第九十一話 エクスドット大陸
船に揺られて三日目の朝。
俺達はもう少しでエクスドット大陸に到着するというところまで来ていた。
「昨日は迷惑を掛けて申し訳ありません」
海を見てぼうっとしているとヒルダが俺の隣に来てそう言った。
昨日は本当に大変だった。
ヒルダが俺のベッドで寝ていたから問題になり、シャーロットが俺を問い詰め、ユリアには誤解され、ヒカリには困った顔をされ、ジブリエルには笑われた。
当の本人は眠っていて何も言ってくれないし。
結局、ヒルダが起きるまで身動きもとれないからその間ずっと抱き締められて気まずい時間を過ごした。
「まあ、今度から気を付けてくれたらいいよ」
「はい…」
ヒルダは反省しているのか少し落ち込んでいるように見える。
「ユリアさんに船旅は厳しそうですね…」
「うん…」
ヒルダと話していると、そんな会話が聞こえてきた。
「あっ…」
ユリアは俺に気が付くとスッと視線を逸らした。
ちくしょう! どうしてこうなった?!
「…二人一緒で何か話してたんですか?」
ユリアの様子を見たヒカリが話し掛けてくる。
彼女も随分と会話するようになったと思う。
この間までの無言だったヒカリがまるで嘘のようだ。
「ああ…その…昨日のことをな…」
「ふ〜ん。そうですか」
「今回のことはわたくしが悪いですから…あまりソラを責めないであげてください」
「…分かってますよ。ね? ユリアさん?」
ヒカリはそう言ってユリアの方を見る。
「……うん」
ユリアはそう言って首を縦に振った。
俺が悪いことをした訳ではない筈なのにどうしてこう胸が痛いのだろう。
「あら? みんな揃ってたの?」
と、声が聞こえた。
見ると、ジブリエルとシャーロットがいた。
「また変なことしてたんじゃないでしょうね?」
シャーロットが言ってくる。
「んな訳ないだろ? ていうか、またってなんだよ。またって」
俺がそう言うとシャーロットはそっぽを向き、
「いくらあんたから何もしてないからってあんなにべったりするなんてね」
「いや……」
ヒルダの力が強くて抜けれなかったんだから仕方がないだろう?
どうしろって言うんだよ…。
「うう…どうしてあんなことを……」
ヒルダは赤面してその場に屈んでしまった。
なんかいつかヒルダは寝相で失敗しそうだな。
「まあ、まあ、ヒルダもこうやって赤面して反省してるんだし、シャーロットもいつまでも嫉妬してないで許してあげなさいよ」
「ち、違うわ!? 嫉妬なんてしてないし。変なこと言わないでよね?!」
「はいはい。冗談よ、冗談」
ジブリエルはとても満足そうな顔だ。
と、その時、
「見えたぞ〜!」
「「「!?」」」
俺達は一斉に声の聞こえた方を見た。
今見えたと言ったか?
つまり、
「遂に着いたのね」
俺達はエクスドット大陸に無事着いた。
それから俺達は桟橋に足を着いた。
「やっと終わった……」
ユリアが疲れ切った顔で言う。
「お疲れ様です」
そんなユリアにヒカリが労いの言葉を掛けた。
「さて、早速だけどここで情報を集めましょう。魔王様がこの大陸に来ているなら何か情報があるかもしれないわ」
「そうだな」
「じゃあ、行きましょうか」
「ええ」
ということで俺達は着いて早々冒険者ギルドへ向かうことにした。
ここはリヴァームという港町でエクスドット大陸の最西端に位置する町なんだとか。
基本的にはウエストポートと似たような町の作りになっており、水夫をよく見掛ける。
ウエストポートとの違いを敢えて挙げるなら向こう側にそれはそれは大きな岩がまるで何かが突き抜けたようにぽっかりと穴をあけ、それが三つも並んでいる。
なかなか見ない形なので少し面白い。
「それじゃあ、魔王様の情報がないか二手に分かれて調べましょう」
冒険者ギルドに着いた俺達は効率よく情報を集める為、ギルド関係者に聞く者とギルドに居た冒険者に情報を聞く者とで分かれることにした。
「何か情報があるといいけど」
「もし、ここに魔王が来てなかったとしても巨人族の元へは行くんだよな?」
「うん。そのつもり」
陸に上がって体調がよくなったユリアが言う。
「わたくしもその方がいいと思います。今から他の種族の元へ向かっても間に合わないでしょうし」
「…とにかく今できることをしましょう」
「ああ」
それから冒険者ギルドの中に入った俺達は二手に分かれて情報収集をして。
俺はユリアとヒルダとヒカリでギルド関係者に話を聞き、ジブリエルとシャーロットは冒険者へ聞き込みをした。
少し時間が経って情報収集を終えた。
結果から言うと魔王に関して有益な情報は手に入れられなかった。
「どうだ? 何か分かったか?」
冒険者へ聞き込みをしていたジブリエル達へ話し掛ける。
「魔王に関しての情報はこれってのはないわね」
「そうか…」
だとすると、魔王はこの大陸には来ていない可能性が高いかもな。
「でも、巨人族について少し情報があったわ」
「巨人族の?」
「ここから大陸の中心に向かったところに大きな山があるんですって。その山の東側に巨人族の集落があるみたい」
「へえ」
これで巨人族が住んでいる場所は分かったな。
「でも、その山があまりにも大きいから結構迂回しないといけないみたい」
「フロストスパイアですね。近くまで行ったことがあります」
「フロストスパイア?」
ユリアが聞く。
「山の上半分ぐらいが雪で覆われているとにかく大きな山です。頂上に登った者はいないとまで言われています」
「へえ…」
「私、巨人族の集落は行ったことがないから感で向かうことになるわ。少し時間が掛かるかも」
と、シャーロットが言う。
「まあ、仕方ないだろう。できるだけ早く着けるようにするだけだ」
と、その時、
「なんの音ですか?」
「ん?」
ヒカリが耳を立てながらそう言う。
俺には何も聞こえないがヒルダも音には気が付いてるみたいだ。
「これは…巨人族の足音…?」
「巨人族?」
もしかしてこの町に来てるのか?
「探してみましょう」
「おお」
ということで、俺達はまず冒険者ギルドから出た。
すると、
「巨人族がここまでくるなんて珍しいの〜」
「いつぶりかね〜」
老夫婦が同じ方向を見てそんな会話をしていた。
俺は目線の先が気になり老夫婦と同じ方向を見る。
すると、
「「「!!!」」」
俺の視界には町の外れの方なのにも関わらずここからでも分かる程大きな女性が三人、武装した姿で立っていた。
「気になるわね、行きましょう!」
そう言ってシャーロットは走り出した。
「ああ…! ちょっと、シャーロット!」
「わたくし達も行きましょう」
「ああ」
こうして俺達は巨人族の元へと向かうことになった。
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今週は連休があるので金、土、日、月曜日の四話投稿予定です。




