の捌きかたを伝授すると、瑠菜と共にキャッキャウフフと身を寄せあって調理を始めやがった。これはこれでムカつく。だが俺もデカイのを釣って、父親の威厳、夫の頼もしさをゲットしなくてはなるまい。


 一時間半経過──。


「釣れないね」


 か、香瑠う! そんな重い一言は要らないんだよ!


「そろそろ空くんが釣ったの焼いて食べようよ」


 見ると森岡と瑠菜は、調理も終わり、釣りにも飽きて辺りを無邪気に駆け回っている。あの野郎、瑠菜の細い腰に抱き付きやがって! もう殺す!


 立ち上がろうとしたが、香瑠に肩を掴まれて椅子に座らせられた。


「な、なにをする?」

「別にいいじゃない。もうみっともないよ。若い二人に嫉妬しちゃって」


「し、嫉妬?」

「そうだよ。空くん、別に悪い子じゃないよ? 誠実だし、優しいし。頼り甲斐もあるでしょ? それとも瑠菜は空くん以外の男と付き合って欲しいってこと?」


「し、しかしだな、ヤツは俺の目の前で愛娘とキスした男だぞ?」

「まあその辺は弁護しないけどさ、あんなに好きあってるんだから別に良くない?」


 見ると二人はこちらに背を向け地面に腰を下ろして肩を寄せ合っていた。


「ちょっと瑠菜寒いかなあ」

「だったらもっと引っ付きなよ」


「えへへ、空きゅーん」

「よしよし」


 香瑠は二人を呼んだ。そしてバーベキューを始めたのだ。森岡の釣った魚と、ヒレ肉のステーキ。それらを平らげ、片付けを済ますと、帰路に着いた。


 後部座席では疲れたのか瑠菜と森岡は互いに手を繋ぎ合い、身を寄せ合って眠りについた。そこに香瑠は話し掛けてくる。


「ごめんね、アルコール飲ませられなくて」

「構わん。運転は男の仕事だ。それに森岡くんが免許取ったら運転させて、俺は飲ませて貰う」


「へー……」

「どうした」


「いや悟の将来の絵に空くんがいるんだなあ、と思って」


 と言われて、俺はハッとした。


「い、いや、そんなつもりは……」

「あるんでしょ?」


「ん…………」


 少しばかり静寂。香瑠は後ろの二人を起こさないように笑う。


「いいじゃん。もう瑠菜を空くんに任せたって」

「ば、バカを言うな」


「いやあ正直、二人がうらやましくてさ」

「な、なんでだ?」


「あのっねえ。悟が空くんくらいの時は不良たちと喧嘩ばっかりで、私は毎日ハラハラしてたよ? 安心なんてなかった。親には知らない人と結婚しろって言われるし」

「お、おぐぐぐぐぐ」


「そんで、誰かのせいでレイプされそうになるしね。私から告白して、ようやく付き合ったと思ったって、悟はだんだん離れて行って、デートなんてしたことなかったよね?」

「う、うごごごごご」


「18歳で連れ去られて、すぐに結婚。すぐに家庭に入って、恋人の生活なんてなかった。新婚旅行も無し。ウェディングドレスもなし、婚約指輪も結婚指輪もなんにも無し。あるのは目の前は現実だらけで、瑠菜がここまで育つのに、私たち、瑠菜みたいな甘い甘い恋なんてなかったよね? 男として悟はそれをどう思う?」

「あ、くくくくく」


「だからさ、思ったわけ」

「な、なにをだ?」


「私たちもデートしようよ。まだ私たち三十代だよ? その歳から結婚する人だっているし。十代でできなかったこと、してみてもいいよね?」

「お、おう」


「大型遊園地とか、海外旅行とか、二人っきりでしてみたいよ。グアムに行ってみたい」

「へー……、そうか」


「あとラブホテルとか?」

「おあ! ぐ……、お前やらしいな」


「別にいいじゃん。行ったことないし。それにそれを言わす男ってどうなの? 普通男から誘うもんでしょ? 私たち夫婦なんだから。今度行ってみよう」

「そー……だな。行ってみるか」


 やがて家に到着。車から降りると、後部座席の二人は荷物を片すのを手伝ってくれた。そして森岡のガキは言う。


「あの~、お父さん。来週の週末なのですが、お嬢さんと一日デートさせて頂きたいのですが……」


 かしこまった言葉に俺は笑顔で返す。


「ダメだな」

「え? そ、そんな」


「来週は俺達夫婦がデートする。だからお前たちは一條家で留守番だ。わははははははは」


 森岡は、残念そうな顔をして下を向いてしまったが、これがとんでもない間違いだと気付くのはずっと後になってからだ。何しろ、熟れ初めた肉体をもて余す若人二人を一つの家の中に置いていってしまうことに、まだ俺は気付いていなかったのだ……。

 『もう殺す!』の部分はサム◯イスピ◯ッツの牙神幻◯郎のCV:コング桑◯さんの声で脳内再生していただけると幸いです。

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― 新着の感想 ―
[一言] パパ・・・残念だったね 来週末には食べられちゃうね ヨシヨシ でも香瑠さんがそばにいてくれるんだから、贅沢言っちゃいけないですよ!
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