第二十四話◇一條瑠菜
私は、空くんのお見舞いを終えて、美羽ちゃんと夢唯ちゃんと共に空くんの家を出た。今日は収穫があった。よかった、よかった。
思わず微笑む。空くんの妹、海ちゃんの言葉『お兄のちっちゃいから』で安心したのだ。
そもそも数日前。夢唯ちゃんが空くんに怒った事件は、空くんが私からのお誘いに気付かなかったという話を夢唯ちゃんと美羽ちゃんにしたからだ。
夢唯ちゃんは、なぜか怒っている感じで出ていってしまったが、残っていた美羽ちゃんが言った。
「ふふーん? でも空くんも偉いなー」
「どうしてえ? 愛し合ってたら、したいんじゃないのお?」
「なんで付き合い十日程度で急ぐかね? もっと相手をしってからさあ」
「だって、パパも付き合うの許してくれたもーん。結婚もしていいんだもーん」
「なにそれ。そこまで話進んでんの?」
「そーだよ。空くんが言ってくれたんだから」
「かー。やっぱカッコいいわ~」
「でしょ? でも空くんは瑠菜の恋人なんですからね!」
「分かってるよ。まあ、空くんも男だし、そういう行為もしたいと思うよ?」
「やっぱり? 瑠菜、頑張る!」
「でもさ……。あ、やっぱいいわ」
「ん? なになに?」
「いやあ、変な話」
「なーにー、気になる、気になるう」
「いやさ、空くんの大きかったらどうすんの?」
「空くんの?」
「だから、ホラ、男の……」
「……あっ……」
「まあ最初は痛いし苦しいかも?」
「ぎぎぎぎ、どのくらい?」
「その~、最初は鼻の穴にソレを入れられるくらい? とか言われるけど」
「は、鼻の穴!? じゃあ指くらいなら大丈夫……だよね?」
「ん~……、親指」
「親指!?」
「を、二本合わせたくらい?」
「お、おう……」
私は顔を手で覆った。そんなの鼻の穴に入るわけない。世の中の女の子はそんな苦行を? ひやあああああ。
で、でも個人差はあるよね。空くんは性格の通り私に優しい大きさかもしれない。そこに美羽ちゃんが付け加える。
「小柄な人は大きいって言うしね」
「こ、小柄? 空くん、小柄かな?」
「まあ、平均くらいかな? 168センチくらい?」
「じゃ、大丈夫だね? ふー、良かった」
「後わぁ、鼻が大きいとか、手の親指が太いとか」
慌てて私は空くんのほうを見た。空くんはぼうっとしているようだったが、私の顔を見ると小さく手を振ってくれた。
私はそれに気付いて美羽ちゃんのほうを見る。
「お鼻は……、大きくない」
「そーだね」
「でも親指は太かった……!」
「い?」
空くんがこちらを見て、振っていた手……。親指は太いように感じたのだ。私は頭を抱えて震えた。
空くんのは仮説だが大きいのだと。私が誘惑して、ひとたび空くんがその気になれば、彼自身は私を女にしてくれるだろう。しかし、それを受け入れられるだろうか?
『ぎゃあああああ!! 痛い、痛い! めっちゃ痛いーー!!』
『うるさいな、じゃやーめた。俺様の直立巨像を受け入れられないなら付き合うのもやーめた!』
お、おうっふ。そ、空きゅーん! カムバーック!
いや空くんはそんな人じゃない。そんなに簡単に別れるとか言わない。瑠菜、しっかり!
空くんは誠意ある人だもの。きっと優しくしてくれる!
『お願い、空くん、優しくして……』
『大丈夫さぁ。優しくするよ。じゃあゆっくりね』
『ゆっくり……?』
それはそれでどうなの? お風呂に入る際に、擦り剥いた患部を手で抑え、お湯に使ってしばらくしたらゆっくりと、手をはがしていくとしみるのを緩和できるのとは訳が違う。
初めては、鼻の穴に親指二本を捩じ込まれるのと同じくらい痛いのよね?
その親指二本をゆっくり、ゆっくり時間をかけて刺して、戻して、刺して、戻して……。いやいや、死んじゃうでしょ。
車に轢かれるのを、スローモーションでやられたい人なんていないもの。
やっぱり、サン、サンって通り過ぎて貰うほうがいいよね。スン、スンって感じで。
『空くん、優しくなくていいよ。激しくやっちゃって!』
『いいのぉ? じゃ、遠慮なく!』
いや、まて、なによそれ!? 激しいってどの程度なのかな……。胃袋とか大丈夫? ひっくり返らない?
ああ、空きゅんのソレにこんなに不安になるとは思ってもみなかった。これは告白の時くらいの悩みだわ~。
と、数日悩んでいた。だから二人っきりになるのを避けて、美羽ちゃんと夢唯ちゃんにお見舞いを付き合って貰ったのだ。
それが無事に解消! やったね! 空くんは私に合わせて小指一本くらいなんだわ。神様、ありがとう。
私は、家に帰るとテンション高く踊った。パパは『何かいいことあったか?』と聞いてきたけど、内緒、内緒。パパだけには内緒! はー、早く空くんに会えないかなぁー!
次の日のお見舞いは、私だけで行った。空くん、喜んでくれるかなあ~。途中のコンビニで『効果絶大、精力ドリンク!』と書かれたものを買った。これをコップに入れて行けばいいよね。私は、空くんのお母様にキッチンに入ることも許されているのだ。えっへん。
準備を整え、空くんの部屋に入ると、空くんは退屈そうに本を読んでいたが中断してくれた。
「お! 今日は瑠菜一人?」
「そうなの。空きゅんと、二人っきりになりたくて~」
私は思いっきり顔を近づけた。空くんは私を手招きした。体が痛いからもっと顔を近付けて、という意味だ。
私が顔を近付けると、空くんはキスしてくれた。久しぶりのキス。これが欲しいのに、二人っきりになるのを避けていたのは、ひとえに空くんのが大きいと誤解していたから。
でももう大丈夫! 空くんのは小さい。私は空くんに聞いた。
「ねね、空きゅん! 何か瑠菜にして欲しいこと、ある?」
「瑠菜に? じゃあ、時間ギリギリまで側にいて欲しいなあ」
「いや、そうじゃなくて」
「ん?」
私は精力ジュースを差し出すと、空くんはそれを音を立てて飲んでいた。それを見計らって毛布をかけている空くんの体に抱き付いた。痛くないようにふんわりと。空くんは笑いながら言う。
「こらこらあ~。知らないぞお」
それは空くんの脅し。防衛線。空くんは誘惑に乗らないようにしてくれているのだ。そこが空くんの誠実さの証。
でもさ、17歳の青春は今だけなんだもん。愛してるんだもん。
「ねぇ空きゅん。ムラムラしちゃった?」
「い、いや。でもそうされてたらヤバいかも?」
「んふー、さっきの飲み物、エッチなドリンクなんだって?」
「え? く、薬?」
「んーん。コンビニで買ったやつ」
「なーんだ。ほー、じゃ大したことないよね」
むむ。コンビニめ、アレ大したことないのぉ? 夫婦のもしもの時のお助けアイテムじゃないのかしら。くぬぬぬ。じゃもっと空くんにムラムラしてもらわないと!
私は腕に胸を押し付けた。
「うー、ワザと当ててるな? 襲っちゃうぞぉー」
「えへ。瑠菜怖くないもん」
「どうして? 俺だって男だよ。襲っちゃうかも?」
「だって、空くん小さいんだもんね~」
あ、空くんが黙っちゃった。でも、でも、瑠菜にはぴったりだと思うよ。私たち、きっと相性バッチリだと思う。うんうん。
「あの、さ」
「うん、なあに?」
「海が俺のを見たのは、小学生の小さいときなんだ」
「うん?」
「あれから成長してるし、そんなに小さくは……ないよ?」
「ええ!?」
私は思わず飛び退いて、壁に体を打ち付けてしまった。
そ、そんな……。空くんのは大きい……。ビッグでロングでアメリカンサイズなんだわ! 超ドレッドノート級! くう、騙された……! それぞれの情報から導き出された答えは、間違い!
やっぱり親指が太い人は大きいんだ……。多分親指四本分くらいに。
ジャンボ森岡! ああ、私に耐えきれるのかしら……?




