第十六話◇一條瑠菜
それから、二人は告白に対していろいろと提案してきたが、どうやら二人とも告白はしたことがない。
告白未経験者同士三人が頭を交えてああでもないこうでもない。
ただ美羽ちゃんのみが男性経験ありということで、いろんな男心をくすぐる作戦を立ててくれた。
作戦 一。
放課後、帰宅の際に偶然を装って隣に並び、世間話をしながらいい雰囲気になったところで告白。
これは、私と森岡くんの帰り道が一緒だから計画された作戦だった。私が森岡くんの背中を追いかけるところを、二人が背中から見守る、というややこしい絵図。
下校時間、森岡くんが立ち上がったところを見計らって、私たちも動く。
気取られないように、気取られないように、ゆっくりと廊下を雑談しながら歩く。
森岡くんが下駄箱から靴を取って帰宅の路についた! 今よ!
私たちはフォーメーションを組んだ。と言っても、私が森岡くんの背中を追いかけ、二人は壁や電柱の影に隠れながら追い掛けてくるだけだけど……。
告白なんて名刺代わり、告白なんて名刺代わり。私はそう復唱しながら森岡くんの後ろに近づく。
もう少し。もう少しで森岡くんに手が届くというところで、森岡くんは足を止めて腰を落としたので、私は、私は──。
通り、通り過ぎてしまったあああーー!!
目がグルグルで、もうなにも考えられない。森岡くんを追い越してしまった。背中に感じる森岡くんは、公園のほうに向かって声をかけている。
「いくぞー!」
「ありがとー! お兄ちゃーん」
どうやら公園で遊んでいる子供たちが森岡くんの足元に何かを転がし、森岡くんはそれを拾って放ってあげているのだ。
もう無理。全然偶然じゃないし。ここで立ち止まって待ってたらおかしい。なにより、私の心が持たない。
どうやら友人の二人も森岡くんを通り越して、私に追い付いてきたので、私の家に入り部屋の中で作戦会議をすることにした。
「まったく、なにやってんのよ~」
「んんんんんん~。だってしょうがないじゃない。あれじゃ全然偶然って感じじゃなかったしい」
「なにもさ、立ち止まった森岡くんに『やん森岡くん、なにしてるの?』『ああボールだよ。おい、いくぞー!』『へー、優しいね』『そうかな』『好きです』『俺も』『スーパーハッピー!』で終わりでしょ?」
「へあ……。すごーい、美羽ちゃん!」
なるほど、なるほど、そうやるのかあ。告白っていろんなタイミングを見切る必要があるんだねえ。出来るかなあ。うーん。
そこで、腕を組んでいた聞いていた夢唯ちゃんが口を開いた。
「まどろっこしいな。なにも取っ捕まえて怒涛の一本背負いを決めちまえばいいだろ?」
夢唯ちゃんは柔道部で、真っ直ぐな人だ。身長は180cmもある。今日は無理を言って部活を休んで貰ったのだ。
「一本背負いって、私、柔道の技かけられないよ?」
「そうじゃない。変な作戦なんていらない、真っ直ぐに自分の気持ちを伝えるのが一番ズドンとくるだろ?」
なるほど、そうか。その後は大変盛り上がり、放課後の教室で立ち上がる森岡くんを捕まえて、即座に告白する。という作戦が決まったのだ。
作戦 二。
放課後、教室で呼び止めて告白。
これは非常に間違った作戦だった。なにしろギャラリーが多すぎる。こんな中で森岡くんに告白、玉砕。では立ち直れない。
夢唯ちゃんは『行け、行け』と合図を送るが、絶対に無理だった。目がグルグルで、森岡くんのほうすら見れない。
そうこうしていると、森岡くんは鞄を持って帰って行ってしまった。
「ん、はーーーー……」
深い、深いため息をついた。そこに二人が駆け寄ってくる。夢唯ちゃんは柳眉を吊り上げて責めてきた。
「なにやってる! 懐に入るチャンスはいくらでもあったろう。すっと胸ぐらを掴んで、支え釣り込み足! なんでそんな簡単なことが出来ない!?」
「え? さ、ささえ?」
「お前みたいな、小さいヤツでも技を使えば大男だって倒せるんだ! よし、明日から柔道部に来い!」
か、勧誘? こ、告白わあ!?
「まあまあ、話が変わってるよ? 告白でしょ?」
と、美羽ちゃんは止めてくれた。ほっ。
しかし、その後はああでもない、こうでもないと大揉め。そこで私は提案した。
「て、手紙はどうかな?」
「手紙かあ」
「うむ、果たし状か」
「は、果たし状?」
「そうだ。いつ、どこどこに来るようにしたため、一対一の決闘をするのだ!」
「それよ!」
美羽ちゃんは手を打った。私と夢唯ちゃんは美羽ちゃんのほうに高速で顔を向ける。
「なにも告白する場所も時間も指定すればいいんだわ! そしたらそこには一人っきりの森岡くんが待っていてくれるわけでしょ?」
「ふむ、なるほど。正々堂々と真っ正面からの真っ向勝負。賛成だな」
私もそれに手を打った。
「そうよね! 手紙に校舎裏に来てくれるよう書けばいいんだ!」
私はそのまま机に向かって手紙を書いた。二人にチェックしてもらい、これでいいというのを、誰もいなくなった教室で、そっと森岡くんの机に忍ばせた。
作戦 三。
場所と時間を指定したものを手紙に書き、その場所に来て貰った時に告白。
私は、その日の朝からドキドキが止まらなかった。森岡くんは、いつものようにいつもの席に座り、手紙を見つけた時には、すごくアワアワキョロキョロしていた。かわいい。
終始落ち着かない様子の森岡くんは、放課後になると足早に出ていってしまったので、私は美羽ちゃんと夢唯ちゃんを連れて、それを追い掛けた。
森岡くんは、辺りを気にしながら校舎裏に向かってくれ、校舎裏に着くとこちらに背中を向けていたので、私は友人二人を銀杏の木の後ろに隠れるように言って待機して貰った。
そして、森岡くんへと近付いて声をかける。
「森岡くん!」
彼は振り向いて、私を見て大層驚いていた。
「い、一條さん!?」
よ、よかった。森岡くんだ。森岡くん……。私は泣き出しそうだったが、必死に声を絞り出した。
「あの、あのね、森岡くん……」
「え、う、うん」
「今日は……、いい天気、だね」
「う、うん、そだね」
「それで、話っていうのは……」
「あ、は、はい」
頑張れ、私。頑張れ、瑠菜。後ろには頼もしい仲間がいるんだもん。背中を押してくれているんだもん。
私は大きく息を吐き出して、森岡くんの顔を見ながら、今まで思い続けてきた気持ちを吐き出した。
「ずっと好きでした。付き合ってください──」
→第一話の空くんです。
次回から第二章『二人は恋人』です。
空以外の目線のストーリーも出てきます。
その際は『話数◇名前』みたいなタイトルになります。今回みたいに。
◇→女性
◆→男性
という感じで分けてます。
さあ、晴れて恋人となった二人ですが、いろんな妨害やハプニングもあります。これからもお楽しみに!
(*^^*)




