表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
89/153

第八十五話 ドラゴンたらし

 クライシス神聖国を出発してから十日程が経過した。

 俺達は今、ドラグナーという街の近くまで来ていた。


「ドラグナーに着いたら馬車を乗り換えてイーストポートという街まで移動します」


 ヒルダが言う。

 イーストポートというのはこの中央大陸で一番東に存在するシレジット大陸とエクスドット大陸を結ぶ港がある町らしい。


「その後は船でエクスドット大陸に渡航し、そこからは歩きか馬車で巨人族が守る土のルーンが守られている場所まで移動する予定です」


「分かった」


 俺が聞いたことにヒルダは答えてくれた。

 次の目的地であるドラグナーに近付いてきたから聞いてみたのだが、船で海を渡るらしい。

 確か海には強い魔物がいるみたいな話を聞いた気がするがそこら辺は大丈夫なんだろうか。

 襲われたりしそうだが…。

 それと俺は機械だから大丈夫だと思うが船酔いというものがあるらしいから少し心配だ。


「海か……」


 ジブリエルが言う。


「そういえば、ジブリエルは船に乗ったことはあるんですか?」


「いいえ、ないわ。だから少し楽しみなのよね」


 ジブリエルはずっと妖精族の村に居たみたいだからな。

 船に乗ったことがないのも無理はない。

 まあ、俺も船には乗ったことがないんだが…。


「私も無いから少し不安なんだよね…」


 と、ユリアが言う。

 彼女もエルフの村から出たことはほとんどないみたいだしな。


「海の上にいるってどんな感じなのかしら」


「ん〜〜」


「ずっと揺られてるから人によってはずっと酔って最悪な旅になるみたいよ。私は大丈夫だったけど」


 と、シャーロットが言う。

 すると、


「最悪な旅か……」


「……」


 ジブリエルとユリアは少し不安そうな顔をする。

 と、ヒルダが、


「わたくしも何度か乗ったことがありますが、人によってまちまちなので実際に船に乗ってみるまでは分かりませんね」


 安心させたいから言ったのか分からないが、ほぼ逆効果の言葉を言う。

 すると、ジブリエルとユリアはなんともいえない表情をしていた。


「ま、まあ、まだ少し先の話だからその時になったら覚悟しよう」


 と、俺が下手くそな言葉でこの場をなんとかしようと言う。

 と、その時、


「グギャアアアア!!!」


 何者かの咆哮が聞こえた。


「「「ヒヒィイイ〜〜ン!」」」


 それと同時に馬が一斉に鳴いた。

 何かが周りいる。

 それだけはすぐに分かった。


「お客さん、これはドラゴンの鳴き声です。もしかしたら、急いでここから逃げることになるかもしれません。覚悟だけはしておいてください」


 御者がそう言った。

 が、しかし、


「大丈夫です。わたくしがドラゴンを撃退しますよ」


 ヒルダが自信満々に言った。


「いや…でも、相手はドラゴンですし…」


 ヒルダの実力を知らない御者は言う。

 が、正直言って俺達はヒルダが居ればドラゴンの一匹や二匹ぐらいどうとでもなることを知っている。

 だからだろうか。

 俺達の中で取り乱すやつはいない。


「任せてください」


 ヒルダはそう言うと馬車を降りて外に出た。

 俺達も念の為それに続く。


「ん……敵は……三体ですかね」


 ヒルダが目を瞑りながらそう言う。

 どういう原理かは分からないが近くにいるドラゴンの数は分かるらしい。

 これなら不意打ちされることはまず無いだろう。


「クソ…! どうしてこんなことになるんだよ!!!」


 近くの馬車から降りてきたやつがそんなことを言う。

 普通はこんな感じの反応をするのだろう。


 と、その時、


「こっちに来ますね」


 ヒルダがそう言った瞬間、近くで大きな音がした。

 どうやらドラゴンが近くで暴れているらしい。


 次の瞬間、


「「グギャアアアア!!!」」


 俺達の前に二体の赤竜が現れた。

 どうやら喧嘩をしているらしい。


「わたくしが斬ります」


 そう言って刀を抜くヒルダ。

 すると、その時、空から白い龍がヒルダと赤竜との間に舞い降りた。


「あれは白龍!?」


 シャーロットが言う。


「白龍?」


 どういうドラゴンなんだろうか。

 白龍という名前は見た目からとって付けられた名前だと思うが…、


 と、そんなことを考えていると、


「そこのお嬢さん、少し待ってくれ!」


「…?」


 その声は舞い降りた白い龍から聞こえてきた。

 もしかして白龍は話すことができるのか?!


 と、そう思っていたのだが、白龍から一人の人間が地面へ飛び降りた。

 その者は白銀の鎧を身に付け、手には銀の槍を持っていた。


「ここは俺がなんとかするから少し待ってくれ」


 さっきと同じ男の声で言って赤竜の方へ歩いていく。


「あれ大丈夫なの?」


 ジブリエルが言う。


「でも本人がなんとかするって言ってたし……ていうか…」


 そう言ってシャーロットは白龍の方を見る。

 白い鱗に覆われて、俺達の何倍も大きい。

 そんな白龍はじっとしていて動かない。

 あの謎の男も乗せていたし、どうなってるんだ?


「お〜〜〜い!!!」


 男が大きな声で赤竜二体に声を掛ける。

 と、喧嘩をしていた赤竜達はそれを止めて男の方をばっと見た。


「ここは人の迷惑になるから喧嘩は止めてくれ〜!」


 男がそう言う。

 しかし、赤龍達が俺達の言うことを聞いてくれるとは思えない。

 一体何をしようとしてるんだ?

 ヒルダも心配なのか一応刀を構えている。


「ふ〜ん」


 何がふ〜ん、なのか分からないがジブリエルは何かを知ったらしい。


 と、その時、赤竜達は体を男に向き直して胸を張る。

 これはブレスを放つ時の姿勢だ。


「おい!!!」


 俺は声を掛ける。

 が、男は何も言わずにただ片手を挙げて何もするなと指示する。

 本当に大丈夫なんだろうな…。


 俺は不安になってジブリエルの方を見るが特に何かするような仕草もない。

 そして、次の瞬間、


「「グアア〜……」」


 男の前に赤竜達が頭を近付けた。

 ただそれだけ。

 赤龍達は火炎のブレスを放つわけでもなく、噛み付くわけでもなく、ただただ頭を近付けたのだ。


「「「???」」」


 俺達はジブリエルを除いて全員が困惑した表情をしていたと思う。

 ヒルダに至っては全身に紫電を纏わせながらだ。


「お前達も色々あったんだろう? ごめんな〜」


 男はそう言いながら赤竜達の頭を優しく撫でる。


 どういうこと?


「君達も怖い思いをさせてしまって悪かったね」


 男は俺達に言ってくる。


「あ…いえ…」


「細かいことは馬車に乗りながら話そうか。お前達は行っていいぞ。あんまり暴れるなよ?」


 そう言うと赤龍達はどこかへ飛び立って行った。


「さてと。ライナー! お前は先に戻っていいぞ!」


「グギャアア!!!」


 白龍は返事をすると一人で飛び立って行った。


「悪いな、待たせて。俺はカイザー。ミアール・カイザーだ。よろしく頼むよ」


 そう言って銀色の兜を脱いだ男は長い金髪を後ろで纏めているイケメンの男だった。




 それから俺達は馬車に揺られてドラグナーへと向かっている。

 勿論、カイザーも一緒だ。


「俺はこの先のドラグナーの領主の息子でな。最近、この辺りでドラゴンがよく目撃されてるって聞いてたから警戒してたんだ。そしたら、案の定だ」


「領主の息子だったのね」


「助かったわ」


「あの白龍や赤竜はどうしてあなたを攻撃しなかったんですか?」


 ヒルダが聞く。

 それは俺も気になっていた。


「ん? ああ、そうだな。不思議に思うのも当然か。俺はどうやらドラゴンに好かれる体質らしくてな。よっぽど気が立ったドラゴンじゃなければ基本的に俺の言うことを聞いてくれるんだよ」


「そんなことが…」


「聞いたことないわね」


「そうね」


「俺も自分以外で聞いたことないから、もしかしたら世界で一人だけの特別な能力かもしれないって思ってるんだ」


 世界で一人だけの能力か…ドラゴンと仲良くできるってのはなかなかに魅力的だ。


「そこでだ」


 と、カイザーは更に続ける。


「そんな俺と一緒にお茶でもしてくれるという心の優しいお嬢さんはこの中に居ませんか?」


 これってアレだよな。ナンパだよな。

 身長はヒルダ程ではないがそこそこ高く、顔立ちも良くて、領主の息子で、おまけにドラゴンが付いてくる。

 まずいかもしれない。

 俗に言う良物件という奴じゃないか?

 このままだとユリアが……。


 そう思ってユリアの方に目をやる。

 すると、


「ごめんなさい」


「お誘いは嬉しいのですが、これからの予定もありますので」


「なかなか見る目はあるようだけどごめんなさいね。私はパスよ」


 ユリア、ヒルダ、シャーロットが順番に断った。

 俺はひとまず安堵する。


 と、その時、ユリアと目が合った。

 が、彼女はすぐに目線をカイザーへ戻した。


 なんか反射的に目を逸らしたように見えた気がしたが…気の所為だろうか。


「別にいいわよ」


「…ん?」


 なんか今俺達の中で了承したやつが居た気がしたんだが幻聴か?

 耳の部品が故障でもしたんだろうか。


「本当か?!」


 カイザーの嬉々に満ちた声が聞こえる。

 どうやら幻聴でも故障でもなかったようだ。


「ええ。少しぐらいならいいでしょ」


 ジブリエルが言う。

 まさかこういう色恋に関心がなさそうなジブリエルが言うとは思わなかった。

 これもこのカイザーが良物件だから成せることなんだろうか。


 そういえば、こうやって二人を見てみると二人とも目がオッドアイだな。

 ジブリエルは右目が翡翠色、左目が紫色。

 カイザーは右目が赤色、左目が黄色だ。


「やったぜ!」


 カイザーは拳をグッと握る。

 と、その時、


「ちょっと待ちなさいよ。あんたがお茶を楽しんでいる間、私達はどうするのよ?」


「イーストポートまで行ける馬車を探してちょうだいよ」


「はぁああ?! 私達だけ行って、あんたはお茶って狡いじゃないの!」


 またこの二人の言い合いか。

 仲がいいのか、悪いのか分からないよな。


 と、そんなことを思っていると、


「いいの?」


 ジブリエルが確かめるように言う。


「な…何が?」


 狼狽えながら言うシャーロット。


「私は心の声が聞けるのよ?」


「そ…それが何よ…」


 シャーロットは様子を伺っているようだ。

 だが、それを見たジブリエルは腕を前で組む。

 そして、


「あなたが隠してること言っちゃおっかな〜〜」


「べ、別に隠してることなんてないけど…?」


 動揺するシャーロット。


「ふ〜ん。じゃあ、言っていいんだ?」


「あ…いや…それは、その…」


「実は最近、シャーロットには気になって…」


「だぁああああああああ!!!!!」


 ジブリエルが何かを言おうとしたところをシャーロットが大声で止めた。


「あれ? どうしたの?」


「分かったわ。ジブリエル、行ってらっしゃい」


「そう? それじゃあ、お言葉に甘えて」


 ジブリエルはこういう時、頭が回るからな。

 敵に回さないのが大切だ。


「因みにそちらのお嬢さんはいかがですか?」


 と、カイザーはヒカリにも声を掛ける。

 が、勿論ヒカリは何も返事を返さないので、


「この子は獣人族だから見た目よりずっと若いんだ。だから、ダメだ」


「なるほど、それは残念。では、十年ほど経った頃にまた誘うことにしましょう」


 そう言ってカイザーはニコッと笑った。

 これが本当のナンパというやつなのかもしれない。

 初めて見たよ。

 ウェッヂとかカリムとかのあれはなんだったんだろうか。


 俺はそんなことを思いながら馬車に揺られるのだった。

見てくれてありがとうございます。

気軽に感想や評価、ブックマーク等をして下さい。嬉しいので。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ