第二十五話
俺は今──、風呂屋に来ていた。いわゆるスーパー銭湯。なにも家の風呂が壊れた訳じゃない。やむにやまれぬ事情というものがあったのだ。いや、正直に言えば、他人の男性自身のサイズを確認するためだ。
そんな局部なんてそうそう見せあいするもんじゃない。大抵の男は愛する女性にしか見せないハズだ。だから俺は、他人のモノとか見たことなかったので、ここに来た。
あらゆる男たち。そこには階級など存在しない。王侯貴族だって平民賎民だって一同に介し、己の一本をさらす場所!
ここなら遠慮はいらん。ボクもキミもいっせーのせっで出し合うのだ。ふふふふ。
まあこれは俺の策ではない。余計なことを言った妹の海に詰め寄った時だった。
「お前のお陰で、一條さんに俺のモノは小さいと誤認されたじゃねーかよ! どうしてくれる!」
と。すると海は安定の大爆笑だった。やはりこやつは悪人だ。現代に甦った大悪魔なのだ。
「ぷ。マジ? ゴニンなさい、誤認なさい」
「ナメてんの?」
「ゴメンゴメン。でもさあ、自分でも大きいか小さいかは分からないよね?」
「当たり前だ。そんなものお互いに堂々と晒していたら犯罪だ」
「だったらさ、見れる場所に行けば確認できるじゃん」
「見れる場所? あいにく俺はそんな秘密クラブなど知らん」
「バカだね~。大浴場だよ。銭湯とかいいじゃん。向こうのパチンコ屋さんの先にあるスーパー銭湯。あそこならいつも混んでるから、比べ放題の見放題」
「な、なるほど……、それはいいことを聞いた」
という話の流れだった。ここで人様のモノを確認しながら、平均値を探ればいいのだ。ふっふっふ。
俺はスーパー銭湯ののれんをくぐった。
すぐさま男湯に潜入し、体を洗った後に、頭にタオルを乗せ、入り口正面の湯船に陣取った。
見せて貰おうか! よそ様の自慢の一本とやらを!
次々に入ってくる方々のをチェックしてみる。
はいはい、同じくらい、同じくらい、ちょっと大きめ、同じくらい、小さいかな、同じくらい、ちょっと大きめ、同じくらい、と。
なるほどね、どーやら俺のは平均くらいじゃないかな? 可もなく不可もなく。同じくらいのイケメンパパさんは娘ちゃんをお風呂に入れてたから、あの大きさでもお子さまを作れるんだったら機能的にも問題なかろう。ほっ、安心した。
ホッと一息ついたところで、入り口が開き、同世代の男子、二人が入ってきた。
うごご! 一人は御堂じゃねーか。もう一人は同じサッカー部の佐杉とかいうヤツだ。部活の帰りか? 俺は慌てて頭の上のタオルを下ろして人相を隠した。だが目の部分は少しだけ開けて御堂のモノを確認した。
うっ! で、デカイ! あれはこの銭湯民族の中でも桁違いの戦闘力! まさに一つ上の男!
あ、あれで俺の理解者、加川さんを抱いていたのかあ……。そっかあ……。ふうん……。
お、おい! 俺! なに負けたみたいになってんだよ! 加川さんは俺のことカッコいい、御堂なんてサイテーと言ってくれた人だぞ?
もう、それなのに、なんで俺、落ち込んでんだよ……。
そんな落ち込んでいる俺の前に、御堂とその友人は湯船に入った。オイオイ、お前ら部活の帰りだろう? まず浴槽に入る前に体を洗うのがエチケットだろうが! くそが! だから、フラれるんだよ!
……いやいや、俺、完全なる嫉妬やん。御堂に対して。一本負けで何尖ってんだよ。はあ、自己嫌悪。
しかしどうやら御堂は俺には気付いてないらしい。そして、目の前の二人は話し出した。
「諦めきれねえよう……」
「しょーがねーじゃねーかよ、裏で好き放題してたのはお前だろ?」
「でもよ、ホントに好きだったのは美羽だったんだ……」
「うん……。後悔先に立たずだな、今は泣け。それで忘れろ」
「あー……、でも、そーだなあ……、アイツの幸せ祈るしかねえなー……」
「フッ。少しだけ大人になれたな」
「ん?」
「少し前のお前のこと、そんなに好きじゃなかったもんな。でも、加川にフラれて、国永に投げられてから、だんだん変わってきたんじゃねーか? お前」
「そー、かな……?」
「頑張れ。応援してるぞ。取り敢えず、部活に打ち込めや」
「だな」
う。御堂……。そっか。少し気持ちも変わったのかな? そっか、そっか。だったらさ……。イケメンだし、内面もイケメンになれば、最強だと思うよ。アレもデカイしな。
いや、アレ関係ない!!
なんとか、御堂たちに俺の存在を知られる前に銭湯から出ることが出来た。そして、俺はおおよそ標準。何も恥じることはない。ひゃっほー!
俺は何の気なしに、近くにある百均に行き、店内を物色していると、肩を叩かれた。振り向くと加川さんだった。
「よ。何してんの? 瑠菜は?」
「おおおおお、か、加川さん!」
「何ビックリしてんのよ。失礼しちゃう」
いやいや、加川さんは俺の理解者。でもさ、今あっちゃうと想像しちゃうだろ。御堂とのその時のことを……。加川さんは、そのお、やっぱり良かったんかな?
「ちょっとちょっと、何見てんの? 上から下まで……。目がやらしくない?」
「うおおお……、いや違う、よ?」
「どうしたの? 様子が変だね。お姉さんに相談してみな」
加川お姉さんに相談か……。いや、言いやすいけど加川さんに、その話をするのはちと気が引けるのもあるけど、さ……。
俺は取り敢えず百均で二人分の飲み物を買い、近くのベンチのある公園に加川さんを誘うと、彼女は買い物袋を下げてついてきてくれた。俺はそこで彼女へと飲み物を渡す。
「ほい、加川さん」
「おー、ありがと。で? 相談ってのは?」
「あー、んー、それがですねえ」
「言いにくそうな話だね。アレの大きさで悩んでんの? まあ気にしなくても……」
「いやいや、海の話、真に受けないで。海と風呂入ってたのなんて、小学生の小さい頃だから」
「ふんふん、オーケー」
「今、スーパー銭湯で確認して来たけど、俺のは標準!」
「プッ、そこまでしたの?」
「あー、なんで加川さんに、こんな話を」
「まあいいじゃん。誰にも言わないからさ」
「そこで、御堂も来てた」
「ふーん、あっそ」
「御堂のは、デカかった……」
「え!? やっぱり……」
「だからさ、その~、あの~」
「はいはい、良かったか、どーかとか聞きたいの?」
「いや、その~、まあ、はい」
「分からないけどね。御堂とだけだし。ただ私はそんなにそういうのは好きじゃなかったのは、たぶん御堂が独りよがりで下手だったからだと思う」
「え? 御堂が?」
「うん。なんかいつも自信ありげだったけど、全然。いいと思ったことない。出来ればしたくなかった」
「ほ、ほえー……。そうなん、だ」
「でも、空くんならどうなのかな?」
「い!?」
「なんか優しくしてくれそうだし、一生懸命そうだし、ね」
「そ、そうかな?」
「試してみる?」
た、た、試して? それは……、か、加川さんと? えと、それは……。加川さんはかわいいし、仲も良いですし、おっぱいも擦り付けられたことありますし、頼り甲斐もありますけどお……。
「いや、あの、それは、いや、ダメっつうか……」
「なに赤い顔してんのよ。冗談に決まってるでしょ。あーたは瑠菜の彼氏なんだから」
「そ、そうです。やだな、加川さん、からかわないでくれよ」
「あは。ゴメンゴメン」
「う、うん。瑠菜に言わないでよ?」
「言わない、言わない。でも二人とも、そう言うことしたいって、考えすぎじゃない?」
「え? うん、まあ……」
「もっとさあ、デートとかちゃんとして、価値観合わせて、信頼関係築いていかないと。私たちみたいなことになるよ?」
「えあ……、そ、そうか」
「そうそう」
なるほど……。俺たちが付き合ってから、俺は一週間ばかり瑠菜を疑ってたし、デートも加川さんたちとダブルデートしただけ。あとは互いの家を行き来しただけだよな。
そっか、デートかあ。
加川美羽、さすが頼りになる!




