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こちら魔族領魔王城前教会 ~このすばらしい異世界でゼロから始めるハウスダストクルセイダーズ~  作者: 名久井悟朗


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アタシが勇者(バハードゥル)よ!


 アンティオキア公国の港町を発ち首都アンティオキアまでの道中、涼花達は幾つかの村に立ち寄っては聖戦税を徴収。

 それと同時に現地で迫害されている魔族に対し、医療行為や食料の配給等支援をして回った。

 どの村でも『勇者バハードゥル』を名乗る涼花に魔族達は最初警戒していたが、彼女自身が率先し手ずから手当てをし、食事を配り、同じ鍋で煮た粥を啜り安全を教えると、ゆっくりと不信感は消えていった。

勇者バハードゥルであるアタシに任せておきなさい!アンタ達を救って見せるわ!!」

 同じ食事を取り、同じ言葉で語らい、、同じ酒を飲み干せば、後は涼花生来の気質に飲まれ、魔族達は彼女と肩を組みその土地の歌を歌った。

 そして、翌日には村の魔族も涼花も等しく二日酔いに苦しみながらも別れを惜しんだ。

「うう、バハードゥルまたいずれお会いしましょう」

「何かあれば必ず力をお貸しします!……オェ」

「オレ達の数倍は呑んでたのに迎え酒とは化物だ」

 涼花が熱い抱擁を交わしている間もオタカルは警戒を解かず、テレジアなどは今にも涼花を絞め殺さんばかりに不機嫌そうな顔で睨んでいたが、涼花を妄信し価値観が聖教の経典よりも涼花の言動に従う聖戦兵達は不平どころかその宴を楽しんでいた。

 そしてカワサキなどは、この世界に来て最も幸せそうな顔をしていたのがこの宴の席であり、移動中の今でさえ余韻でニコニコと笑っていた。

「テレジアさん達は偏見を持ちすぎなんですよ。魔族の人達も同じ血の通った人なんですから、話し合えば必ず分かり合えるんですよ♪」

 そうにこやかに語りかけるが、事はそう単純でない事をテレジア、オタカル、涼花は知っている。

 教義の違い、価値観の違い、文化の違い、どちらかに合わせる、譲るという事は、事と次第によっては、先祖伝来、脈々と受け継ぎ、信じてきた事の否定となってしまう。

 それは個人、血族、国家の面子を潰し、大きな既得権益、今の社会構造を潰しかねない問題であり、一朝一夕の話し合いで解決できるような問題ではない。

 もちろん、ビザンチオン等一部の地域では、聖教徒と魔族がほぼ対等な形で共存している所もあるが、それがあらゆる土地で可能かと言われればまず実現不可能だ。

 テレジアとオタカルは幸い、それだけの事を知る教養とそれを認めるかなり柔軟な思想の持ち主ではあった。

 しかし、彼女たちが本当に気にしていたのはそれではなかった。

 二人は顔を見合わせると小さくため息をつき、オタカルが酷く言いづらそうにカワサキの方へ向き直った。

「平和は確かに結構ですが、あの魔族達もうすぐ酷い目に合うかもしれませんよ?」

 カワサキは首を傾げた。

「え?それは一体どういう事ですか?」

 彼女はオタカルが何を言っているのかわからなかった。

 しかし、彼の顔を見ればそれが嘘や冗談の類でない事はわかった。

 オタカルはカワサキを言葉を選びながら話した。

「曲がりなりにも涼花さんは聖教が認めた正式な勇者です。そんな本来なら自分達を救うべき人物が、自分達から重税を取り立て、あまつさえ憎むべき敵であり、敗者であり、異郷の悪魔である魔族に対して施しを与え、親しく接していたら村の人々は何と思うでしょうか?俺達が去った後その憤りは誰に向けられるでしょうか?」

 オタカルの話が進むに連れカワサキの額に汗がポツポツと浮き上がり、顔から血の気が引いていった。

「カワサキさんには翻訳されていて気付かなかったかもしれませんが、勇者様が言っていた『バハードゥル』とは魔族側での勇者の呼び方ですし、アレは本当にまずかったですよ……」

 そもそも『勇者』という存在は、聖教独自の物ではなかった。

 聖教と魔族の信仰、双方の教祖は共に同じ人物の弟子であり、二つの信仰はそこから派生した物である。

 そして、『勇者』はその開祖が迫害された時に突如教祖によって呼び出され、教祖の弟子よりお供を三人選び迫害者達へ立ち向かい、迫害を収めたとある。

 その正式な記述は僅かに一ページ。

 活躍どころか方法もどんな人物かすら書かれていない謎の多い人物なのだ。

 故に自由な発想、飛躍した解釈が多く、好き勝手に物語化された冒険譚が非常に多く民間で話され、古くから聖教と魔族双方の信者の間で人気があった。

 双方の違いを上げるなら『勇者』の呼び方ぐらい。

 聖教圏では『ヘルト』魔族領では『バハードゥル』。

 自分達の勇者ヘルトが魔族達の勇者バハードゥルを名乗ればどのような印象を受けるか……

 あの場で問題が発生しなかったのは、ただ単に引き連れていた兵力によものであったとしかオタカルには思えなかった。

「せ、せんぱぁ~いっ!?ど、ど、どどうするんですかっ!?このままあの村は!ムハンマド君やアーミナちゃんがっ!!」

 カワサキは事の重大さに気付き村で仲良くなった子供達の名前を叫ぶ。

 しかし、涼花は腕を組み、薄い胸を張りながら尊大に答えた。

「大丈夫だ。アタシに良い案がある。少し騒動にはなるかもしれんが、すぐに何とかなる!」

 その表情にイラッとしたテレジアが、ドスの利いた声で尋ねた。

「涼花、お間どうなるかわかっていいてやったな?藁束に火を突ける様な行動をして何を企んでいる?」

 涼花は強張った顔で目は宙を泳ぎながらも言い訳に頭を回転させる。

「だ、大丈夫ですよ。万事上手くいくプランがあるんですよぉ……あ、ほら!アンティオキアが見えてきましたよっ!」

 そんな涼花を睨むテレジアの目は、彼女を全く信用していなかった。



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