第十四話
一條家での昼食バーベキューは、始めこそ空気が張り詰めていたものの、だんだんと和やかになっていった。
それというのも、一條さんのママさんがお父様にお酒を進めるようにと、ガンガン俺に渡してくれたためだ。
お父様はお酒に酔うと陽気になるかただったのだ。
「お、うぉい! 森岡くん! キミは悪い男だなぁ、うちの瑠菜を手篭めにしおってぇ……」
「いや、してないですよ。はいお父さん」
カシュ!
「はい、ありがとう。森岡きゅん。キミは不埒な男だねぇ。人の娘を傷物にしたら、どーなるか分かってるよね?」
「分かってますよ~。僕たち、まだ高校生ですもん。はいお父さん」
カシュ!
「うんうん、ありがとね。うん、森岡きゅん。キミはぁ、いいやつだな。娘が見初めるのも分かるよ。うんうん。俺が高校生のときとは大違い……」
「ありがとうございます。はいお父さん」
カラーン……。
「やーやー、スマン。スマンねえ~。森岡くん。いやさ、空! お前は、将来は俺の息子だ! いや、下ネタじゃないよお? なー、瑠菜。お前、旦那を大事にしろよお。おい、空! 肉を食っとるか、肉を?」
「いやお父さんのお話を身に染みて聞いていたので、お肉を食べるのを忘れてました。さあどうぞお父さん」
トクトクトクトク……。
「エライね……。エライ! お前さんに瑠菜を託して間違いなさそうだ。うーん、なあ空。今度、キャンプに行こうな! キャンプはいいぞお」
「いいですね~キャンプ。僕、よく知らないので教えてください。さあもっとどうぞお父さん」
キュポン。トットットッ。
「うん、あんがとね。いいよお! 空。教えてあげるよお! はー、今日はいい日だ。空が俺の息子になった記念日だあ」
「はい、ありがとうございます!」
「……………………」
「……お父さん?」
「ぐー、ぐー、ぐー、ぐー」
「お父さん?」
どうやら上機嫌で、椅子に座ったまま寝てしまったようだった。一條さんのママさんは、それを見届けて言う。
「じゃ、お片付けしましょうか」
一條さんと俺は、バーベキューの後始末をし、ママさんはテントをたたんだ。そして、終わった後に、ママさんはお父様を起こす。
「ほら、パパ。空くんがみんな片付けてくれたわよ。部屋に帰って寝なさい!」
すると、ハッとして目を覚まし、回りが片付いているのを見て驚いていた。
「そ、そうか、森岡くんが……。なかなかやるじゃないか。うーん」
と言ってふらつきながら自室に向かって行く。それをママさんがサポートして連れていった。
俺と一條さんは顔を合わせて微笑みあった。
「ねね、空くん。瑠菜の部屋に行こうよう」
「ダメダメ。お父さんが言ったろう? 親の見ているところにいなさいって。その信頼を損ねたらダメでしょ」
「んんんんん、つまんないいいい!」
「俺たちは学校でも会えるし、帰るときも一緒でしょ」
「やーだ、やーだ。いつも一緒がいい!」
「聞き分けないなあ、瑠菜は。でもダーメ。それは将来一緒になってから!」
「んんんんん! 空きゅんの意地悪!」
「ははははは。かわいいなぁ、瑠菜は」
ん? あれ?
おかしいぞ?
なんだこの、ラブラブは。
一條さん?
一條瑠菜?
俺は一條さんのお父様に『将来結婚したい』と本音を言った。
一條さんも『駆け落ちする』とか『結婚させて!』、と……。
そしてお父様も『二人の交際は認める』と。覚えているかは微妙だが。
んんん? なんだそれ。
いつもの、一條さんの計略?
一條さんの罠?
いや、それって一体なんのためだろう?
もしかして、もしかして?
俺って思い違いしていたのでは?
一條さんは、本当に俺のことが好きで……。加川さんや国永さんに相談してて、あの人たちは、ただの見届け人?
一人で告白するの怖いから着いてきて、からの影から見守り隊だったのでは?
そうだよ。そうすれば、今までの一條さんの態度の説明がつく。
無理やり初めてのキスをしても、イヤそうじゃなかった。デートしてもめちゃくちゃ楽しそうだった。スキンシップも尋常じゃない。かわいい嫉妬も、笑顔で仲良くする様も、全部全部、一條さんの本気──。本気なんだ!
俺は隣にいる一條さんへと視線を落とす。すると一條さんはニッコリと笑顔になった。
「ねね、一緒の大学に行くんだもんねー」
可愛い。可愛いな、一條さんは。こんな可愛い人になら騙されてもいいや。
それに、俺たちはお父様に恋人の公認を貰った、れっきとした彼氏、彼女なんだ。もう一條さんを彼女って思っていいんだ!
大学か、そしたら同棲なんかしちゃったりして? 俺たちは親公認だし、結婚するから一緒に暮らさせてください! って誠心誠意お願いすればなんとか、なるかも?
そしたら一條さんと、ずっとずっと一緒にいれるぞ! 一緒にご飯作って、掃除や洗濯を一緒にして、お風呂や同じお布団に一緒に入ったりして。えへへへ。
はっ!! ちょ、ちょっと待て!
「あの~瑠菜? この前のテスト、クラスの順位何番だった?」
「え? んーと、三番かな?」
ぐあーーーーん!!
お、俺は三十五番。後ろから数えたほうが早い。クラスでそうなのだから、学年にしたら、百人以上の差があることになる。全国にしたら、その差、歴然!
そんな偏差値に開きがある俺たちが同じ大学に行くなんて──。
くく、一條さんめ! だが俺はやってみせる! キミとの結婚を目指して……!
十五、十六話は一條瑠菜のストーリーです。本編は十七話から再開します。お楽しみに!




