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嘘告だと思い込んでたら本告でした  作者: 家紋 武範
第一章 嘘告に抗え!
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第十話

 肩に一條さんを寝せたまま、カラオケを歌うわけにもいかず、俺と加川さんは雑談に興じていた。

 まあ、加川さんが話すのは、今日俺を見ていて、一條さんの目が正しかったとかいう、持ち上げと、今後の計画のための刷り込みであろう。


 この嘘告計画を知らないままだったら俺は、一も二もなく舞い上がり、大空に飛び上がっていただろう。


 しかし、それは一條さんと、加川さんが作った蝋の羽根。太陽の熱で溶かされて、俺の体は地上まで真っ逆さま! 大地に叩きつけられて絶命する──ッ!


 危ない。備えろ。この黒い魔女集団の儀式の生け贄にされないように! ぐっ、ぐっ! あまりにも強すぎるよ、一條さん、そして加川さん。キミたちは、そうやって俺を優しく褒めて持ち上げ、計画を遂行するんだね?

 俺は一條さんと無理にでも付き合おうとしている。しかし君たちはそうはさせまいと別れのレールに向かって列車を走らせる──。


「あ、ごめん。ちょっとトイレ」


 お。ほーー。加川さんが席を立ったぞ。一條さんは寝ているし、今のうちに体力を回復させよう。

 しかし、その作戦を思い付いたとたんに出入り口で加川さんが振り返る。


「空くん」

「え?」


「二人っきりになったからって、瑠菜とエッチなことしてないでよね!」

「ちょ、ちょ、ちょ。そんなことしないよ!」


「あは。冗談。ホント、空くんからかい甲斐あるわ~」


 そう言って部屋を出ていった。くっ。今の言葉に全てが集約されてるよな。俺はからかい甲斐がある。

 くっそう、この女どもめぇ。


 俺の肩には寝息を立てている一條さん。ホントに寝てるのかな? 寝てるよな。これで起きてたら女優だよ。


 はー、まったく。寝顔はこんなに可愛いのにな。とりあえず、ソファーに寝かすか。


 俺は一條さんの体を支えながら、長いソファーに横にした。


 すると──、ぶるんぶるん。おおっとぉ! 一條さんの巨大メロンが体を揺らす! な、なにこのこぼれそうなのは!? そして、魅力的な瞳を隠す瞼が震えながら開く……。


「あ、空きゅん……、キシュしてよぅ」


 はっ!? ね、寝言? く、くそ! ダメだ! ダメなんだぁ!! 俺よ止まれ! 抗え! 吸い込まれちゃダメだ、この唇に!


 すぐに加川さんは帰ってくるぞ!? その時、俺が一條さんにキスしてるの見られたら一貫の終わりだ!


『はい~、カメラに収めました~、瑠菜もういいよ~』

『けーけっけっけ。騙されたな! 森岡空!』

『この貴様の犯行現場であるレイプ写真をバラ撒かれたくなかったら、裸で踊って貰おうか!』


 ダメだ。分かってた。分かってたのに、もうこの唇の魅力に勝てなかった!

 俺は──、一條さんに覆い被さって、その唇に自分の唇を重ねていた。誘われるように……。


「ん……」

「な、なんてことだ……」


 ああ、こんなことあるんだな……。理性、倫理、我慢。そんなものがまったく効かない世界。

 俺は一條さんの奴隷だ。心を完全に縛られてしまっている。彼女の寝込みをこうして襲ってしまうような──。

 一心不乱に彼女の唇を味わっていると、俺の首に回される二本の腕。


「えはぁ……空きゅん」

「る、瑠菜、起きてた……?」


「嬉しい、空くんがキスしてくれてるぅ」

「あ、あ、クソ! がっちりホールドされて……! これか! 一條さん、キミって人は! この時を狙って……!」


「ダメ、ダメぇ、もっとして、もっとしてぇ~」

「くっ! ほどけない! 一條さんの中にこんな力が!」


「ああん、空くんのせいで、瑠菜、エッチな子になっちゃったよぅ……」

「ああ! こんなところに加川さんが帰ってきたら!」


 ガチャ。 やっぱり。ドアの開く音。


「あんたたち、何やってんの?」

「いやぁ、あのこれは……」


 時が来たとばかりに、しゅるしゅると外れる二本の腕。一條さんに視線を落とすと──、熟睡? さっきのは寝ぼけ?

 一條さんは、寝息を立てて寝ていた。振り返ると蔑むような目で見ている加川さんの顔。俺はその後、床に正座させられて説教をくらった。





「まったく。まだ付き合いたてだから我慢できないのも分かるけどさ」

「ごめんなさい、すいません」


「ま、いいけどね。二人同意なんだろうから。でも、人前ではしないように!」

「ごめんなさい、ごめんなさい」


「もう。かっこいいなって思ってたのにさ」

「すいません、すいません」


 時刻はフリータイム終了近くなっていた。加川さんはソファーに足を組んで座り、女王の体勢。俺は床に正座して奴隷の体勢。


「ホント、起きないね。まあこの一週間、興奮やらお弁当やらであんまり眠れないって言ってたもんね。空くんが一緒だから安心しちゃったんでしょ」

「はあ……」


「じゃ、時間だし帰ろう。ほら、瑠菜起きて!」


 加川さんは一條さんを揺らすものの、一條さんは良い夢を見ているようで起きない。


「はー、ダメだね。起きない」

「じゃ、俺、帰るほう一緒だし、背負ってくかぁ……?」


 すると加川さんはニッコリと笑いながら俺のほうを向いた。


「あんたって人は本当にさぁ……」

「え?」


「普段からは想像できないくらい、男だよ。エライ、エライ」


 ホッ。よかった。それにしても、加川さんはホントに褒めるな……。それも作戦なんだろうけど、今はこうするしかないしな。


 俺は床に膝をついて、一條さんを背負う体勢を整える。そこに、加川さんがサポートしてくれて一條さんを背負わせてくれた。


 カラオケ店を出て、加川さんは駅のほうに。俺と一條さんは郊外の自分たちの家に向かって。俺たちは別れあった。




 街中から俺たちの地域までは三キロほどだ。広い歩道がだんだんと狭くなる。

 そこでも背中の小悪魔は可愛らしく寝息を立てていた。


「うふ、うふふ、空きゅん……」

「はぁ、寝言で笑ってるよ。夢の中の俺にどんな意地悪をしているんだろう?」


『ほーらほら、空きゅんの今日のお弁当は激辛30倍カレーだよ!』

『ぐ、ぐわ! か、辛い!』

『けーけっけっけ。おいおい、水を飲むんじゃねーぜ。水を飲んだらさらに辛くなるからなぁ、お代わりはたくさんあるから全部食えよ~』

『く、くそう、一條さんめぇ!』

『はーっはっはっはっ! 苦しむが良い、空きゅん! 気味が良い! はっはっは!』


 怖い! まるで地獄の鬼! 釜茹でになった激辛カレーを俺に食わせる地獄。そ、そんな夢かぁー、一條すぁん! ひどい、ひどいぞぉ!


 そんな想像をしていると、だんだんと一條さんの家が近付いてきた。

 なんか、一條さんの想像をしてたら重いとか疲れたとか感じなかったな……。


「はれ?」


 ん? 背中の一條さんが……。え? ここで起きた? もうすぐゴールってところで! くそ! 一條さんめぇ! その作戦か! 俺に多大なる負荷をかけ、肉体的ダメージを与える作戦だったか! やられた! お人好しの俺は一條さんの計略にまんまとはまったのだ……。


 そう思っていると、背中の一條さんは、さらに俺の背中に張り付いて唸りだした。


「んんんんんん!」

「ど、どうした、一條さ……、瑠菜?」


「あーん、寝てて、空くんと遊んでなかったよぅ! やーだ、やだ、やだ、帰りたくない~」

「え? だってもうすぐ家だよ?」


「やんやんやん、ここで回れ右して、ね、もう一回あそぼ?」

「ええ? だってもう暗いし」


「……それに、空くん、キスしてくれてないし……」

「えー!? したけど?」


「ひゃん? どこで?」

「カラオケボックスで……、加川さんがトイレ行ったときに、ソファーで重なりながら……」


「えー! やだやだやだ、覚えてない! もう一回! もう一回!」

「こ、こら! 揺れちゃダメ! 落ちちゃうよ?」


「下ろしてぇ! キシュするから下ろしてぇ!」

「もう、キミって子は──」


 俺は一條さんを下ろす。彼女はその場で目を閉じて顔を俺のほうに向ける。

 こ、ここで? ま、まあ人もいないし、街灯も離れてるからいいか?


 俺は軽くキスして離れようとしたが、一條さんは首に手を回して、またホールドしてきた。放してくれない。


「むご! ちょっ! 瑠菜?」

「らめぇらめぇ~、いっぱい、いっぱいするのぉ~」


「ちょ、ちょ、ちょっとお!」


 俺はもがいたが、一條さんのホールドは固い。抜け出せるものじゃなかった。


「な、なにしてんだ、瑠菜」

「パ、パパ!?」


 パ、パ、パパですと!? お、お父様!? し、死んだ! 完全に死んだ! 俺は恐る恐る振り返ると、そこには厚い胸板しかない。さらに顔を上にあげると、俺を見下ろしているスーツ姿の巨大なイケオジがいた……。

 え、えーと、この二メートル近いプロレスラーみたいなかたがお父様? いや、パパって柄じゃないでしょー、こ、れ、は! んー、でも確かに一條さんの顔に部分的に似てらっしゃる。こんなガタイのかたに殴られでもしたら、そこには死しかない。



【悲報】森岡空、完全終了のお知らせ



 え、っとぉ……一條瑠菜? これはさすがにやりすぎなのでは……?

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― 新着の感想 ―
[一言] コメディ要素を少し減らした方が読みやすい
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