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第八十三話 不運な盗賊

 馬車の時間があるので教会を出ることにした俺達はここを出る前に書斎へと来ていた。


「失礼します。ここにヴァルキュリーとクラリスは居ますか?」


 扉をノックしながら言うヒルダ。

 すると、中から


「はい。どうぞお入りください」


 と、クラリスの声が聞こえてきた。

 俺達は扉を開けて中に入る。

 すると、座って何かの書き物をするクラリスとそのすぐ側にヴァルキュリーが立っていた。


「もう出て行かれるのですね」


 書き物を終えたクラリスが話し掛けてくる。


「ええ。お世話になりました」


「昨晩は休めましたか?」


「はい。ヴァルキュリーさんが部屋を貸してくれたので」


 ユリアが返事をする。


「そうですか。それならよかったです」


「ここから東に向かうと言っていたが具体的にどこに向かう予定なんだ?」


 ヴァルキュリーが聞いてくる。


「東の大陸、エクスドットよ」


 シャーロットが答える。


「エクスドットまで行くのか…遠いな」


「まあね。でも私達は行かないといけないの。この世界を守る為に」


「…………」


 シャーロットの言葉に何か思うところがあるのか考えるヴァルキュリー。

 と、


「ここには私達しかいない。だから教えてくれ。シャーロット、あなたは恐らく魔人だろう。なのにどうして世界を守ろうと言うんだ? エクスドットには何があるんだ?」


 ヴァルキュリーはシャーロットの正体に気が付いていたからな。

 当然の疑問だろう。


「…私は確かに魔人だわ。でも一般的に言われる魔人と私は考えが違うのよ。私は戦いなんて望んでいない。エクスドット大陸にいるかもしれない魔王様を止めないと多くの血が流れるの」


「ふむ…」


「それがシャーロットさんの本心ですか?」


 クラリスが聞く。


「ええ。私は今の平和な世界がいいわ。あんな殺伐とした世界は嫌」


 シャーロットはあの人魔大戦の時代から今まで生きてきたからな。

 当時を経験した人が言うと言葉の重みが違う。


「そうですか…分かりました。私達も血が流れる世界は望んでいません。できるだけあなたに協力したいと思います」


 敵対関係にありそうな魔人とクライシス教の教皇が協力か。

 これは思わぬ収穫かもしれない。

 敵になるかもしれなかったのが味方になるんだからな。


「これを持って行ってください」


 そう言ってクラリスが渡してきたのは一枚の紙。


「これは?」


「これを持っている人はクライシス教の施設に簡単に出入りできます。もし何か困ったことがあったらこの紙を信徒に見せてください。きっと手を貸してくれる筈です」


「ありがとう」


 クラリスから紙を受け取ったシャーロットは少し嬉しそうだ。


「まあ、元から困った人には優しくというのが私達の宗派なんですけどね。これは私のお墨付きの証だとでも思ってください」


「よかったじゃない。これでなんかあった時の保険がまた増えたわね」


「また? 他にも似たようなことが?」


「ええ。色んなところを旅してきたから」


「そうか」


 これで何かあっても余程のことじゃない限り大丈夫そうだ。


「それじゃあ、そろそろ行きましょうか」


「そうね」


「送るよ」


 ヴァルキュリーが言う。

 すると、


「私も行きます」


「え?」


 クラリスも付いてくるらしい。


「教皇様も来ていいの?」


 ジブリエルが聞く。


「大丈夫ですよ。少しぐらい平気です」




 ということで俺達は教会から出て馬車の場所まで歩いて向かうことになった。


「なあ、これ本当に付いてきて良かったのか?」


 俺は周りの護衛達を見ながら言う。

 そもそもヴァルキュリーは馬車があるから馬車で向かおうと言ったのだが、それだとみんなでお話ができないとクラリスが駄々を捏ねた結果がこれだ。

 パッと見で執行官が二十人ぐらいいる。

 しかもヴァルキュリーもいるし、俺達もいるから正直護衛はこんなに必要ない。

 この街で一番安全な場所がここだろう。


「私はせっかくなのでお話がしたかったんですよ。こういった機会はないですからね」


「本来あっては困る」


 クラリスにヴァルキュリーが突っ込む。

 多分ヴァルキュリーはあまり外に出て欲しくないと思っていそうだ。


「ねえねえ、あなた達姉妹ってどうして教皇と執行官っていう立場になったの?」


 ジブリエルが聞く。


「私達の家系は代々教皇の家系なんです。だから、私達はどっちかが教皇になるのは生まれた時から決まっていました」

「私はヴァルキュリー姉さんが教皇になると思っていた。その方がいいって。私はそれを支えられればいいって」

「でも本人はそうは思っていなかったみたいで…」


「私は教皇に向いていない。その点、クラリスは教皇になる素質があると思っていた。ならわざわざ私が教皇をやる理由はない」

「私はこうやってクラリスを守るのが合ってる」


 なるほど。それで妹のクラリスが教皇になったってことか。


「ふ〜ん。なるほどね〜流石ヴァルキュリーお姉ちゃんは妹のクラリスのことをよく考えているわね」


「あれ? 私、お姉ちゃんって言ってた?!」


 クラリスがしまったという顔をしている。

 すると、ヴァルキュリーがやれやれという顔で、


「前にも言っただろう? ジブリエルは人の心の声が読めるんだ。クラリスは言ってないよ。ジブリエル、あなたはイタズラが好きなようだな」


「弟を揶揄うのがお姉ちゃんの楽しみだったので」


 たちが悪いなこの姉。


「姉妹で仲がいいんですね」


「まっ、まあね〜」


「ん?」


 ユリアが聞くとクラリスが恥ずかしそうに言う。

 周りには信者達もいるしな。

 お姉ちゃん呼びしてるのがバレるのは恥ずかしいか。


 と、その時、


「なんで私の場所がバレたんだよ…ぐあっ!?」


 道からいきなり飛び出してきた女性がヒルダとぶつかり尻餅をついた。


「いててて……えっ……」


「あっ……」


「あの…大丈夫ですか?」


 ヒルダが手を差し出しているその女性は見たことがあった。

 俺達の部屋で盗みを働いたあの盗賊、ロスティーナだ。

 と、その時、周りにいた執行官達が一斉に抜剣する。


「ほう…こんなところで会うとは奇遇だなロスティーナ?」


 剣を抜きながらロスティーナを見下ろすヴァルキュリー。

 すると、この現状に絶望したのか見る見るうちに瞳が潤んでいく。


「どうしてこうなるの…? もう終わりだ……」


 なんかあまりにも不憫だな。


 と、そんなことを思っていると、ロスティーナの来た道から遅れて二人やってきた。


「あっ…」


「捕まってたか…」


 ジュリーとディーべだ。

 二人がどうしてここに?


「ロスティーナ。大人しく捕まれば手荒な真似はしないぞ?」


「はい……ごめんなさい……」


 ロスティーナは大人しく両手を前に出す。

 すると、執行官が手錠を出して彼女に錠をする。


「私はクラリスの護衛があるから詳しくは後で聞こう。先に彼女を教会の檻に入れておいてくれ」


「はっ!」


 それからすぐにロスティーナは連行された。


「まさかあれがロスティーナだったとは…」


 ヒルダが言う。


「どうしてこんなところにジュリーさんとディーべさんが?」


「僕が彼女の居場所を聞いたから二人で追ってたんだよ。詳しくは言えないけど」


 居場所を聞いたか。誰にだろうか。

 話を聞きたいが今は他人の目があるからな。

 話す内容は気を付けないといけないし、俺達は馬車の時間がある。

 話は出来そうにないな。


「そう。まあいいわ。私達、この街を出るところなのよ」


「そうでしたか。気を付けてくださいね」


「ええ」


「皆さんもお気を付けて」


「ああ」


 それからジュリーとディーべとの会話も程々に馬車の場所まで向かった。

 長く話してボロが出たら二人がこの街に住めなくなるかもしれないし、ここを出る前に話ができただけでもよかったと思おう。


「それじゃあ、皆さんお気を付けて」


「はい。クラリスさんもヴァルキュリーさんも」


「ああ」


「じゃあまたいつかね」


 そう言って馬車へ乗り込むジブリエル。

 それに続くようにどんどん乗り込んでいく。

 と、


「シャーロット」


 ヴァルキュリーがシャーロットを止めた。


「あなたのような者がいることを覚えておく」


「…どうも」


 シャーロットはそれだけ言って乗り込んだ。


「ヒカリちゃん」


 今度はクラリスがヒカリを止めてきた。

 名前知ってたんだな。


「色々あると思うけど、困ったらみんなを頼るのよ」


「……」


 相変わらずヒカリは何も言わない。


「俺達が責任を持ってヒカリを守るから大丈夫ですよ。な?」


「……」


 ヒカリはこちらを向くが何も言わない。


「それじゃあ。ありがとうございました」


「はい」


「ああ」


 それから俺とヒカリは馬車に乗り込んだ。


「それではドラグナー行き出発します」


 こうして俺達はクライシス神聖国を出立した。


 結局、キリコの謎の黒い手といい、ロスティーナに盗ませたという本とか分からないままだ。

 そこら辺のことはヴァルキュリー達が調べてくれるだろうから任せるしかない。

 俺達は魔王復活を阻止しないとな。

見てくれてありがとうございます。

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