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第九十三話 不安と勇気

 俺達は現在、巨人族の村へと向かっている。

 それも物凄いスピードで。

 というのも俺達をイリーナが兜で持って運んでくれているのだ。


 彼女の兜は鉄で出来ていて丈夫だ、

 しかも俺達をそのまま手に持つよりも力加減を気にしなくていいから気が散らなくていいんだそうだ。

 しかし、問題点があった。


「思った以上に揺れる上に外も見えないからどのぐらい移動したとかも分からないわね」


 夜になったので休む為に地面へ降りて焚き火を囲んで休憩しているとシャーロットがそんなことを言う。


「でも、あれじゃないと途中で落ちちゃう可能性もあるし…」


「今は早く巨人族の村に着くのが目的なんだから我慢するしかないわ」


「それに彼女と移動することで戦闘もしなくていいのですから我慢です」


「……そうだけどさ…」


 シャーロットがみんなに言われて若干不貞腐れている。


「みんな待たせたな」


 足音と共に声が聞こえた。

 イリーナだ。

 彼女は兜を脱ぐと、手に持っていた大きい動物を焚き火の近くに置いた。


「今日はこいつの丸焼きにでもしようかと思ってな」


 俺はその丸焼きされるやつに目をやる。

 体がかなり大きいがどうやら豚の仲間のようなだ。


「ご飯まで用意してもらってすみません」


「いいんだ。どうせ私からしたら君達の食べるご飯の量なんてたかが知れてるからな」


 そう言って持っていた動物を木と縄を使って手際良く結んでいく。

 彼女は日頃からやっているのだろう。

 少しの迷いもない。


「よし。あとは適当に支柱でも立てて焼こう」


 と、それから肉が焼けるまで時間があるので適当に雑談でもすることに。


「私が生まれて二百年ぐらい経つがまさかこんなことになるとは思わなかった」


 イリーナの髪色と同じ水色の瞳は揺れる焚き火を見つめる。

 いきなりのことだったから心の整理が追いつかないのかも知れない。

 俺は彼女の様子を見てそう思った。


「そうね…誰もこうなるなんて予想できなかったと思う」


「そもそも魔王復活が唐突でしたからね」


「そうだな」


 俺が目を覚ましたのも突然だった。

 人生何があるか分からないとはよく言ったものだ。

 本当にどうなるかなんて分からない。


「だったら、今のうちに魔王と戦う時のことを考えておかないとね。ここから先はいつ魔王と戦うことになっても不思議じゃないんだし」


「魔王……」


 ユリアの拳に力が入る。

 彼女の故郷は魔王によって滅ぼされたからな。


「ユリアさん…」


 ユリアの様子に気が付いたヒカリが優しく彼女の拳を手で包む。

 すると、彼女はそれに気づいて力を抜いた。


「ありがとう」


「いえ」


「今のうちに私が知っている魔王…の情報を伝えるわ」


 みんながシャーロットに注目する。


「の、前にイリーナには私のことを説明しないといけないわね」


「…? 何かあるのか?」


 イリーナが不思議そうにシャーロットを見る。


「実は私は魔人なの」


「魔人だと?!」


 イリーナは驚き立ち上がる。

 少し危険な香りがする。

 が、


「待って! 私は魔王を阻止する為に旅をしているの。それをみんなは知っている」


「……」


 イリーナが無言でこちらに視線を向けてきたので俺達は首を縦に振った。


「今の平和な世界の為に私はここまで旅をしてきた。だから、お願い。私を信じて欲しい!」


 シャーロットはまっすぐイリーナのことを見て言う。

 すると、その思いが伝わったのか、


「…分かった。一度信じたんだ。あなたを信じることに決めたよ、シャーロット」


「ありがとう」


「それで魔王について何か知っているのか?」


「そうね。私の情報をみんなにも教えるわ」

「私が知っている魔王様は杖を持っていて、魔法をよく使っていたわ。でも、ユリアやジブリエルの話を聞く感じ、今は剣を持って接近戦を仕掛けてくるみたい」


「……どうしてそのような違いが?」


 ヒルダが尋ねる。


「それは分からないわ。剣を使っても魔法は使えるみたいだから何か制限があるのか…とにかく今は剣を持っていて、接近戦を仕掛けてくると考えていいと思う」


「接近戦か…そうなるとヒルダとソラに頑張ってもらわないといけないわね」


「うん」


「任せてください。剣士との戦いは慣れていますから」


「それは頼りになるな」


「多分、魔王様は魔法で様子を見ながら状況やこっちの動き方を見てくる筈よ。何かされる前に止めるのが一番なんだけど…そうね……」


 それから肉が焼けるまでの時間、俺達の作戦会議は続いた。




 肉を全員で分けて一緒に食べた後、俺達は静かな森の中で横になっていた。


「ねえ、ソラ…起きてる?」


「起きてるよ」


 俺の隣で寝ていたユリアが話し掛けてきた。

 俺は横になりながらユリアの方へ顔を向ける。


「少し不安になっちゃって」


「そうか」


 一度は逃げ出した魔王とまた会うんだから不安にもなるだろう。

 もし俺がユリアの立場だったとしても同じように不安になっていると思う。

 だから、俺はそんなユリアの支えになってあげたい。

 そう思った。


「ソラは不安じゃないの?」


「ん〜…」


 そう言われて、今までそんなに不安を感じていなかったことに気が付いた。

 なんでだろう。

 俺が魔王に直接会ったことがないからだろうか。

 それとも単純に俺が不安を感じないからとか?

 いや、俺だって不安に思うことはある。

 もし、ユリアが居なくってしまったらとかそんなことを思うと不安に思う。


 じゃあ、どうして俺は不安に思っていないんだろう。

 そう思ってた言葉に詰まった。


「私は色んなこと考えちゃって…間に合わなかったらどうしようとか、突然襲われたらどうしようとか、この戦いで死んじゃったらどうしよう…とかね」


「……」


 そう言われて俺は自分の心臓がキュッと握りつぶされるような感覚を覚えた。

 ユリアが死ぬ…そう考えたら途端に不安になった。


「でもね、不安に思うことだけじゃないの」


「……」


 俺はその先の言葉が気になった。

 それは俺にとっても大事な言葉だと思ったからだ。


「私はみんながいるから。シャーロットにジブリエル、ヒルダにヒカリちゃん、そして、ソラ。私には仲間がいるから安心できる」

「自分が苦手な部分は誰かが助けてくれて、逆にみんなが苦手な部分は私が助けてあげる。そうやって助け合っていけるって」


「…そうだな」


 俺達は仲間だ。

 ユリアに言われて俺は思った。

 俺が不安を感じていないのは仲間がいるからだと。


「これから何があるか分からないけど、みんなで助け合えば必ずなんとかなる。私はそう信じてる。でも、ほんの少しだけ、不安なの」


「そうか」


「だから…その…少しだけソラに勇気を分けて欲しいなって…思って…」


 そう言うユリアは少し恥ずかしそうだった。

 だが、俺はそんな彼女のことが好きだ。

 改めてそう思った。

 俺が彼女の背中を少し押してあげられるのなら…、


「ユリアのことは俺が絶対守る。だから心配しなくても大丈夫だよ」


 俺はユリアにそう言った。

 すると、


「うん…ありがとう」


 ユリアはそう言って優しく微笑んだ。

見てくれてありがとうございます。

気軽に感想や評価、ブックマーク等をして下さい。嬉しいので。

今週は連休があるので金、土、日、月曜日の四話投稿予定です。

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