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こちら魔族領魔王城前教会 ~このすばらしい異世界でゼロから始めるハウスダストクルセイダーズ~  作者: 名久井悟朗


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歓迎会?いいえ、最後の晩餐よ


 大広間に長机が何列も縦に並べられ、魔術師や貴族等アンティオキアの有力者達がそれぞれ椅子に座りガヤガヤと歓談をしている。

 部屋の奥には一際大きな長机が一卓、どの列からも見やすいよう横向きに置かれ、アンティオキア公一族と勇者一行の席が設けられている。

 どの机にも無数の料理が並ぶが、食器はそれぞれに杯と汁物を入れるボールのような深い木皿のみ。

 料理は各長机それぞれに大きな皿パンの上に載せられ、肉料理のみ公自らそれらを回りナイフで切り分けていく。

 ロムやビザンチンの高貴な食事の席では二股のフォークとスプーンくらいはあったが、少しでも離れれば全て手掴み、汁物も直接口をつけて飲むのが作法というのだから、当初カワサキは大変面食らっていた。

 しかし、基本──涼花が絡まなければ──可憐で清楚な立ち居振る舞いのテレジアも平然と手掴みで食事をしているそれに習い、今では鳥の丸焼きを起用に素手で解体できるほどになっている。

 当然だが、涼花は最初から戸惑い一つ見せず、山賊の如き豪快な食事振りに筋骨粒々な魔術師達から賞賛を受けていた。

 全ての席に食事が配膳されると、肉の切り分けから戻った公はテーブルクロスで肉汁の付いた指を拭くと杯を手に持ち、激しく三度机を叩いた。

 ガンッ!ガンッ!ガンッ!

 するとガヤガヤと騒がしい歓談の喧騒がゆっくりと収まり、誰もが公に注目をした。

 公は周りを見渡し口を開く。

「皆の者、今日は勇者様歓迎の宴に良くぞ集まってくれた!」

 公がそう言って笑みを見せると有力者達は杯で机を叩き歓声を上げた。

「アンティオキアにようこそ!」

「勇者様万歳!」

「魔族を滅ぼせ!」

「アンティオキアに栄光を!」

 大きな歓声に公は満足そう頷き、騒ぎが小さくなると力強く言葉を続けた。

「そう!名誉な事に勇者様がこのアンティオキアにいらして下さったのだ!勇者様擁する我等に恐れるものなどあろうものか!?いや、無いっ!!邪悪な魔族共が滅び、栄光と平和が我等に戻ってくる日は目の前に来ているっ!!」

 公は立ち上がり涼花を支持する様に拳を振り上げるると、それに呼応し貴族達は興奮し更に歓声を上げる。

「アタシが来たっ!!」

 涼花は更にそれを煽るように堂々と宣言すると貴族達の目に熱狂が宿った。

「アタシがこの地に必ず平和を取り戻してあげるわ!だから全部任せないさい!!」」

 最早貴族達の熱狂を止める者はいない。

「勇者様に栄光を!」

「勇者様に勝利を!」

「この素晴らしい勇者様に祝福をっ!」

 貴族達は口々に歓声を上げる。

 その反応に公は満足そうな笑みを浮かべ合図を出すと、部屋の隅に控えていた使用人達が皆の杯にワインを注いで回る。

「勇者様の歓迎と約束された勝利の祝いだ。私からはささやかながら食事、勇者様からはわざわざラテン半島産の銘酒を提供頂いた。今日は思う存分食って、呑んで、騒いで!英気を養ってもらいたい。諸君!思う存分楽しもうではないかっ!!」

 公がワインの注がれた杯を掲げると皆一様にそれに習った。

「勇者様と我々の勝利に!」

「約束された勝利に!」

「勇者様に!」

「平和に!」

 皆口々に口上を述べワインを一気にあおった。

「美味い!流石勇者様の酒だ」

「ラテン半島産のワインなんて滅多に飲めないからな。おい!こっちにも注げ!」

「一々注ぎにこんでいいから樽ごと置いてけ!」

 誰もが美味い美味いと酒を呑みガツガツと飯を食らい、近い者と会話に花を咲かせる。

 カワサキから見れれば彼等の食事風景は、貴族の夜会というよりも蛮族、賊の呑み会といった様相であった。

 もっとも横では勇者である涼花が、その賊達以上に豪快に肉を食らっているのでこの場では彼女のお上品な食べ方の方が異端である。

「アタシにもお代わりを貰えるかしら?」

 専属に連れて来た聖戦兵が涼花の杯に液体を注ぐ。

「あれ?珍しいですねセンパイもジューsむぐぐぐっ!?」

 涼花は不思議そうに尋ねたカワサキの口に杯をねじ込み口を塞ぐ。

「ほらほら、カワサキもワイン(・・・)をじゃんじゃん飲みなさい!!」

 涼花はカワサキの耳元で「会話を合わせろバカ!」と小声で怒鳴ってから彼女を解放した。

「げほっ!げほっほっほっ!!無理やり飲ませて酷いですよセンパイ。気管に入っちゃったじゃないですかぁ」

 公とテレジアが二人を訝しげに見たが「また、よくわからん事を……」という表情になると、腹の探りあいを再開した。

 只一人、オタカルだけは何かを察したのか、手に持っていた杯を押しやると給仕に水を沢山持ってくるよう言ってから厠へと急いだ。

 ──それから半刻が経過した。

 一人、また一人貴族達は泥酔したかのように机に突っ伏し意識を手放していった。

「……っ!?りょ、涼kぁ……っ!?」

 異常に気付いたテレジアが、弾ける様に立ち上がり、涼花へと詰め寄ろうとした時には遅く、彼女はそのまま地面へと倒れこんだ。

「……くっふっふっふっ!一瞬どうなるか焦ったけど、何とかなったわね」

 涼花は冷や汗を拭うと、会場を見渡した。

 既に大多数が眠りこけ、残った僅かの者もまともな思考が出来そうな者は、涼花とカワサキ、オタカル、聖戦兵以外一人も残っていない。

 使用人達もこの状況に戸惑い、何か出来る者はいない。

「合図を出しなさい!城門を開き兵を中に入れるのよ!公務関係者、貴族達、それ等の家族関係者を全て捕らえるのよ!!」

「「「はっ!!」」」

 指示に従い迅速に走り出す聖戦兵。

 涼花は残ったオタカルとカワサキの方に向き直ると獰猛な笑みを浮かべた。

「さぁ、国取りの始まりよ!あんた達にはしっかり働いてもらうわよ!?」

 この日、オートヴィル朝アンティオキア公国は滅亡した。


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