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嘘告だと思い込んでたら本告でした  作者: 家紋 武範
第一章 嘘告に抗え!
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第十二話

 一応、一條さんと話し合った。俺は十時に一條家へと行く。そして一條さんのお父さんより少しばかり説教をくらう。

 その後で、一條さんは俺に助け船を出してくれて、そそくさと一條さんの部屋へと引っ込む。そこで少しばかりボードゲームとかして遊んだあとで、昼食に呼ばれる。


 ここまでが作戦だ。一條さんの助け船など、一ミリも信用できないが、しかし、俺は誠心誠意謝った上で、お父様に一條さんとの交際のお許しを願う。お父上は、それに感じ入って『我が娘を頼む』という。困るのは俺をオモチャとしか思っていない一條さんだ。

 ふっふっふ。一條さんは、オモチャの俺と、おいそれと別れを切り出すことが出来なくなるぞ。元々俺は一條さんが好きなんだから、一條さんとこうして交際ごっこが出来るならばそれで構わない。どこかで彼女が心を入れ換えて『森岡さまの誠実さに心の奥から惹かれました』なーんてね、言うかもしれないじゃない?


 よし、そうと決まれば! 寝よう。明日に備えて。一條さんよ。頼むぞ助け船。出来ればそんなに怒られたくない。





 そして夜があけた!


 俺は昨日と同じパーカーを着るわけにもいかず、オタクかゾンビのファッションでお馴染みのネルシャツとジーパンに身を包んで、10時に一條家の呼び鈴を押す。それにしてもデカイ家だ。

 呼び鈴の回答を待っているが返事がない。留守? え? 一條家のほうがバックレ?

 すると、スマホにトークアプリからメッセージだった。


『空くん、パパに言われてママと買い物に来てるよ。パパはお庭にいるから、瑠菜が帰ってくるまで仲良くしててね』


 ──白目アンド立ち眩み……。な、なんと言う事後報告。一條瑠菜! キミって人は!

 そんなの出掛ける前にメッセージくれよ。そしたら俺は11時でもよくない? なるべくお父上とは接触したくないのに、それを二人っきりにするとは!


 キミは父親という遠隔操作の自動攻撃システムを使って悠々と買い物をしている間に、俺は人知れず、この一條家の庭でボコボコにされ、土の上に寝かされる。そんな中にキミは帰ってきて、『空くんどうしたのかな? 一人で勝手に転んで怪我でもしたんでしょう、ふうん。じゃ体調不良のキミのランチはお粥だよ!』と、白粥を出され、君たちがフランス料理のフルコースを食べるさまを指を咥えながら見る。


 それだな、一條瑠菜さんよ! この一條家の敷地内は高い塀で囲まれた治外法権。俺が暴力を受けても、それを訴える術も、目撃者もいない。一條家の面々が知らぬ存ぜぬを決め込めば、俺は勝手に転んで怪我したことに出来るのだから……。


「なにをブツブツ言っておるのかね? 森岡くん」

「はわわわわわ!」


 いつの間にか一條さんのお父様が後ろに立ってらっしゃった! そして、がっちりと肩をホールド。逃げられない!


「さあ、庭でバーベキューをしよう。妻と娘は買い物に出した。火おこしは男の仕事だ。きたまえ」

「は、はい」


 お父様に案内されて、庭へと行くと、アウトドアな雰囲気が。テントも立てられ、竈が作られている。薪が積まれて、今すぐにでも火をかけられそうだ。

 お父様はその竈の前の椅子にどっかりと座り、俺にも椅子に座るよう命じたので、竈を挟んで対面に座った。


 お父様は、火種を薪の中に入れ、火吹き棒に息を吹き込むと、あっという間に火がおきたので驚いた。


「娘と付き合ってどのくらいだ? ん~?」


 お父様からの質問。こ、怖い。笑顔が笑ってない。だ、だが分かる。これからの展開が……。


『い、一週間です!』

『一週間でキスするヤツがいるか!』


 YOU ARE DEAD.



 で、ですよね~。でもホントのこというと、キスは一日目です。それ言ったらマジもんで殺されます。

 一応、ウソのシュミレーションもしとくか……。


『い、一年です!』

『ウソをつけ! 娘から聞いてる! それに一日目でキスされたと言っとったぞ!』


 YOU ARE DEAD.



 ホラね。どっちにしろゲームオーバー。きっと道の途中で重要なアイテムが落ちてたのに気付かないで通りすぎちゃったんだ。ああパトラッシュ。僕、もう疲れたよ。なんかとっても眠いんだ──。


 YOU ARE DEAD.



 いや、寝ることも許されんのかい! しょうがない。どちらにせよ死ぬなら正直に答えるんだ、俺!


「一週間です! まだ付き合って一週間です。それなのに、キスなんてしてしまって、申し訳ありません!」

「キミは──」


「は、はい」

「娘がまだ17歳だと言うことを知っているか?」


「は、はい。知っています」

「君たちはどんなに愛し合って、どんなに助け合ったとて、まだまだ親の管理下なのだよ」


「は、はい。その通りです」

「それをね、私の大事な娘をだね、一生懸命に育てた娘をだよ? 素性も知れん、社会経験もない、ひよっこ同然の男がだ、どこで見ているかも分からない世間さまの前でだ、一心不乱に口吸いしていてよいものかね?」


「あの、それは……」

「ハッキリしたまえ!」


「ダメ……、ダメです!」

「当たり前だ。若いだの、抑えが効かないだの、そんな納得行かない、行くわけがない。娘はあの通り、恥ずかしくないとか言うが、それは片方が止めなくてはならん。そうは思わんかね?」


「お、思います」

「だが止めなかった?」


「すいません」

「なにもな、キスするなとは言わん。誰でもするだろう。そうしなくてはいかんと、私も思うよ。だがな、君たちは自制がきかない少年少女だ。このままでは、ブレーキがきかないまま、どこかに衝突して二人とも死ぬのが目に見えてる」


「は、はい」

「自制がきかないなら少し距離をとりたまえ。それが無理なら、別れたまえ」


「…………」

「どうした、森岡くん、返事は?」


「い、いやです!」

「はあ!?」


 俺も、お父さんも立ち上がったのは同時だった。だけど、もう止まらなかった。


「瑠菜さんが好きです! 好きなんです! 嫌われていようが、裏で笑われていようが、もてあそばれてようが、魅力的過ぎて、行きすぎてしまいます! そんな瑠菜さんと別れるなんて無理です! 無理なんです!」

「バカかね、キミは! そんな無思慮な勢いのまま突っ走られたら、ダメージがあるのは女のほうだ! それを知らんと言うのか!」


「知っています! 僕はきっと将来、彼女の体を傷めるでしょう。でもそれは、好きになってしまった者の罪なんです! それによって、お父さんに殴られようが蹴られようが仕方ない! その覚悟はあります! 瑠菜さんと結婚させてください!」

「はああ!!?」


「僕は一條瑠菜が好きなんだよぉぉおおおおーー!!」


 俺は固く、固く拳を握り締め、涙を流して訴えていた。ただ己の中にある本当の気持ちを──。


 その時だった。後ろでドサリと買い物袋の落ちる音がした。その方向を見ると、一條さんが口を抑えて泣いていたのだ。

 そして、彼女は駆け寄ってきて俺に抱き付き、その場でキスをしてきたのだった……。


 ああ……、一條瑠菜……。今の今なのに。お父様に怒られているのは、今の今……。

 だけど、嫌な気はしない──。

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