第九十話 船旅
イーストポートを出発した俺達は帆船の上にいた。
エクスドット大陸に着くまで大体二日ぐらい掛かるらしい。
思ったより早い。
この理由は単純でシレジット大陸とエクスドット大陸の距離が近いかららしい。
「こうやって海の上を船で進むのは気持ちいいわね〜」
シャーロットが潮風を感じながら言う。
「日も照って気持ちがいいわ〜」
ジブリエルがそう言いながら体を伸ばす。
「そうですね」
ヒルダはそんな二人の様子を見ながら微笑んでいた。
まるで子供を見守る母のようだ。
「それにしても、ユリア大丈夫かしら?」
「大丈夫じゃないんじゃない?」
ジブリエルとシャーロットがこんなことを言う理由。
それは至って単純で、船酔いだ。
ユリアの船酔いが思ってより酷くて今は部屋で横になっている。
その様子を見る為にヒカリにはすぐ側に居てもらっている。
「あんなに船酔いに苦しむなんて思いませんでした」
「それは俺もだ」
もしかしたらエルフの方角が分かる種族の特性が理由かもしれない。
本当のところは分からないけどな。
「ユリアさん、大丈夫ですか?」
と、ヒカリの声が聞こえた。
俺はその方向に視線を向けるとヒカリに支えられながら歩くユリアの姿があった。
「出てきて大丈夫なの?」
シャーロットが心配そうに聞く。
ユリアの顔色はお世辞にも良いとは言えない。
「少し外の空気でも吸って気分転換でもしようかと思って」
「あんまり無理したらダメよ?」
「うん…」
「もしダメそうだったら言ってください。わたくしがベッドまで連れて行きます」
「ヒルダ、ありがとうね」
そう言って船の手摺りに手を置いて遠くを見る。
俺は先日の浜辺でのユリアを思い出した。
綺麗だったな…。
「エクスドット大陸までは後一日ぐらいですか?」
ヒカリが聞く。
「そうですね。丸一日は掛かるでしょうね」
「そうですか…それは大変そうですね…」
ヒカリはユリアを見ながら言う。
「そういえば、エクスドット大陸ってどんな場所なんだ?」
俺は気になり聞いてみる。
丁度みんないるしな。
「そうですね……エクスドット大陸はあの巨人族〈ギガンテス〉がいる大陸です。勿論、人族や他の種族も住んではいますが、やはりエクスドット大陸といえば巨人族の大陸というのがみんなの常識でしょう」
「他にはエクスドットにあるものは基本的に全てが大きいですかね」
「大きい?」
「はい。草、花、虫、木など全てが大きいです。何故かは分かりませんが巨人族も大きいですし、例外は魔物ぐらいですかね」
「へえ〜」
どんな大陸なのか気になるな。
でも、どうして魔物は例外なんだ?
「魔物は小さいのか?」
俺は気になり聞いてみた。
「ええ。これもどうしてか分かりませんが、もしかしたら魔物の魔石が関係しているかもしれません」
「魔石が?」
「魔石はその魔物によって大体大きさが決まっています。それによって体の大きさが制限されているのではないかと」
「ふむ」
確かにその可能性はありそうだな。
「なので、エクスドット大陸では魔物より昆虫の方が厄介ですね」
「そうなのか」
今まで昆虫とは戦ったことないが大丈夫だろうか。
「昆虫は火に弱いからそれを頭に入れておくといいわ」
「へえ〜」
「シャーロットはエクスドットに行ったことあるんだっけ?」
「ええ。一応、どの大陸にも行ったことはあるわ」
シャーロットは二千年もの間生きてきたんだし、そら一度ぐらいはあるか。
「隅々って訳にはいかないけどね。それに、前に行った場所が変わって別の場所みたいになってるなんてこともよくあるから、そう考えると行ったことあるって言うのもどうなんだろうって感じだけど」
「へえ〜」
ジブリエルが関心したような反応をする。
「長寿なシャーロットならではの話ですね」
「そうだな」
こんな話をしてエクスドット大陸までの海路を楽しんだ。
この日の晩。
少し問題が起きた。
船が大きく揺れ始めたのだ。
外が少し騒がしくなる。
「ん……何かあったのか……」
俺は気になり部屋を出てみることにした。
俺達の部屋は二段ベッドが三つある六人用の部屋。
本来は知らない人と相部屋になるみたいだが、俺達が丁度六人ということもありみんな同じ部屋で寝られることになった。
俺はみんなを起こさないように慎重に扉を開けた。
そして、歩いて外の様子を見ようとまた扉を開けた。
すると、外は妙に暖かかった。
しかもそれだけじゃない。
大量の雨と強風で昼の穏やかな海の様子は消えていた。
「帆を畳め〜!!! 嵐だ〜!!!」
「嵐…」
俺はその言葉を聞いて不安になった。
無事にエクスドット大陸まで辿り着けるんだろうか。
そう思いながら様子を見ていると、
「しっかり縛っておけよ! じゃないと持っていかれるからな!」
「「「へい!」」」
船員達が手際良く働いている。
どうやら彼らは初めてではないらしい。
そりゃそうか。
今は彼らに任せるしかない。
と、その時、
「クオオオオオオン!!!」
何かの鳴き声が聞こえた。
「なんだ?!」
戻ろうとしていた俺は気になり外へ出ることにした。
「…………」
が、しかし、外に出てあの声の主を探しても周りには何もいない。
気の所為だったのか?
「おい、お客さん! 今外は危ねぇから中にいな!」
船長にそう言われて俺は仕方なく部屋に戻ることにした。
一体、あの声はなんだったんだ?
そう思いながら部屋へと戻ると、
「うう……」
揺れが大きくなったからかユリアがうなされていた。
大丈夫だろうか?
少し心配だが嵐だから我慢するしかない。
ユリア、頑張れ。
そう思って今日はもう寝ようと自分のベッドに入ろうとしたのだが、
「嵐か……」
「おおっ…」
俺の隣のベッドで寝ていたヒルダが起き上がって言ったのだ。
口調からして眠い時のヒルダだ。
「起きてたのか?」
俺はみんなを起こさないように小さな声で話す。
「たまたま起きただけだ。トイレ…」
そう言って刀を持って部屋を出て行った。
どんなに寝ぼけていても刀を持っていくのは習慣なんだろうな。
そんなことを考えて俺は眠りに就いた。
次の日の朝。
俺は大きな声で目が覚めた。
何かあったのか?!
そう思って体を起こそうとして、しかし、異変に気が付いた。
俺の視界が白い何かで満たされていたのだ。
「んっ?!」
俺は状況を確認する為に体を起こす。
しかし、物凄い力で拘束されている為上手く動かすことができない。
この力と白い…これは肌か? …もしかして、ヒルダか?
どうやらヒルダが寝ぼけて俺のベッドで寝たらしい。
「な、何やってんのよ!」
シャーロットの声が聞こえる。
どうやらさっきの声も彼女だったみたいだ。
なんか前にもクライシス神聖国で似たようなことがあったような気がする。
しかし、あの時とは状況が違う。
「これは俺の所為じゃない! ヒルダが寝ぼけて…」
なんとかしようとそう言うが、
「そんな言い訳が通用する訳ないでしょ?! この変態!!!」
ダメだった。
でも、んなこと言われても本当に俺の所為じゃないんだよ。
「いつまでそうしてるのよ!」
俺はそう言われてヒルダから離れようと力を入れる。
しかし、さっきからヒルダの抱き締める力が強すぎて離れる気がしない。
ていうか、よく見るとヒルダの胸が近過ぎる。
なんだかいい匂いもするし……。
と、その時、
「ん……なんだ…騒がしいな…」
そう言いながらヒルダが目を開けた。
「あっ…おはよう…」
俺は嫌な予感がしたが一応、朝の挨拶をする。
すると、
「ああ…おはよう……おやすみ……」
「痛ででででで」
再び寝ようとするヒルダの力が強くなった。
「なんでまた抱き合ってるのよ?!」
「お前は…これが抱き合ってるように見えるのか…!」
それから俺がヒルダの腕から逃げ出せたのは三十分ほど後のことだった。
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今週は連休があるので金、土、日、月曜日の四話投稿予定です。




