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嘘告だと思い込んでたら本告でした  作者: 家紋 武範
第一章 嘘告に抗え!
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第十一話

 そ、そう言うことか一條さん! キミって人は! カラオケ屋でも、ここでも、キミからキスをせがむなんておかしいと思ったんだ。

 俺もおかしいと思ったのなら、キスしなければよいという対策ができたかもしれない。だができなかったのは、ひとえにキミの唇の魅力のため……!


 色恋は思案の外という諺もある通り、色欲を倫理観で封じ込めることは至難なことッ!

 一條さん! キミの計略はまさに、それだ! 少しずつ少しずつ餌を撒いて、食らいついた魚を一気に引き上げるッ!


 俺にキスなど挨拶のようなものと思わせておいて、こんなキミの縄張り(テリトリー)の中でキスをしようものなら、親熊に見つかって、爪で引き裂かれる! 八つ裂きに……。


 それは俺の稚拙な嘘告返しのキスから、キミは用意周到に詰んでいたのだ、積み木を一つ一つ、高く高く……。その積み木はユラユラと揺れ、最後の一つを重ねた瞬間に瓦解する……ッ!


 まさに今の状況は作られるべくして作られたのだ……。それはお父様による強制別離。俺がどう足掻いても無理ゲーな……。


「瑠菜、このかたは?」


 恐ろしい顔をした一條さんのお父さんは、俺を顎先で指し示す。


「この人は──、森岡空くんだよ。私が中学に転校してきてから一緒の……。この近所に住んでるから家も近いの……。ホラ、三丁目の赤い屋根の右隣のおうちよ」


 個人情報を伝えて頂きありがとうございます。くく、一條さん! 殺すなら俺だけにしてくれ! 俺の家族まで根絶やしにするのは勘弁してくれ。


 そう思ってると、一條さんは俺の腕に自身の腕を絡めてきた。


「恋人なの。ちゃんと、交際してるよ、私たち……」


 う。一條さん? これはどういうこと? 俺を庇ってるのかい?

 だがお父様の怒号!


「路上で人様の娘にキスしてるようなヤツが、なにがちゃんと、か!」


 うぼあ! ま、まさしくその通りです。自分の娘がそんな目にあってたら、嫌ですよねー!

 い、一條さん、これ以上、火に油を注ぐのは止めてくれ!


「ひどーい、パパったら! いいじゃん。私たち、なにも恥ずかしいことなんてしてないもん! つーん、だ。パパがダメだっていうなら私たち、駆け落ちするもーん」


 火にロケット燃料。キミは交渉というのを知りませんか? 


 恐る恐るお父上のほうを見ると、鬼の形相……。こ、殺される?


「空くんとか言ったかね!?」

「あ、は、はい!」


「明日は日曜日だ。お招きしよう。昼食は家でとろう。いいね?」

「あの~……」


「いいね!?」

「は、はい!」


 きょ、強制的にランチ集合! あわわわわわ。こりゃ大変だぞ……。一條家の方々と食事……。毒でも飲まされるんじゃないのかな?


「ん、もう! パパったら。せっかく明日は空きゅんと二人っきりでデートしようと思ってたのにぃ! ぷうう!」


 だ、誰かこの人を止めてください……。





 完全なる疲労で、俺は家に帰った途端にリビングのソファーにぶっ倒れた。母はキッチンで夕食を作り、父はその手伝いをしていた。

 そんな俺の横には妹の海。


「なーに、落ち込んでんの? フラれるのなんて仕方ないじゃん。相手は一條先輩なんだから。ま、気持ち切り替えて行きなよ。先輩と1日でもデート出来たってこと、誇りに思って次に生かせばいいじゃん?」


 いや、なぜに俺がフラれた前提? そもそも一條さんの俺をもてあそぶ遊びなんだから、フラれたも付き合ったもない。

 だけど、そんな付き合ってもいない俺が一條家に昼食をとりにいかなくてはならない? その必要ありますか?

 俺は声を震わしながら妹に言う。


「フラれてなどおらん」

「ハイハイ、そーでちゅよねー」


「ムカつく」

「フラれてないならなんでそんな大ダメージなわけ?」


「それは、そのぉ……」

「ハッキリ言いなよ」


「キスしているところを、一條さんのお父さんに見られたからだ」

「ふえ……」


 妹は俺の寝転ぶソファーの下に倒れ込んでしまった。


「笑え。笑い終わったらどうしたらいいかアドバイスをくれ」

「クェーケッケッケッケッケッーー!!」


 クソが! まさにコイツは悪者だ。そんな笑いかたするヤツは悪者でしかない。だが悪者には悪者をぶつけるのが効果的。いやお父様のは見た目悪者ってだけだが。コイツならどうにかする助言をくれるかもしれない……!

 やがて笑い終わった妹は身を起こして訪ねてきた。


「どうにもならないじゃん。ぶん殴られて、娘と付き合うなー! って接見禁止を言われるだけでしょ」

「はー、やっぱそうだよな」


「その時に殴られなかったの?」

「殴られなかった。でもそこに一條さんがいたからかもしれん」


「じゃ呼び出しがかかるとか?」

「それはすでにかかっている。明日の昼食を一緒に取ろうと言われた」


「なるほどね、じゃ行くしかないでしょ」

「そうなのか? 別にバックレても良くない?」


「どうしてよ。そんなカッコ悪いの、お兄のキャラに合わないでしょ。誠実で正直。略して実直、それがお兄なんだから!」

「う。そ、そうか」


「バックレたりしたら、一生後悔するんじゃない?」


 うう、なるほど。たしかにそうかもしれない。いくら一條さんの策とはいえ、大事な娘さんにキスしていたのは、紛れもない俺なんだから。


 その時、スマホが着信を知らせる。見ると一條さんだったので、俺は慌てて家族から離れて自室にこもり、電話を取った。


「もしもし?」

「あん、空きゅん!」


「ど、どーした?」

「ねね、明日、おうちで一緒に遊ぼーね!」


 能天気! なにそれ! こっちはめちゃくちゃ悩んでいるというのに! そりゃそーだ。一條さんにとっては、俺が公開処刑をされようがされまいが関心事ではない。


『ふう、今日の処刑は誰かしらね?』

『たしか、森岡空とかいう平民でございます』

『おほほほほほ。足掻いて狼狽えて、死に行くものとはなんと楽しいことであろう? そちもそう思わぬか?』

『誠にもって』


 恐怖政治する女王! そして俺は粛清の対象。明日はその執行日なのだ。無惨に首を飛ばされ、彼女はそれを見ながら血の滴るステーキを食べる……ッ! 悪魔(シャイターン)!!


「で、でもキミのお父さんは、かなりのお怒りで……」

「んー、でも大丈夫。『こんにちわ』って挨拶してすぐに瑠菜の部屋に入っちゃえばいいよ」


「そんなわけにいかないよ。大事な娘さんと路上でキスしてたのは事実なんだから」

「…………」


 な、なんだ。急に無言になったぞ? キスとか言われて気持ち悪くなったとか?


「えへ」

「なに?」


「空きゅーん」

「どうした?」


「やっぱり好き!」


 なんだ、やっぱりって。思い返せば、とか、総合的に見れば、みたいな感じか? 『ありよりのあり』的な。

 そらそーよね、キミは俺の苦しむさまを見てりゃ幸せなんだからさぁ、いいオモチャでしょうに。


「あの、さ」

「うんうんうん」


「明日って、何時くらいに行けばいいんだろ? なに食べるのかな?」

「んー、瑠菜はすぐに会いたいから、早く来て欲しいなぁ。九時くらい?」


 早い! 早いよ。それ朝食。九時に行ってお父様に捕まって、昼食までずっと説教になっちゃうよ!


『路上でキスするとはどーゆーことだ!』

『すいません!』

『どーゆーことだ!』

『すいません!』

『まあ本人も反省しているようだし、終わったことは仕方ない』

『はい、すいませんでした』

『それにしても、どーゆーことだ!』

『すいません!』

『どーゆーことだ!』

『すいません!』


 ループ地獄。エンドレス地獄。エターナル地獄。涙があふれて止まらない。このまま川となって全て流れてしまえばいいのに。


「あ! やっぱりぃ、いろいろ服着たり髪いじったりするから十時?」


 一時間ずれた。この店長の気まぐれサラダ的なノリ。キミにしてみりゃ彼氏が叱られることなんて何てこたぁない話なんだろうけどさ。


 ん、彼氏? 俺は彼女のオモチャであって、彼女の中では彼氏ではないんだよな……。彼氏になりたいけど。そーだよ。一條さん、もし俺がお父上にちゃんと謝って、お父様より交際の許可を得たらどうするんだ?

 引っ込みつかなくなるのはキミなのでは? そして俺は無事に彼氏に就任!


 おお、見えてきた。一筋の光……! あれは天国への扉っ。ありがとう、ありがとう……。

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[一言] エターナル地獄はなろう作家に効く( ˘ω˘ )
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