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第八十二話 無差別殺人鬼(後編)

「これは一体…」


 ヴァルキュリーがキリコの黒い右手を見て呟く。


「どうやら見守るだけではいられなくなりましたね」


「あの不気味な手は何…?」


「……」


 警戒しながら不気味に思う俺達。

 もしかしてこれも魔王が関係しているのか?


「なあ、シャーロット。これは魔王の仕業によるものなのか?」


 俺はシャーロットに聞いてみる。


「……私も魔王様の全てを知っているわけじゃないわ。だけど、私が知っている魔王様の魔法や技でこんなものは無かったわ」


「……」


 だとすると、これは一体なんなんだ。

 魔王が封印されていた二千年の間で何か新しいものを作り上げたってことか?


「今のうちに邪魔者は死んでもらおうかな」


 そう言うとキリコは黒い右手を包囲している執行官達に向かって薙ぎ払った。

 しかし、黒い右手が執行官達を切り裂こうとしたまさにその時、紫色の光がそれを止めた。

 ヒルダだ。


「流石。速さは光一ね」


「これがわたくしの取り柄ですから」


「ウフッ。いいね、いいね。そう来なくっちゃ」


「悪いが君達も力を貸してくれ。あれは私だけでは対処しきれない」


「分かりました」


 俺達は顔を合わせて頷く。


 ということで俺達も戦闘に参加することになった。

 陣形は特に決まってないがヒルダとヴァルキュリーが前衛。ユリアとシャーロットとジブリエルは後衛。

 執行官達はここからキリコを逃さない為に包囲を続けるみたいな感じになりそうだ。


 でだ、問題は俺がどうするかだ。

 ヒカリを連れて前衛は行けない。

 でも、そうなると俺は何もできない。

 ヒカリに伝えて分かってくれるといいんだが……。


「なあ、ヒカリ。俺は戦わないといけない。でも、危険な戦闘にお前を巻き込む訳にはいかない。だから、ヒカリ。俺から離れて待っててくれないか」


 俺はヒカリの目をまっすぐ見て言う。

 が、ヒカリはとても不安そうな顔をしている。

 ダメか……。


「……」


 そう思っていたがなんとヒカリが首を縦にコクリと振った。

 あのヒカリが明確に反応したのはこれが初めてじゃないだろうか。

 いつもは何も反応しないからヒカリの好きなようにさせてたけど…そうか、ヒカリも見えないだけで頑張っていたんだな。


「いってきます」


 俺はヒカリにそう伝えて前衛の位置へ向かった。


「まだ動かすのが難しいなぁ…」


 キリコが黒い右手を動かしながら言う。

 どうやらまだあの黒い右手には慣れていないらしい。

 なら、慣れる前に彼女を無力化したい。


「わたくしとヴァルキュリーとソラで同時に攻めましょう。ユリア達は隙を見て攻撃魔法を」


「分かったわ」


「随分警戒してるね?」


「当然です。得体が知れないですから」


「そう。まっ、私はあなた達を殺すだけだけどね。本当はこの金槌で殺すつもりだったけど」


 そういえば、殺された人達は全員鈍器のようなもので殺されていたと言っていたな。

 彼女なりの殺しのルールでもあったんだろうか。


「ソラ、ヴァルキュリー、やりますよ」


「分かった」


「ああ」


 俺は全身に青い炎を纏う。


「変な炎ね?」


 キリコが不思議そうに俺を見る。


「まあ、いいや。やる気みたいだし。早速始めちゃおっか」


「「「…!」」」


 俺達は警戒する。

 すると次の瞬間、キリコが動いた。

 黒い右手を使いヴァルキュリーへ攻撃する。

 それをヴァルキュリーは躱した。


 と、同時に俺とヒルダは走り出した。


「『紫電猛進』」


 まずはヒルダがキリコへ一気に距離を詰め刀を振り切る。

 が、キリコはその攻撃を黒い右手を使って防いだ。


「っ…!」


「アハ」


 睨み合う二人。

 やはり力はキリコの方が上なのかヒルダが押され気味だ。

 俺はヒルダに加勢する為キリコの背後から拳を殴り付ける。

 しかし、


「っ!!!」


 キリコは振り返り持っていた金槌で俺の拳を止めた。

 どうやら背中の黒い腕とキリコ本体はそれぞれ独立した動きができるらしい。

 厄介だ。

 その時、


「『ダークライトニングボルト!』」


「『ライトニングボルト!』」


 黒い稲妻と白い稲妻がキリコに放たれる。


「ぐああ…!!!」


 俺とヒルダの攻撃によって防ぐ術がなかったキリコにユリアとシャーロットの魔法が当たる。

 彼女の体は痙攣し、黒い煙が上がる。


「今だ!」


 ヴァルキュリーの掛け声と共にみんなが一斉に攻撃を仕掛ける。


「『テンペスト!』」


「『ライトニングボルト!』」


「『ダークショックボルト!』」


「『刹那の太刀!』」


「『終熄の太刀!』」


 それぞれがキリコに向かって攻撃を仕掛ける。

 俺も攻撃を仕掛けるつもりだがやり過ぎれば彼女を殺してしまう。

 みんなもそれは分かっている筈だ。

 彼女を殺さないように。でも、彼女を無力化できるぐらいの力。


「『カオス・インパクト』」


 俺は右手に青い炎を集めて加減しながらキリコへ攻撃を仕掛ける。

 俺の拳、ヒルダとヴァルキュリーの剣、シブリエルとユリアとシャーロットの魔法が一気に彼女へ迫る。

 その瞬間、


「はああああ!!!」


 彼女の黒い右手が俺達の攻撃を全て弾き飛ばした。


「っ…!?」


 受け身をとってキリコの方を見ると黒い右手が彼女の体を侵食し始めている。

 様子が少し変だ。

 もしかして右手に乗っ取られ始めてるのか?


「様子が変ですね」


「あの黒い手はなんなんだ…」


 黒い右手がどんどん彼女の体を侵食している。


「うっ…ぐぁ……」


 キリコが苦しみ始めた。

 これ以上は命に関わる気がする。

 早くなんとかしてあげないと。


 と、その時、青白い幾何学模様が空に浮かび上がった。


「クラリスか…」


 ヴァルキュリーのそんな声が聞こえる。

 クラリスが何かしたんだろうか。

 この街全体を覆っているが…。


 と、その時、キリコの様子が落ち着いた。

 もしかしたらあの幾何学模様が何か影響しているのかもしれない。

 そう思っていたのだが、次の瞬間、シャーロットが膝をついた。


「シャーロット! 大丈夫か?」


「ええ…」


「……」


 シャーロットを見つめるヴァルキュリー。

 が、すぐにキリコに向き直す。


「ヒルダ、あの黒い手だけを斬れるか?」


「勿論です」


「そうか。では、斬るぞ!」


「…分かりました」


 そう言うとヴァルキュリーとヒルダが剣を構える。

 そして、


「『終熄の太刀!』」


「『刹那の太刀!』」


 冷気を帯びたヴァルキュリーの剣と電気を帯びたヒルダの刀がキリコの黒い右手で交差した。

 その瞬間、黒い右手が宙を舞う。


「っ……」


 キリコは力の源を失ったようにパタリと動かなくなりその場に倒れた。


「はあ……とりあえずなんとかなったな」


 と、その時、斬られた黒い右手が燃えて灰になる紙のように消えた。


「ふう…」


 ヒルダが体の電気を解いて刀を鞘に収める。


「シャーロット、大丈夫?」


 ユリアの心配する声が聞こえる。


 そうだ、シャーロット!


 俺は彼女の元へ駆け寄る。


「大丈夫か?」


「ええ…」


 どうやら力が抜けて膝をついたらしい。

 でもどうしてだ?

 と、そう思っていると、


「この空の幾何学模様は魔物や魔人などの魔族に対して効果のある魔法陣だ」


 シャーロットに近付いてきたヴァルキュリーが語る。


「つまり、これによって力が抜けるということは…」


 まずい。

 だとするとシャーロットが魔人だということがバレてる。


 俺はヴァルキュリーの前に立つ。


「…………」


 ヴァルキュリーは何も言わない。

 が、俺をまっすぐ見つめる。


「…どうやら足を怪我していたらしい。早く手当してやるといい」


 そう言うとキリコの方へと歩き出す。

 どうやらヴァルキュリーは俺達を見逃してくれるみたいだ。

 ありがたい。


「ありがとうございます」


「……」


 ヴァルキュリーの横を通るヒルダはそう伝えるとこっちに近付いてきた。


「さて。みんなは宿の修理を頼む。手が余った者はいつもの仕事にもどってくれ。何名かは私と一緒に。キリコを連れて行く」


「「「はい!」」」


「そうだ。宿は使えないだろうからな。教会の部屋を貸そう。君達も付いてきてくれ」


 確かにそうだけど、シャーロットのことを考えると心配だ。


「分かりました」


 ヒルダが返事をする。


「何かあったらわたくしが守ります」


「分かったわ。野宿するよりいいでしょう。それに彼女も私達を襲おうとは考えてないわ」


「そうか…分かった」


 ヴァルキュリーのことを信用しよう。




 それから教会に向かうことになった俺達は歩いて向かっていたのだが、


「ねぇ…恥ずかしいんだけど…」


 力が出せないシャーロットの為に俺が負んぶをして向かうことになっていた。


「あら? いいじゃないの。羨ましいわ〜、ね? ユリア?」


「えっ? ん〜そ、そうかな?」


「羨ましいわけないでしょう?」


「それはどうかな〜」


「私に付いてきてくれ。部屋まで案内する」


 教会に着いてヴァルキュリーが言う。


 それから彼女に案内されて着いたのはとある部屋。


「ここは私の部屋だ。何か問題になっても面倒だからな。ここがいいだろう」


 どうやらシャーロットのことを考えて配慮してくれたらしい。


「でも、ベッドがないから悪いが床に布団を敷いて寝てくれ」


「ありがとう」


「それはお互い様だ。私はこれからクラリスのところに行って問題が解決したと伝えてくる。その後はキリコの様子を見てくるからここには戻ってこない」


「分かった」


「ではまた明日」


「ああ」


 それから俺達はヴァルキュリーの部屋へ入る。

 部屋には彼女が寝ているであろう天蓋付きのベッドが一つある。

 他にも本棚や机、鏡など色々あるが余計な物は置いてないって感じだ。


「それじゃあ、疲れたし。さっさと布団敷いて寝ましょう」


「ああ。シャーロットはどうする? 先にベッドで寝るか?」


「えっ、ああ、うん」


 俺はシャーロットをベッドへ下ろす。


「ここまで運んでもらってこういうベッドで寝るなんてまるでお姫様みたいだな」


「うるさいわよ!」


 俺が揶揄うとシャーロットは毛布を被って不貞腐れた。




 次の日の朝。

 俺は衝撃と共に目が覚めた。

 寝ぼけた目を擦りながら周囲を見る。

 すると、衝撃の犯人がすぐに見つかった。

 俺の腹の上にヒカリの足が乗っていたのだ。

 今までヒカリの近くで寝ていたがこんなことは初めてだ。

 俺は珍しいなと思いながら起きることにした。


 閉じられていたカーテンを開けて太陽の光を浴びる。

 いい天気だ。

 そういえば空の幾何学模様がなくなってるな。

 クラリスがキリコを捕まえる為にやってくれたみたいだけどあれはなんなんだろうか。

 まあ、ここを出発する時にお礼をするだろうから時間があれば聞いてみよう。


 それからしばらくして全員が起きた。

 昨日は力が入らないと言っていたシャーロットも今は平気らしい。


「みんな起きているか」


 部屋の扉がノックされた。


「はい」


 ユリアが返事をすると扉が開いた。

 そこにはヴァルキュリーが立っていた。


「失礼する。昨日は眠れたか? すまないな、床に寝させてしまって」


「いえ、泊めてもらえるだけでもありがたいです」


「そうか。ふむ…どうやら調子が戻ったようだな」


 シャーロットを見て言うヴァルキュリー。


「……おかげさまでね」


「ならよかった。朝食を用意したから食べてくれ、と言いたいところだがその前に。みんなに聞いて欲しいことがある」


「聞いて欲しいこと?」


 なんだろうか?


「私も薄々そんな予感はしていたんだが…キリコは昨日の夜のことを覚えていなかった」


 夢遊病みたいなことを言ってたもんな。


「では、あの黒い手は分からず終いですか…」


「今のところな」


 あの黒い手は一体なんだったんだろうか。

 魔王の何かだと思ったんだがシャーロットは知らないと言っていたし、謎が多いな。


「シャーロット、本当に知らないか?」


 ヴァルキュリーが聞く。

 が、シャーロットは首を横に振り、


「残念だけど知らないわ。あの不気味な黒い手は初めて見た。本当よ」


「……そうか」


 ヴァルキュリーが少し残念そうな顔をする。


「キリコはどうなるの?」


 ジブリエルが聞く。


「彼女には申し訳ないが檻の中で厳重に監視している。またあの黒い手を出されたら大変だからな」


「そう」


 当然といえば当然か。

 一応深夜にしか殺人を起こさなかったとはいえ何があるか分からない。

 昼間にいきなり人を殺し始めたでは手遅れだからな。


「まあ、キリコのことは我々に任せてくれ。今、朝食を持ってきてもらうよう伝えておく。この街を出発する時は教えてくれ。見送るよ」


「分かった」


 数日しかいなかったのに随分長く居たように感じた。

 色々な事件に巻き込まれたしな。

 そういえば結局ロスティーナは見つかってないが、もうこの国からもう逃げてしまったんだろうか。

 でも街の出口には門番もいるし、意外とまだ街の中にいたりするんだろうか。

 まっ、ヴァルキュリー達がそこら辺はどうにかしてくれるだろう。

 俺達はこれから旅のことを考えないとな。

見てくれてありがとうございます。

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