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第九十四話 巨人族の村と囚われの男

 イリーナに運んでもらって二日が経った。

 俺達は何事も無くもう少しで巨人族の村に着くというところまで来ていた。


「ここまで来ましたね」


 ヒルダが言う。

 道中で魔王と合わなかったことを考えると村の中にいる可能性が高い。

 これから先は警戒しないといけないな。


「私達の行動が世界の未来を変えるかもしれない。そう思って動きましょう」


「ええ」


「そうね」


「うん」


「ああ」


「はい」


 シャーロットの言葉に俺達は返事をした。

 そうだ。

 俺達の行動次第で世界の運命が大きく変わる可能性がある。

 つまり未来は変えられるってことだ。

 それぞれが自分ができる最大限をやれば、世界を平和なまま保つことだってできる筈だ。


「よし。この辺りでいいだろう。着いたぞ!」


 イリーナはそう言うと俺達を地面へ降ろした。

 というのも、いつ魔王が襲ってくるか分からない。

 何かあった時の為に村に着いたら歩いて周囲を警戒しようという話をしていた。


「ここから先が私達の村だ。まずは今の状況がどうなっているのか知りたい。村長の家まで向かう」


「分かった」


 それから俺達はイリーナを先頭に歩いていく。

 周囲には大きな木々があるだけで特に変なところはない。


「やっと魔王様に会えるわ…」


 そう言うシャーロットの顔は複雑そうだ。

 それもその筈、魔王にとって今のシャーロットは自分の邪魔をする敵だからな。

 彼女も色々思うところがあるのだろう。

 それでもシャーロットは平和な世界の為に俺達と一緒に戦うと言ってくれたんだからありがたい。


「…シャーロットは正直なところ、どれぐらいの確率で魔王を説得できると思ってるの?」


「……」


 シャーロットはジブリエルを一瞥して黙る。


「正直な話をすると、私が魔王様を説得できるとは思ってないの。わざわざ自分の復活を止めるとも思えないしね」

「でも、だからって説得しないなんて、私にはできないわ」


「…そうね」


 力強く言うシャーロットにジブリエルは首を縦振った。

 すると、


「見えてきた」


 先頭を歩くイリーナが言う。

 遂にか。


「行きましょう」


「「「うん」」」


 それから俺達は警戒しながら村の中を歩く。

 村には素朴な巨人族用の家が立ち並ぶ。

 素材は全て木でできており、どの家も同じような見た目だ。

 これだと自分の家がどれか分からなくなりそうだが、自分の家ぐらいは流石に分かるか。


「ここら辺には誰もいないみたいね」


 ジブリエルが言う。


「もしかしたら、村長の家の方へ集まっているのかも。あっちの方には負傷した戦士を見る為の場所もある」


「ならそっちに向かいましょう」


「ああ」


 ということで村の中を少し歩くと、


「だんだん人の声が増えてきたわ」


「どうやらこっちに固まってるみたいね」


 すると、


「見えた。どうやら武器の手入れをしているみたいだ。よかった、間に合った」


 イリーナが安堵からか微笑む。


「まずは情報収集ですね」


「うん」


「何か魔王に関する情報なんかがあればいいんだけどな」


「まずは村長に話を聞きましょう」


 それから俺達は目線の圧を受けながら村長の家へと向かった。

 その道中、イリーナに気が付いた巨人族が何人か近付いてきたが、簡単に事情を説明して先を急いだ。

 その際見た男の巨人族はイリーナ達よりも少し背が高く、どうやら女性よりも男性の方が大きいみたいだった。


「ここだ」


 そう言って案内されたのはこの村で唯一他の家とは違う建物。

 大きな平屋で、もしこれが人族の家だったら一体何人分が住めるだろうと考えるぐらいには広い。

 そして、玄関の扉の少し上の所。

 ここに何かの頭骸骨が飾ってある。

 これが村長の家の目印みたいな物なのかもしれない。


「失礼します。イリーナです。話したいことがあります」


 イリーナがそう言うと扉の奥の方から、


「ふむ。何かの用で戻ったようだな。入れ」


「みんなも入ってくれ」


 俺達はイリーナにそう言われて中に入ることに。


「よくぞ戻った。して、何かあったのか?」


 中に入るとそこには立派な白の髭を持つ男の巨人がいた。

 顔に皺があったり、髪も白髪ということを考えるとそれなりに歳をとっているのだろう。

 村長と呼ばれているしな。


「私が戻ったのはこの者達を案内する為です」


「ふむ。エルフにオーガに獣人族……そなた達はどういった集まりだ?」


 俺達を見た村長が髭を触りながら言う。


「私達は魔王復活を防ぐ為にここまで旅をしてきたんです」


「ほう。魔王を」


「今の状況を教えてもらえませんか? わたくし達も力になりたいのです」


「ふむ…そうじゃな。今の状況は芳しくない。我々戦士の半分以上は何かしらの怪我をしている。軽傷な者もおるが、多くはしばらく戦えぬ重傷な者だ」


「そんな…」


 イリーナが動揺する。


「そして、死者も決して少なくない。前の戦いで多くの戦士がその命を落とした」


 そう語る村長の声音は悲しく、とても暗い感じがした。


「もし、もう一度あの魔王が攻めてきた時、我々の被害は今まで以上になるだろう。だが、我々は戦士だ。過去の約束を、我々の使命を忘れてはならぬ」


 使命。

 自分達の命を懸けてまで守らなければならない使命。

 それはきっと戦士として大切なものなのだろう。


「そなた達に死ぬまで戦えとは言わぬ。だが、生半可な気持ちでは無駄死にするだけじゃ。そなた達には覚悟があるのか? 死ぬかもしれぬ恐怖を乗り越えてもやり遂げようとする覚悟が」


 村長の言葉はとても重い。

 しかし、このぐらいの覚悟がないと魔王と戦うことは到底できないということだろう。

 俺達は今、試されてるのかもしれない。

 だったら、


「俺達は魔王復活を阻止する為にここまできた。放っておけば多くの人の命が失われることになる。そんなことはさせない! 絶対に止める!」


 俺は村長の目を真っ直ぐ見てそう言った。

 すると、


「そうか……そこまで言うならば付いてこい。見せたいものがある」


「見せたいもの?」


「土のルーンじゃ。そなた達にはそこの守備を任せたい」


「ルーン…」


 俺達は顔を合わせた。




 それから俺達はイリーナも一緒に村長の後に付いて歩いていた。


「途中、少し寄るところがある」


「寄るところ?」


「あやつの力を借りねばならんとはな…まいったもんじゃ」


「それって一体誰だ?」


「名はガルガン。今は反省の意味を込めて牢屋に入れておる」


「牢屋?」


 おいおい、そんな奴の力を借りるって大丈夫なのか?


「そのガルガンという方は何をして牢屋に入れられているんですか?」


 ユリアが聞くと村長は一瞥して、


「あやつは我々の使命を否定したんじゃ」


「否定?」


「簡単に言えば、命か使命かという話じゃ。我々戦士は使命を第一に考える。しかし、あやつは使命は二の次などと吐かした。だから牢屋に入れ、頭を冷やさせとるんじゃ」


 前にもジブリエルが似たような選択をしたと言っていた。

 命をとるか、ルーンをとるか。

 この究極の選択に答えはないと思ってる。

 でも、巨人族にとってはそれはルーンだった。

 自分達の使命だから。

 ジブリエルは命で、巨人族はルーン。

 命かルーンか。

 この問題はいつも難しい。


「その檻に入れられてるガルガンは戦ってくれるの? 聞いてた感じあんまり仲がよくなさそうだけど…」


「戦わなければ死ぬだけじゃ」


「…扱いが酷いわね…」


 ジブリエルはマジか…みたいな顔をした。


「ガルガンならきっと一緒に戦ってくれる」


 と、イリーナは言った。


「イリーナはガルガンのことを知ってるの?」


 シャーロットが聞く。


「勿論。私とガルガンは大体同い年だからな」


「ふ〜ん」


「ガルガンは強いんだ。村の中だと一番だしな」


「へえ」


 どんなやつなんだろうか。


「そりゃ、わしの孫だからのう」


 てことは祖父と孫の喧嘩ってことか。


「さあ、もうすぐじゃ」


 そう言われてすぐに着いたのは地下へと続く階段。

 ここを降りた先に檻があるのだろうか。


「それじゃあ、行くぞ」


「そうしたいんだけど…」


 階段が巨人族用の大きさなので俺達が下へ向かおうとするとそれなりの障害になる。

 と、そんな俺達の様子を見たイリーナが、


「私が連れて行くよ。さあ、乗って」


 俺達はイリーナの兜で再び運ばれた。


 階段は地面を掘り、それを土魔法か何かでしっかりと固めるという作りみたいだ。

 等間隔で蝋燭が灯されており、暗いここを照らしている。


 それなりに下へ降りるとやっと階段が終わった。


「ガルガンの様子はどうだ?」


 村長が見張りであろう巨人族へ話し掛ける。


「……なんとも言えない感じですね」


「そうか」


 と、それだけ会話を交わして歩き出した。


 それから巨人族用の大きな檻を五つ通り越した時、村長は足を止めた。


「ここだ」


 止まったのは巨人族用の大きな檻。

 今までの五つの檻となんら変わりはない。

 しかし、大きく違うことがある。

 檻の中心。

 そこにもう一つ、そこそこ大きめの檻がポツンと置かれているのだ。


「ガルガン。お前の力が必要だ」


「……」


 檻の中にいる男は何も言わない。


「お前を檻から出す。その代わり、今この村を襲っている魔王と戦ってもらう」


「魔王…」


 少し困惑したような声音で聞くガルガン。


「既に多くの戦士が死んだ。魔王はルーンを壊し、自らを完全に復活する為にまたここにやってくるだろう」


「……」


「わしらは約束を守る為に戦う。それが使命だ。だが、お前はわしらとは違う考えだろう。しかし、この村を、人の命を守りたいと思うのであれば、ガルガン。力を貸してくれ」


 村長の言葉は今までの声音とは少し違い、優しい感じがした。

 すると、


「…ったく…仕方ねぇな……」


 そんな声が聞こえた。

 そして、次の瞬間、カンッという鉄が打つかった音がしたかと思うと檻の中の檻からガルガンが出てきた。

 見ると檻は変形している。


「この借りはデカいぞ? ジジイ」


 巨人族用の檻をすり抜けて出てきたのは身長四メートルぐらいの男だった。

見てくれてありがとうございます。

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