表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
85/155

第八十一話 無差別殺人鬼(前編)

 月明かりで薄ら見えるキリコの表情。

 彼女の表情は教会で見た時とは明らかに違う。

 その目は人を殺しそうな殺人鬼の目だ。


「ンフっ」


 ニヤリと笑いながらゆっくり歩き出すキリコ。

 ていうか、どうやって入ってきたんだ。


 いや、今はそれどころじゃない!


「敵だぁぁあ!!!」


 俺が大声で叫ぶ。

 すると、それと同時にキリコが金槌を大きく振りかぶって飛び上がった。

 その先にはヒルダが寝ている。

 狙いはヒルダか。


「ヒルダ!!!」


 俺は彼女の名前を叫ぶ。


「アハハ」


 彼女は悦びに満ちた声を漏らす。

 そして、次の瞬間、ヒルダに金槌を振り下ろした。

 このままだとヒルダが殺されてしまう。

 俺はそう思ってベッドから飛び降りるが間に合わない。

 が、その時、


「うるせぇな…」


 寝起きで機嫌が悪いがヒルダが起きた。

 その瞬間、ヒルダは自分に振り下ろされた金槌を両手を使ってタイミングよく止めた。


「へぇ…凄いね」


「お前はあの時の…」


 ヒルダがキリコの正体に気が付いて驚く。


「キリコ!?」


「どうして彼女が?!」


「どういうこと?!」


 どうやら寝ていた三人も俺の声で起きたらしい。


「チッ」


 キリコが舌打ちをする。

 俺はヒルダを助けようとキリコに向かって左足を蹴り付ける。

 が、彼女はそれを見越してヒルダの金槌を止めている手を足で弾くと窓の方へ躱した。


「せっかく箔が付くと思ったのにこれじゃあ割に合わないじゃない」


「どうしてこんなことをするんだ?!」


「どうして? 楽しいからよ! 殺すのが楽しいから。あの人から流れる赤い血が…私を興奮させるの…」


 両手を顔に当て恍惚とした表情で言うキリコ。

 彼女の様子を見る限り本当のことを言っているのだろう。

 しかし、彼女が無差別殺人の犯人だなんて…。

 教会で会った時はキリコからはそんな声は聞こえなかったってジブリエルが言っていたのに一体どうして……。


 と、その時、部屋の扉が勢いよく開いた。


「動くな! キリコ! お前が無差別殺人の犯人だな!」


 部屋に入って来たのはヴァルキュリーだ。

 どうしてここに来たのかは分からないがどうやら事情を分かっているらしい。


「あらあら。これは流石に困ったわね」


「他の執行官も呼んでいる。お前はもうおしまいだ」


「フフ…アハ…アハハハ……アハハハハハ……アハハハハハハ…」


 彼女の壊れたような笑い方が部屋に響き不気味だ。

 と、そんな彼女に、


「何がおかしい。頭でもおかしくなったのか?」


 ヴァルキュリーが言う。

 すると、


「ううん。頭は元からおかしいけどそうじゃない」


「……」


「私は終わらないわ。終わるのはこの子」


 どういうことだ。

 キリコは一体何を言っているんだ?


 そう思っていると、


「やはり…お前はキリコではないな?」


「は?!」


「えっ!?」


「「…?」」


 ヴァルキュリーの言っていることが俺達は分からない。

 どう見ても彼女はキリコだ。

 教会で見た銀髪のショートヘアーで澄んだ空色の瞳。

 夜だから分かり辛いが間違いなく彼女はキリコで間違いない。


「さっきからキリコから心の声が聞こえない。もしかして、キリコは夢遊病なんじゃない?」


 ジブリエルが言う。

 夢遊病って確か寝ている間に起き上がったりするっていうあの夢遊病か?

 でも、彼女は明らかに目が覚めているように見える。

 会話もできているし、ヒルダを狙って金槌で攻撃していた。


「私もそう思っている。クラリスにどうしてキリコが書斎にいたのか聞いてみたら最近眠りが浅くて困っていると聞いてな。もしかしてと思って警戒していた」

「そしたら案の定この通りだ。だが、恐らく彼女の夢遊病は普通の夢遊病ではない」


「どういうこと?」


 シャーロットが聞く。


「ここまでハッキリとしている夢遊病は聞いたことがない。私は悪魔憑きのようなものだと考えている。例えば、数ヶ月前に復活したという魔王の影響とかな」


 確かにその可能性はあるかもしれない。

 魔王が復活したことによって何か世界に影響がでるみたいなこともあるんじゃないだろうか。

 例えばあの空の亀裂だってその内の一つだ。


 そう思ってシャーロットの方をチラッと見てみる。

 すると、シャーロットが複雑そうな顔をしている。

 もしかして何か心当たりでもあるんだろうか。


「うんうん。なるほどね。大体当たりかな」


 キリコが言う。


「大体? どこか違うところがあるのか?」


「う〜ん、違うというか、知らないってのが正しいかな。私は気が付いたらキリコだったから」


「……それでどうして人を殺した? キリコがそう望んでいたとでも言うのか?」


「ううん。キリコはいい子だもの。そんなこと思わないわ。殺したいと思うのは私。人を殺して悦びを感じるのも私。血を見て興奮するのも私」

「聞こえてくるの。声が」


「声…?」


 訝しげに聞くヴァルキュリー。


「そう。聞こえるの。人を殺せって」


「信じ難いな」


「でも、聞こえるんだもん。私はその声に従っているだけ」


「ふむ。嘘か本当かは分からない。だが、だからといって人を殺していいわけではない」


 そう言って剣をキリコへ向けるヴァルキュリー。


「ウフ。同じ信者のキリコを殺す気?」


「加減はするさ。 魔法剣、氷刀! 『終熄の太刀!』」


 ヴァルキュリーの持っていた剣から冷気を感じたと思った瞬間、キリコが窓を割って外へ逃げようとした。

 しかし、ヴァルキュリーはそんなことはお構いなしと剣を振り下ろした。

 すると、その太刀筋に氷の結晶ができ、壁ごと窓を破壊した。


「逃がさない」


 そう言うとヴァルキュリーは壊した部分から外へ出た。


「俺達も行くぞ」


「ああ」


 俺達もすぐにヴァルキュリーの後を追う。


 壊れた部分から外へ出るとそこには金槌を構えたキリコと剣を構えたヴァルキュリーが向かい合っていた。


「一つ問おう。どうしてロスティーナを逃した?」


「ああ。どうしても盗んで燃やして欲しい本があったから」


「本…?」


「私も詳しく知らないから聞かれても後のことは知らないわよ」


「そうか…まあ、後で聞こう」


「ウフ」


 わざわざ盗んでまで燃やして欲しい本ってなんなんだ?

 と、俺が考えていると、


「ったく…俺の睡眠を邪魔しやがって……」


 そう言いながら刀を抜くヒルダ。

 すると、ヒルダの体を紫色の光が包んだ。


「おい、ヒルダ。殺したらダメだからな?!」


「うるせぇな。分かってるよ。魔法剣、雷刀『刹那の太刀』」


 刹那。ヒルダの姿が消えた。


「なっ?!」


 次にヒルダの姿が見えた時、彼女の刀は弾かれていた。


「速いね…でも、力が足りないんじゃない?」


 どうやらキリコが金槌を使ってヒルダの刀を弾いたらしい。

 あの見えない攻撃を止めるなんて、いくらヒルダが手加減をしていたとしても信じられない。


「チッ。どんな握力してやがる」


 舌打ちをし機嫌が悪そうなヒルダ。

 と、


「ここは私がやる。このクライシス神聖国の執行官隊長として、この国のことは自分達でなんとかする」


「……そうか」


 そう言うとヒルダは刀を鞘へと納めると体から紫色の光が消えた。


「さて。では、キリコ。お前を捕まえる」


「アハハ。できるものならどうぞ?」


 それからキリコとヴァルキュリーの戦いが始まった。

 最初に仕掛けたのはヴァルキュリーだ。

 彼女は冷気を帯びた剣を振り下ろす。

 すると、先程と同様に剣の太刀筋に氷の結晶ができる。


「そんな魔力の使い方あるんだね」


 キリコはヴァルキュリーの氷の攻撃を躱しながら徐々に距離を詰める。

 どうやらキリコは接近戦で勝負を仕掛けるらしい。

 武器が金槌だからだろう。


「はぁぁああ!!!」


 キリコが金槌を振り下ろす。

 それをヴァルキュリーが剣で受け止める。

 武器を挟んで睨み合う二人。


「キリコにこんな力はない筈だ。どうしてお前はこんな馬鹿力なんだ…?」


「それは私にも分からないよ!」


 剣を弾いて追撃するキリコ。

 その攻撃を躱して一旦距離をとるヴァルキュリー。


「私達何もしなくていいの?」


 ジブリエルが戦うキリコとヴァルキュリーを見て言う。

 確かに手伝った方がいいのは明らかだ。

 だが、


「彼女は自分達でなんとかすると言ったのですから見守るのが彼女への配慮です」


「そうだな」


 俺もヒルダと同意見だ。

 本当にヤバそうだったら助けよう。


 と、その時、大量の足音が聞こえてきた。


「あらら。お友達が来ちゃったかな」


 俺達を挟むようにヴァルキュリーと似た黒い服を身に付けた集団が現れた。

 執行官達だな。援軍だ。


「ヴァルキュリー様! 遅れました!」


「ああ」


 これでキリコの逃げ道は無くなった。

 絶体絶命のピンチってやつだ。

 だが、それでも彼女の表情にはニヤリとした笑みがある。


「ねえ、どうして私が深夜に人を殺してたと思う?」


「……」


「どうして毎日殺してもよかったのにそうしなかったと思う?」


 なんだろう。

 心がざわざわする。

 これは不安だろうか。恐怖だろうか。

 それとも彼女が不気味だからだろうか。

 分からないがどれも外れではないと思う。

 何故かは分からない。

 が、俺は何か嫌な予感がした。


「それはね。こういう時の為に本気を出す為だよ」


 雲から月明かりが漏れて彼女を照らす。

 と、その時、


「う……っ……」


 彼女が突然苦しみ出した。


「…今のうちに無力化する!」


 そう言ってヴァルキュリーが駆け出した。

 が、次の瞬間、キリコの背中から黒い何かが飛び出してヴァルキュリーを弾き飛ばした。


「アハハハ。全員皆殺し…」


 恍惚とした表情で言うキリコ。

 その彼女の背中からは黒い不気味な右手が生えていた。

見てくれてありがとうございます。

気軽に感想や評価、ブックマーク等をして下さい。嬉しいので。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ